財産狙いの女
桐崎 和真は帰宅すると、父親の部屋から出てきた若い女と遭遇した。
「こんばんは」
私服姿の女は、和真を見て一礼するとさっさと立ち去っていった。
「なんだ…あの女」
和真は不審に思いながらも、父親の部屋の戸をノックした。
「親父ー、帰ったぞ」
「和真、おかえり」
広々とした部屋のソファーに座り、会社の資料を見ながら父親の桐崎雄三は返事をした。
「頼んだものは持ってきたんだろうな」
「はいはい、社長どーぞ」
和真は鞄の中なら厚く閉じられたファイルを取り出した。
「うむ」
ファイルを渡されると早速雄三はぱらぱらと目を通し始めていた。
桐崎不動産は日本の誰もが知る大企業。そこの社長が、現在60歳の桐崎雄三。そして、息子で30歳の和真は次期社長候補だ。
二人は郊外で、いわゆる金持ちという感じの広々とした庭付きの地下一階、地上二階という屋敷で暮らしていた。
いつもは和真と雄三と、使用人だけなのだが、今日は違っていた。
「さっきの人誰?」
和真は彼女の出ていった方向を眺めながら雄三に聞いた。
「ん?」
「ほら、長髪で、ベージュのジャケットきてた若い女」
仕事で女が来ることはあるが、私服姿の女がいたのは初めてだ。
「あぁ、深月<みつき>か」
さらりと、女の名前を言った。
「仕事?」
「いや、私の女だ」
雄三は顔を資料にむけたまま何食わぬ顔で答えた。
「女って…」
雄三の妻であり、和真の母親が亡くなったのは20年前だ。確かに雄三に恋人ができたところで何も問題はないのだが年齢がおかしい。
「な、何いってるんだ!?年が離れすぎだろ!あの女何歳だ?」
「28だ」
「俺より年下じゃないか!」
「別にいいだろ。お互いがよければ」
気にするな、と雄三は言う。
「親父、騙されてるって」
そう忠告するが何もきかなかった。
数日後、和真がリビングにいると再び深月という女に会った。
今回は雄三と一緒に帰ってきたようだ。
「和真さん、こんにちは」
「親父、まだこの女とつるんでたのかよ」
深月の挨拶は無視だ。
「優しい子だ。お前には関係ないだろう」
雄三は幸せそうに深月をみた。
「関係大有りだろ!!」
「ははは、大丈夫。お前には悪いことにはならないさ」
余裕でわらっていた。
プルルル
そこで、雄三の携帯がなった。
「おっと。深月、ちょっとここで待っててくれ」
「はい」
深月を残し、雄三は部屋から出ていった。
そして、深月と和真は二人きりで残された。
「おい」
「何でしょう?」
「どういうつもりだ」
和真が睨むように言う。
「何がですか?」
深月もじっと和真を見ながら首をかしげた。
「親父の女って言うのは本当か?」
「雄三さんが言うならそうなのでしょう」
「ふざけんな!何が女だ!どーせ、財産狙いなんだろ!?」
すると、深月はくすっと笑った。
「何がおかしい」
「いえ、さすがだなぁと思いまして」
にっこり深月は笑い、初めて和真と目を合わせた。
「そんなの当たり前じゃないですか」
深月は堂々と和真の言うことを認めたのだった。