僕の夢
僕の拙い小説をご覧になって下さる皆々様、誠に有難うございます。
初めての投稿ということで非常に手短な小説となっておりますので、是非是非、最後までお読み下さい。
1人の少女に話しかけられた。
名前は夢と言った。
「私、夢があるんです。」
初めて交わした言葉はそれだった。
名前通り期待通りで反応の余地もなかった。
「私の夢、それは、空を飛ぶことです。」
さらに何も言えなかった。
少女は小学一年生のようなキラキラした瞳で訴えていた。
無論僕は叶えてやれるはずもない。
それでも少女は訴えた。
「空を飛びたいんです。」
そうして僕に近づいた。
僕は半歩下がった。
するとまた少女は僕に近づいた。
僕はまた半歩下がった。
「駄目ですか?」
何が駄目で何が良いのか、空を飛ぶ許しを請うているのか空を飛ぶ方法を教えて欲しいのか、僕にはてんで分からなかった。けれど言った。
「勝手にしてくれ。」
そうして少女は去った。
これが少女、およそ中学二年生ぐらいのお転婆な女の子と僕の初めての出会いだった。
「海に潜りたいんです。」
翌日、少女は再び僕の元に来た。
名前は夢といった。
非常に夢のある女の子だった。
しかし昨日は空を飛びたいと言っていたはずだ。
「ああ、空を飛ぶことは諦めました、でも、新たな夢ができました。私、海に潜りたいんです。」
そういうことらしかった。
僕は別の意味で何も言うことはない。
でも言った。
「入ればいい。」
あたりまえだった。
海に入りたければ入ればいい。
それだけのことだ。
「違うんです。入るだけじゃ駄目なんです。入って、潜らなければ意味がないんです。」
意味がないというより意味が分からなかった。何からが入ることで何までが潜ることなのかよく分からなかった。少女は僕を見ている。
「なら潜ればいい。」
極論を投げつけた。
だがどうやら少女は受け取れなかったようだ。
キャッチボールは成り立たなかった。
しかし僕の暴投ではなかった。
「潜って、どうするんです。」
少女は質問した。
僕は動揺しなかった。
そういう女の子なのだ、と納得した。
心得て、その上で言った。
「潜ったら、上がるだろ。」
「そうですね。」
どうやら少女は理解したらしかった。
そうして少女は去った。
「地面を歩きたいんです。」
三日目も少女は来た。
名前は夢といった。
少女は夢にあふれていた。
どうやら昨日の海に潜るという夢は諦めたらしい。
「地面を、歩いてみたいんです。」
夢の難度は下り調らしい。
いや、むしろ夢の難度も少女の足裏も地べたにぴったりついている。
どうやら少女は夢という言葉を理解していないようだ。
自分の名前であるのにもかかわらず。
僕は言う。
「もう歩いてるよ。」
少女の足元を指差して言った。
少女は足元をみた。
まじまじとみた。
「歩いてないよ。浮いてる。」
少女はそう言った。
僕は馬鹿にされたのかと思った。
でも少女がよく見てというので、屈んで少女の足元をみた。まじまじとみた。見続けた。
どうやら少女は幽霊だったようだ。
少女はその後何も言わずに去った。
次の日、少女は来なかった。
その次の日も、来なかった。
その次の次の日も、翌週も、夢は来なかった。
そして今日、夢と初めて会ってから二週間、14日目。
僕は墓参りに行った。
夢が来なくなって少し経ってから、僕は夢について調べ始めた。
卒業アルバムや部活の先輩後輩、親戚の隅から隅まで、あらゆる全てを洗った。
そして一冊の古いアルバムを見つけた。
それは親が大事に保管していた僕のアルバムだった。
その中に一枚、河原に映っている少年少女の写真があった。紛れも無い、それは僕と夢だった。
そして僕はその時のことを鮮明に思い出した。
家族旅行先で、僕は夢に会った。
餓鬼だった僕と夢は早々に打ち解けた。
辺りの木々をかいくぐり、川の上流を横断し、二人でこれ以上ないほどの思い出を作った。時間は短いながら幸せだった。
しかし別れは突然やって来た。
別れというのは、僕の帰郷ではない。
亡き別れ、死別である。
夢は車に轢かれたらしい。
どうやら僕と遊んだ帰りに、轢かれそうになった小動物を助けようとしたようだ。そして轢かれた。轢かれ死んだ。
僕に、別れの言葉も言わないで。
「私、夢があるんです。」
墓前で線香をあげていると、ふと聞き覚えのある声が聞こえた。
「私の夢は、いつまでもあなたと一緒にいることです。」
僕は何も言えなかった。
言わなかった。
「あなたと共に過ごすはずだった時間を、とりもどしたい」
そう、目の前の少女は言った。
「まあ、僕もかな」
そう僕は言った。
彼女が別れの言葉を口にしなかったのは、おそらく、こういうことなのだろう、などと、解釈してみることにする。
どうやら僕も、ようやく彼女の夢を、叶える気になったようだから。