東京湾降雨実験の真実(1)
西暦 2100 年 5 月 14 日
「すなわち、我々の技術を使えば環境に大きな影響を与えることなく広範囲、かつ長期に渡って連続雨量 300mm の雨を降らせることが可能となります。」
名古屋気象大学の講堂で、東都理工科大学の大学院生東郷栄一は、気象制御工学始まって以来の大規模降雨実験の計画についてプレゼンを行っている。彼の博士論文のテーマは「大規模降雨制御による砂漠緑地化」である。
「サハラ砂漠での降雨実験に先立ち、東京湾での大規模な降雨実験を本年 7 月に予定しています。」
従来の方法でこれだけ大規模な実験を行えば、少なからず周辺環境に影響が出ることは、この分野の研究に携わる誰もが気づいていた。気象制御という概念が提案されて以来、だれ 1 人として環境問題の解決に役立てようとしてこなかった理由がそこにある。しかし今登壇している 1 人の大学院生は、その障壁を超えうる技術を発表しているのである。
「予備実験でその規模というのは、少しやり過ぎじゃないのかね?」
聴衆から質問が飛んでくる。
「我々は東都理工科大学キャンパス内でこれまで 50 回を超える小規模実験を行い、この技術の妥当性を検証してきました。確かに、これまでの実験と現在計画している予備実験との間にはかなり規模の違いがあることは否めませんが、今回提案するアルゴリズムは規模に対してスケールするもので、あとは計算リソース、エネルギーリソースが規模に見合えば、この規模でも正常に動くものと思われます。皆さんもご存知の通り、日本では指定研究機関の敷地外での実験にはかなり煩雑な手続きが必要で、これだけの規模となると認可に 2 年以上費やしてきました。東京湾という広大な面積で実験できる貴重な機会を、我々は最大限活用すべきだと考えます。」




