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プレゼント

正月、和真は高校の同窓会に参加していた。

「なんなんだよ…あの女…」

一次会が終わると、それぞれ二次会にうつっていた。和真も当時、よくつるんでいた友人達と居酒屋で呑んでいた。

「まだ、言ってんのか?」

深月のことを父親をたらしこむ女として話していた。

「だけど、いい女なんだろ?」

「ああ?」

「美人って」

「…まーな。だから、余計にたちが悪い」

ぶつぶつ文句をいいながらビールを飲む。

「意味わかんねぇよ…」

思い出すのはクリスマスの出来事だ。

深月は和真のコートをクリーニングに出して返してきた。

「来るなっていったよな…」

家のリビングでソファーに座りながら大きく溜め息をついた。

「いいえ、さすがに頂けませんからね。お返しにあがりました」

にこっとコートを差し出す。

「はぁ、まあいいか」

仕方なくコートをうけとった。

「じゃあ、帰れ」

ドアを指差すと、深月は困ったように言った。

「せっかくプレゼントあげようかと思ったんですけどね」

「お前から受け取るものはない」

「そういうと思って…」

深月は人差し指を立てた。

「一つだけ、和真さんの質問に答えようか答えるというプレゼントにしてみたんですけど」

本名、仕事以外なら何でも本当のことを答えると言った。

「なるほどな」

「物のプレゼントは絶対に受け取らないでしょうけど、お礼くらいはさせて下さいよ」

もちろん和真はそれにのった。

「一つだろ…」

いくつも聞きたいことはある。

しかし、一つなら何を聞くか考えた。

「…親父と…」

「何ですか?」

どうやって出会ったか

と聞こうとして、止めた。

それを聞いたところで肝心なところは答えない気がしたからだ。

「そうだな…」

しばらく考えて頭をよぎったのは日向コンサルトの会長など、深月が会っている金も地位もある人達。

「今、お前が本気で、結婚ねらって付き合っている人はいるのか?」

「え…」

「だから、親父とか、日向会長とか、篠原社長とかいろいろいるだろ。お前が本気で付き合っている人だよ。金関係なしに」

深月が金目当てだというのは、和真にもわかっている。しかし、それ以外もあるのではないかと感じてしまったのだ。

「…いませんよ」

弱々しく答えた。

「0です。誰に対しても本気で恋愛感情なんて抱いていません」

開き直ったかのように答えた。

「じゃあ、好きな人いないのか?」

ついでに聞いてみると深月は呆れたように言った。

「質問は一つっていったんですけどね。まぁ、お礼とクリスマスプレゼントで一つずつにしましょうか」

深月は窓の外をみた。

「好きな人ですか…」

雪が降っていた。

「いましたよ。だけど、こんな雪の日にフラれてるんです」

遠い昔を思い出すかのよに言う。

「だから、今、こんなことになってるんですよ」

少し悲しげな表情だったことを和真は見逃さなかった。


「雪の日の告白か…」

友人が呟く。

「告白っていえばさ、お前高校の時、モテまくってたよな」

「全員金じゃねぇか」

高校時代が顔もいい、頭もいい、金持ちということで和真はかなりモテていた。

「中にはマジな子もいたぞ?」

「しるかよ」

「マジな子といえばさ、あの事故で死んだ子もだったよな」

「事故?」

高校時代を一生懸命思い出していた。

「ほら、かなりデブで暗くていじめにあってた」

「あー、名前なんだっけ?」

「えっと…」

周りも徐々に思い出していた。

「和真にべったりだった奴だろ?」

「あー、なんかいたな…」

和真も少し思い出す。

「名前は…なんだっけ?」

全員、外見は思い出せてもなかなか名前が出てこない。

「あだ名はいろいろあったよな」

誰かが言って、それぞれ口にだした。

「ぶた」

「でぶちゃん」

「まるまる」

などなど、なかなかひどいあだ名だ。

「あとは…満月…お月様とか」

「苺…いやスイカ?とか食べ物もあったよな」

「和真、よく喋ってたじゃないか。覚えてないのか?」

「顔は覚えてるんだけど、名前度忘れしてる」

頭をかきながら答えていた。

「ひどいなぁ」

「うるせぇ、ってか、今は昔の奴じゃなくて深月って女のことだ」

ふたたび深月の話に戻した。

「和真、俺思うんだけど…」

「なんだよ」

「お前、実はその深月って女に気があるんじゃないのか?」

適当に言った友人の言葉は和真の心に深く染み込んだ。



和真が帰宅すると、深月と雄三がリビングでくつろいでいた。

「おかえり」

「なんで…」

「おかえりなさい」

深月と雄三を見て、胸のうちがもやもやとしていた。

「じゃあ、私は先に寝るよ。深月も好きに客室つかってくれ」

「はい」

深月が桐崎宅に泊まるのは初めてではない。客室に泊まらせてもらっているのだ。

「大丈夫ですか?」

「ああ…?」

「顔色悪いですよ」

深月と和真が二人きりとなっていた。

「飲み過ぎただけだ…」

すでに日付は変わっていた。

「お水持ってきますね」

「頼む…」

珍しく和真が素直に言った。

水を取りに行く深月の後ろ姿をソファーによりかかりながら和真はみていた。

「み…つき」

彼女の名前を口にだしたことに気がつくと、ないない、というように頭をふった。

「あの、お水…」

ぼんやりと物思いにふけっていると深月が水の入ったグラスをもって立っていた。

「どーも」

大人しく和真は受け取って水を飲むとグラスをテーブルの上においた。

「では、私は部屋に行かせていただきますね」

和真が1人でも平気だろうと判断したところで立ち去ろうとした。

「おい…」

「なんでしょう?…え…?」

和真から離れる深月の腕をしっかりと掴んで離さなかった。

「何かご用ですか?」

動揺しながらも深月は和真を見た。

「意味わかんねぇ…けど…」

和真はわからない、もやもやする、むかつく、など不満を口にしながらも立ち上がった。

「和真さん…?」

和真の手が深月の両肩に伸びて、ゆっくり近づいた。

「…ん…!?」

唇と唇が重なり、深月が両手で思いきり和真の体を押し出した。

「な、何…!?」

しかし、和真の手の力は緩まず深月は捕まれたままそこにいた。

「深月っ」

「いやっ…」

ぶるぶると震えながら深月は顔を反らす。

「や…だ…!せ…んぱい…」

深月の拒否する言葉に和真の手が緩んだ。

「え?」

深月は力が緩んだことに気がつくととっさに離れた。

「お前…今…」

そして、深月は自分が口にした言葉を思い出した。

「っ…えっと…あの…お休みなさい!」

深月は真っ赤になった顔を押さえながら走って部屋から出ていった。

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