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遠い記憶。

皆さまおはようございます!


それでは2話、٩( 'ω' )و行って参ります!

(この物語はフィクションです。実在の事例、国、人物と、この物語は関係ありません)




【2033年、イバラキ。ヒト腹創】




【――日本は、この合衆国にSAMURAIを見せてくれた! わたし達を守るSAMURAIという盾をね!――】


「侍が『盾』なんか使うかバ~~カ」


 中古のブラウン管が、合衆国のスペード氏を映している。先日、日本うちに撃ち込まれた弾道ミサイルに対して日本を『優秀なる盾』と評価していた。日本という国は、今や合衆国のユーラシア前線基地となっている。


 2033年、今この日本を統治しているのは合衆国だ。旧イバラキの『ヒタチナカ』を護る組織『国防軍』も合衆国の統治下にある。だが合衆国の『国防軍』は一介の戦力として機能していない。結果、街の民間団体がボク達『化け物クリエイターズ』に治安を依頼しにくる。


 依頼である『外敵排除』の対象は西から来た私兵がその大半だ。その略奪行為から街を守り土地を守り『俺たち金持ちの』命を守れ! という。


 内外の敵をボク達は『化けキメラ』を用い撃退している。示威の為チカラを保有し立ち向かった。




 その日は風が強かった。


 西から東への風が強く流れていた。


 通報を受け駆け付けた『金井宅』上には、金井宅を破壊してのさばる巨大なネズミ?(体長10mはある)が3匹、ボク達チーム『化けクリ』のメンバーを威嚇していた。


「行くよ! みんな!」


「ちょっと待ってくれ、『みれい』」


 気負う『みれい』に待ったを掛ける。何か、いつもと違う何かを感じた。直観的なものだ。肺の底がびりびりする。


「何よ? 怖気づいたの?」


「……違う。ビンゴかもしれないんだ」


 採取、回収隊長である『楽々(らら)』に修理仕立ての無線を繋げる。


「『楽々(らら)』! 気を付けてネズミ野郎から細胞を採取してくれ! 直接採取は許可出来ない」


「はいよ総隊長! って、こいつら素直に止まっててくれないけどね」


『楽々』が採取銃を『化け物ネズミ』へ撃ち込む。怯まず躱すネズミの体組織を、歩み、すれ違い様にボクがメスで切り取った。腰から出したビニールへ手袋ごと『ソレ』を放り楽々へ投げ放つ。


「『楽々』。今度は頼むからね。こいつが持ってるのが『Yersinia pestis』か否かそれだけを確認しろ。10秒やる」


「総隊長は注文多いですね~。10秒了解!」


「総員退避! 対象から一定の距離をとれ!」


「出ました! 『是』です」


 世界の音が化けネズミの歯ぎしりを残して消え去った。声が、しんと消えてこの心を重く満たしていく。


「――奈久留なくるの仇! そう判断していいのよね」


 静かに『みれい』の肩が震えていた。凍りつくような眼差しだった。その足と全身は今にも地を揺らそうとしていた。


「――当たりか、当たりじゃないのかを問われたら、『エルシニア・ペスティス』だった、と答えざるを得ないね」


『ペスティス』。それはボク達から親友を奪った病原菌の名。それを保有する奴ら、そいつらこそがボク達の未来をめちゃくちゃにした張本人、ずっと追っていた『親友の仇』に違いなかった。




※※※




 6年前のボクらは幸せだった。




「おいお前、職業『医者』ってなんとかなんねぇのか? 僧侶とか賢者とか、色々あるだろ!」


 親友の『緋色ひいろ』がボクをなじる。


「うるさいなぁ。『医者』だっていいだろ? ほら、『メス』で切りかかって、『輸血』で回復。イカシてるじゃないか? そもそも雇い主に向かって『お前』って、お前こそ何様だよ?」


