君は あー! という
君は あー! という。
そして うー! という。
仰向けのまま ご機嫌で 空をめちゃくちゃに蹴る。
蹴りながら 蟹のように あぶくだった涎を垂らす。
君は すぐ泣く。
嘘泣きだ。涙が出てない。
嘘泣きでも、ママは飛んでくる。
飛んでいかないと、
君の嘘泣きは、たちまち本物の涙に変わる。
君のお気に入りのオルゴールは
何百回もネジを巻かれ
繰り返し繰り返し同じ曲を奏でている。
ママは「もう沢山」とこぼしながら
君のためにまたネジを巻く。
君はママのおっぱいをつかむ。
片方のおっぱいをつかみ
ママと固く見つめあいながら
もう片方のおっぱいを飲み干す。
君は王様だ
誰もかもが君に笑顔を向け
拍手を送る
ママは誇らしげに 顔を輝かせている
君はまだ 拍手の意味を知らない
君はまだ ママが別の魂を持っていることを知らない
君はまだ 世界が君を待っていることを知らない
寝返りが打てるようになったら
世界は一歩 君に近づく
いつの日か
君は 我が子を見つめる
父親になる
そして涎を拭き
平らな自分の胸の乳首をくわえさせても
泣き止まない赤ん坊を
途方に暮れて
妻に手渡す