俺の妹はやはり可愛い‥ ②
あれは、初めて音と会った時‥そう6年前の小5の夏の事だ。
『仁、こっちへ来なさい』
少し前に親父から”新しいお母さん”ができると言われていた。
親父は俺の顔色を伺いながら、その”新しいお母さん”の事を話していた。
俺の実の母は俺が産まれて直ぐに事故で死んでいたし、新しい母親が出来るということについては、嬉しいとも思わなかったし、べつに怒りもこみ上げてこなかった。
一つだけ気になることが有るとすれば、その新しい母親には娘が一人居ると聞いていたことだ。
ちょうど俺の一つ歳下で、俺と同じ誕生日の女の子が。
俺には兄弟は居なかったから、妹が出来ると言われた時は正直 少し嬉しかった。
そして今日は、初めてその新しい母親と妹になる女の子に初めて会う大事な日だったので、高層ビルの最上階の高級レストランに来ていた。
『この女性が前々から話してた新しいお母さんになる”デア”さんだよ』
目の前には綺麗な白髪で、肩くらいまでの長さに揃えられたショートカットがよく似合うパッチリ目の美しい外国人の女性が居た。
とても三十代には見えず、本当の歳を知らなかったら二十代にしか見えないだろうと、本気で思うほどだ。
『初めまして、仁君。仁君のお父さんから話は聞いてたけど、本当にお父さんにそっくりね。特に目元なんかが。』
終始笑顔で話しかけてくるこの女性に嫌悪感は一切出てこなかった。
逆に、その明るい笑顔と何故か見惚れてしまうほどの陽気さに、こちらが笑顔になってしまうほどだった。
直ぐに
”この女性はいい人”
だとわかった。
だが、そんなデアさんとは裏腹にその背後には一ミリも隙間が無いほどに密着し、チラチラと少し怯えながら俺らを見ている女の子がいた。
その子も髪は綺麗な白色で、腰ほどまでのロングヘアーだった。
『ゴメンね、この子 極度の人見知りなの。でも、直ぐに仁君とも仲良くなれるから優しくしてあげてね』
笑顔で頭を縦に振るとデアさんは嬉しそうな顔をしてこちらに微笑んでくれた。
すると、デアさんの背後に居た女の子は俺の目前まで小走りで駆け寄って来た。
先ほどまでデアさんの背後に居たせいで分からなかったがその身体は
”守ってあげたい”
とつい思ってしまうほどに小柄で何より可愛かった。
だが、身体は小刻みに震えていた。
『‥‥‥‥‥‥‥ん』
声が小さすぎて何を言っているか分からなかった。
『 何?』
『私の名前‥‥‥音‥‥‥』
顔をほのかに紅くさせ、声は小さく震えていたがハッキリとそう聞こえた。
頑張って勇気を出したんだなと思った。
『音か‥‥いい名前だな』
すると、音は嬉しそうに頬を紅くし笑顔で
『うん!』
と言った。
声は大きく震えていなかった。
こっちまで嬉しくなるような、お日様のような笑顔だった。
『俺の名前は仁。呼び捨てでもいいし、それに‥‥‥』
『それに?』
不思議そうな顔をする音とは逆に仁は顔を紅くさせ、下を向いた。
『お兄ちゃん‥‥とかって呼んでも‥いいよ‥‥』
音はパァと嬉しそうな顔をして満面の笑顔を仁に向けた。
『うん!!』
それが俺と音が初めて会った時の事だ。
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『‥‥ん‥』
目を覚ますとそこには見慣れている天井があり、直ぐにベッドの上だとわかった。
頭上の時計を見ると夜中の二時を過ぎていた。
すると腹部に何か重さを感じていることに気がついた。
見ると、そこには床に座り込み、ベッドの上の俺にもたれ掛かるようにしてスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている音がいた。
『ずっと俺のそばに居てくれたんだな‥‥』
音の頭を撫でながら小さい声で囁、ベッドの上に運び寝かせた。
『兄に‥‥大好き‥‥』
涎を垂らしながら寝言を言う音をみて仁は微笑を浮かべていた。
”全く、お前ってやつは‥”
近くにあったティッシュで音の涎を拭き取り毛布を掛けてやると、気持ち良さそうに顔に笑顔を出した。
『本当に‥可愛い妹だよ。お前は。』
仁も床に横になり、音に掛けた毛布を少し自分にも掛け、仁もまた深い眠りに落ちた。