街でお友だち⑺
街でのお話はけりがつきます。
追い出されるようにして街を出た。ふと、後ろを振り返ると夕焼け色に染まった白い街が、ゆっくりと閉じられて行くところだった。
鎖が軋む音がしてちょっとずつ、セロが街を出るために開かれていた門が閉じられて行く。その隙間から見える街は始めてこの街に来て、少女にであった時とよく似た色を帯びて、酷く懐かしい。
セロは閉じていた傘を開くと、肩に凭れさせた。
そしてくるりと、街に背を向けると、ゆっくりと歩き出す。
思い出すのは笑かけてくれた少女の最後。
何が何だかわかっていないような、本当に無邪気な顔だった。
きょとんとして、まるで無表情。
そして、血溜まりに沈んでしまった。その時の顔をセロはどうしても見ることはできなかった。
『嬢さん、後悔してますか?』
「なにを?」
『あの子が死んだこと。あの子が死んだのは自分の所為だ、なんて思ってるんじゃないですか?』
セロは答えることができなかった。
図星だった。
最初から断っておけば良かった、なんて。
視界が滲んだ。
苦しかった。悔しかった。
何もできなかった自分が惨めだった。
今回は大丈夫、なんて思って、結果この様。
惨めで、無様。
「こんかいは、へいきだとおもったの。だれもきずつけないでわたしたちもきずつかないで。そんなのが、できるっておもってたの」
セロは言った。
痛いほどに傘の柄を握りしめて。
「だいじょうぶ、って、おもってたの」
それは、一種の願望だったのかもしれない。
誰も傷つかないで、誰も傷つけない。そんな、素敵な夢物語。
セロの理想。
けれど、その理想を掲げるたびにセロはいつだって傷ついてきた。
『彼女の事、どう思いましたか』
優しく優しく、切りつけるようにヴィオラは言った。
いつだってそう。
優しいくせに肝心なところで突き放すように笑うのだ。
それがセロのためなのか他のためなのかわからないけれど。けれど必ずそれは必要なことで。
『好き、だったんでしょう?』
突き放すようにしたところでヴィオラはセロを見捨てることなんてできない。
『嬢さんは、あの子のことが好きで、気に入っていて、死なないで欲しくて、笑ってて欲しかった。違いますか?』
諭すように貶すように。
確認するように。
『だから今、泣いてるんでしょう?』
セロは大きく目を見開いた。
頬を伝って熱くも冷たくもない何かが零れ落ちる。
それは幽かに塩辛かった。
セロは自分が泣いていたなんて気づかなかった。
泣き方なんてとっくの昔に忘れていたはずなのに。
胸が苦しくて喉が焼けるようで。
こんなの知らない、と思う。
けれど涙は次から次に溢れ出てきて、それが何よりヴィオラが言ったことが正しいことを証明していた。
『ねぇ、嬢さん。彼女のこと、どう思いました?』
ヴィオラはもう一度、セロに尋ねた。
「あのね、わたしわらってくれて、うれしかったしわらえることがうらやましかったし、しんだとき、かわいそうっておもって、かなしい、っておもって」
セロは顔をくしゃりと歪めて。
「さみしいって、おもったんだ」
もう街は見えない。
もう彼女に会うことはできない。
もう笑かけてくれることはなくて。
もう話をすることもない。
けれど、確かに彼女はセロと友だちで。
セロの、初めての友だちで。
『本当にお人好しですね、セロは』
優しい声で、ヴィオラはそう言った。
『そんな嬢さんだから、俺は嬢さんが大好きです』
甘く、蕩けるように、そう、本気で言った。
『俺は、ずっと一緒にいますから。だから安心してくださいね』
やっと、お話のおしまいが見えてきました。
精進します