「勇者『ヒイロ』と、医者?『ツクル』が仲たがいしておるわ! あたし、ち、違った、この、北の魔女『ナクル』が『ミレイ』姫をさらって、ごにょごにょしてくれるわ~♪」


「た、助けて~♪ 緋色ひいろ~♪」


「ず、ずいぶん嬉しそうな囚われの姫ね。あ、あたしがお前を、ごにょごにょしてやるわ」


「ちょ、やめなさいよ『奈久留なくる』! 助けて~『緋色ひいろ』~♪」


 ボク達は幸せだった。本当に。


 RPGごっこをするボク達。勇者『ヒイロ』の持つ『木の棒』が魔女『ナクル』の居る方向に向かってくうを切る。


「北の魔女『ナクル』よ、この聖なる剣に裁かれるがいい!」


「うわぁぁあぁああ!」


『奈久留』の断末魔の声。そして、倒れるフリをする『奈久留』を背に『緋色』が手を掲げてみせる。


「みんなぁ、おやつのパイが焼けたからお出で~!」


 そこに実の姉『市原祈いちはら いのり』の声が響いた。


「やった! いのり姉ちゃんサンキュな!」


「ひ、他人ひとの姉ちゃんを気安く『姉ちゃん』呼びするんじゃねぇよ。殺すぞ、『緋色』」


「うっめぇ! いのり姉ちゃんのパイ最高!! 俺、姉ちゃんの婿にならなってもいいぜ!」


「……こ、殺す」




 平和だった。ボク達はいつまでも。それは永遠に続く。そう思っていた。


 風が強い秋の日だった。10月10日、水曜日。雲の多い空が見えた。




「おじちゃん! 奈久留が、奈久留がおかしいんだ! お願いだよ、すぐ診てくれよ!」


「緋色。父さんは順番待ちの患者さんを抱えてるんだぞ? それに、奈久留がおかしいのなんて今に始まった事じゃ」


 その日、緋色はボクを撥ね退けて父に迫った。鬼気を孕んだ目が大きく開かれ父を見上げている。


「おじちゃん! おじちゃん!!」


 その腕が白衣を掴み、父を大きく揺さぶった。


「今行く」


 父は聴診器を首に巻き緋色と外へ出て行った。地主であり医者であった父は、離れに緋色と奈久留を住まわせていた。だが何の気が変わったのか、10日ほど前、父は離れから知り合いの家へ奈久留の住まいを移させた。


 新しい奈久留の家にボクはその日初めて足を運んだ。小ぎれいで机が一つだけ置かれた、何もない部屋だった。その床に奈久留と茶色い毛だけが落ちていた。


「奈久留。お前、何食べたんだよ?! っていうか、何も食べてなかったのかよ?!」


 緋色に詰問に、体中を黒くした奈久留が応える。チカラなく、肌の黒によく映える白の歯が微笑んでいた。


「お腹空いてて、知らないおじちゃんが、こ、これクレタの」


 その横たわった腕の、小さな指の中には、――ネズミと思われる尻尾が握られている。


「奈久留! 何でそんなモノを口にしたんだ! ご馳走なら、頼んでくれたらボクが! 幾らでも!」


 小馬鹿にするように奈久留が笑う。


「親友の、ボクが?」


「そうだよ! ボク達親友だろ?」


 ボクの必死な訴え、チカラをこめた叫びにも、奈久留は応える事が出来なかった。


「それでも、あたし、やっぱり雇われ者だし、所詮『ジャンク』でしかないし……」


「もう、ジャンクじゃなくなったじゃないか! 父さんから『いずみ』って苗字を貰ったじゃないか!」


「それでも」


 黒く染まった頬は引き攣り強張っている。それでも気丈に、懸命に奈久留は答えてくれた。必死に目を開けボク達を見ようとしてくれた。


「自立。自給自足、しなきゃ。せっかく苗字もらったんだもん。自分で生きていかなきゃ」


 何処を見ても、身体の何処を見ても全てが真っ黒だった。全てを黒に染めて、彼女はまだ生き残っていた。


「お、おじちゃん! 頼むよ! 奈久留を助けてくれよ! お願いだよっ!!」


 父は、その時首を振った。地に頭を着けて奈久留の前で這いつくばった。


 惨めだった。チカラ持たない父を前にボクは情けない想いで胸がいっぱいだった。


「緋色」


 奈久留の声に顔を跳ね上げ、緋色は奈久留の腕を取る。


「奈久留! だ、大丈夫だ! おじちゃんは世界一の医者だ! 絶対奈久留を助けてくれる! 誓って! だ、だいじょう」


 その時、奈久留は不思議な事を緋色に問うた。


「緋色。あ、あたしキレイ?」


「え?」


「あたし、緋色から見て、あ、あたし、キレイ?」


 ボクにも分かった。それは緋色にも解ったんだろう。緋色もそれが奈久留の最期の言葉だと感じたんだろう。


「う、うん!! キレイだ! 世界一!!」


「なら」


 奈久留のソレは、真っ黒い、どす黒い、――最高の笑顔だった。


「あたしは、この『黒』を否定しないよ? この子たちは、あたしだけにしか迷惑かけてないんでしょ?」


 皆が見た父は、地に頭を付けたまま頷いた。


 優しい笑みで奈久留は言う。


「なら、あたしが愛したげる。認めてあげる」


 緋色は涙を止めなかった。ぼろぼろ、と果てる事なくソレを零した。


「だから――、今、あたしを殺して? お願い、……緋色」




 皆が手術着に着替えた。街は県単位で土壌、大気、水利、全てが滅菌された。後はボク達が彼女を始末するだけだった。奈久留から血が、体液が飛び散らないように飛沫がまき散らされないように、全て、……父『市原剛いちはら たけし』が設定した。


「奈久留は、――奈久留は強いな。誰よりも」


 白衣の中、目だけを見せて奈久留は笑う。十字架に括られ、隔離された彼女に向き合ったのは緋色だけ。ボク達はガラス越しに2人を見守る。それは奈久留の願いだった。


「でしょ? 1番でしょ? だ、だからお願い緋色。お願いだから」


「解った。俺が、誰よりも奈久留好きだから、だから俺が、俺が楽にしてあげる」


 緋色は(キリ)を握った。身体全てを抗菌された布で覆って、被った眼鏡から多くの雫を漏らして、――ソレを力強く突き刺した。


 ぽてり、と奈久留から赤がしたたり落ちる。緋色の白い着衣をその赤が止めどなく伝っていた。






「ひいろ、……だいすき」


 それがボクの聞いた奈久留最期の音だった。

第2話でした。


途中から過去の話となりますが、過去の2人、緋色と奈久留はもう少し出ません。


(о´∀`о)いずれ出た時には、どうか思い出してやってください!

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