災難な始業式 ②
どこまでも空は青く続いていて、雲一つ無く、学校へと続く坂道の両端には桜の木が等間隔に何本も植えられ学校まで続いている。
薄くも淡い撫子色の桜の花びらは空を舞い、春を強く感じさせていた。
そんな素晴らしい日であり、二年生という一つ学年が上がることのできる初日の日、そう始業式という大事な日に俺は朝から右頬を桜よりも赤く染めていた。
『はぁー、いってぇ‥‥朝は災難な目にあったぜ』
俺は携帯の内カメラを利用し、右頬の状態を確認していた。
『いきなり触ってきた仁が悪いんだからね!正当防衛なんだから!まぁ確かに‥ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ‥強く叩きすぎたかなとは思ってるけど‥‥』
雫は少し申し訳なさそうに下に視線を落としていた。
本当に反省しているのだろう。
俺も本当に頬は痛いが、寝起き+幼馴染といっても女子高生の胸をいきなり触ってしまったのだからビンタが飛んでくる
のもしょうがない。
正当防衛というより過剰防衛な気もするが。
仁と雫の間から会話が途絶えた。
”この変な空気を変える為にはやっぱり謝ったほうがいいよな‥‥”
仁は少し戸惑いながら雫の方に顔を向けた。
『あのさ、雫‥‥朝はマジでわるかっ』
『ねぇ、仁‥‥』
俺が謝ろうとしている途中に雫は話しかけてきた。
『‥‥おかしく‥なかった‥?』
雫はまた顔を真っ赤にさせ、頭から湯気が出ていた。オーバーヒート前の機械のように。
『どうだったってなにが?』
『なにって‥‥朝 触ったじゃん‥‥』
その言葉で雫が何を聞こうとしているのか分かった。
ビンタで腫れた場所が分からなくなる位に仁の顔も真っ赤になった。
だが、何て答えればいい?
ここは絶対に褒めたほうがいいという事は分かっている。
しかし、ここで俺の思った事をありのまま言えばかなりの確率でひかれるだろう。
例えようもない緊張感が俺を襲った。
雫に質問されてから数秒しか経ってないだろうが体感時間は何分にも感じる。
それだけこの問題は難題ということである。
その中で、仁は一番良い答えを導きだした。
相手も自分も誰も損をしない答えを!
『別に‥悪くないと思うよ』
これだ。
この言葉は簡単そうに見えて高度な技を使っている。
ここで”良いと思うよ”と変えるだけで、上から目線であると相手は少なからず認識するだろう。
そして、
今までにも女の子の胸を触ってきたのか?
今までに触ってきた女子と比べて良い方だということなのか?
と誤認してしまうかもしれない。
なので、あえてここで”悪くないと思うよ”という言葉をつかうのだ。
『そっか‥良かった‥』
雫は頬を赤く染めてはいるが、表情は柔らかくなっていた。
”よし、”
二人のの間の不穏な空気は消えていた。
仁は強張らせていた肩をそっと下ろした。
『仁!学校に着いたよ!』
気づけば二人はもう既に校門の前にまで来ていた。
「国立稲葉高等学校」
俺たちの通う学校の表札が目の前にあった。