街でお友達 ⑴
「はい、これがお嬢さんの滞在許可証だよ。無くさないように」
人の良さそうな初老の男性が差し出したのは薄い紙切れ。滞在許可証という文字とセロの名前が黒く書かれている。
「これは?」
セロはそれを受け取って小さく問いかけた。
「お嬢さんがこの街に滞在する許可証だよ。無くしたら宿に泊まることもできないだろうし、街から出ることもできなくなるから大切にするんだよ」
男性はまるで孫でも見るようにセロに対して相好を崩した。そして頭を撫でてくる。
「……ありがとう」
セロはその薄い紙切れを大切そうに折りたたんで白衣の裏側にしまいこんだ。
「それでは、良い滞在期間でありますように」
男性はそう言って街に通じる門を開けた。
セロは傘を閉じその門をくぐって街に入った。
『それにしても綺麗な街ですねぇ。さっきの人もいい人だったし。これは街にいる間楽しく過ごせそうですよ』
もんをくぐり終えて人が見えなくなった時点でヴィオラが喋り出した。
セロは先ほど閉じた傘を開いて肩にもたれさせる。
「そうだね。きれい、なんだろうね。それにいいひとだったんだろうね、さっきのひと」
夕日で赤く染まる左右対称な白亜の建物と道を見て、そう呟く。目に映る街並みはまるで一枚の絵画のようでとても美しい筈なのに。
『嬢さん、これは綺麗ですよ。……それと褒めてくださいよ嬢さん!』
「なに?」
『俺、人のいるところでは約束通り喋りませんでしたよ!』
人ならば胸を張っているのでは、と思えるほどに弾んだ声でヴィオラは言う。しかしそれにセロは呆れたようにも見えなくもない顔をして
「あ、うん。そうだね。でもこれ、おまえのためでもあるのに。このまえしゃべりすぎてめずらしいものとしてゆうかいされたのはきおくにもあたらしいよ」
そう言った。心なしかそう言う声も冷たく聞こえる。
いつも暖かいわけではない言葉が更に冷たくなってヴィオラの心に突き刺さった。
『あ、れは……その。俺が悪いわけじゃ……すみません。俺が悪かったです。次もちゃんと人がいるところでは喋らないっていうの、やります……』
少し反省したような風にヴィオラは言った。
別に反省して欲しかったわけじゃあないんだけどな。なんて思いながらセロは何も言わなかった。
「それ凄いね!どうなってるの?」
不意に横から声がかかった。セロがそちらを見ると其処には十二、三に見える少女がいた。
「……それって、どれ?」
セロは自分より少し小さなその少女を見て小さく首を傾げた。
少女はセロのさす傘を指差して笑った。
「その傘、喋ってたね!凄いね!どうなってるの?」
まるで邪気のない明るい笑顔で、そう言った。