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その言葉が、彼女に届いたかどうかは、わからない。
彼の腕の中で、彼女は光り輝く無数の粒になって弾けた。
「………」
彼はいつもとは違う、悲しい顔でそれを見ていた。
右手を広げると、無数の粒がゆっくりとそこへ集まり、やがて球の形を作る、光の集合体となる。
手のひらに浮かぶそれを、静かに見つめた。
いつものことだ。
最期に繰り広げられるこの景色。
でも、明らかに何か違う。
何もかもが、違う。
これが起きないことを祈っていた。
無駄な願いと知っていても。
「じゃあ、行こうか」
まるで声に共鳴するように、手のひらのそれが上下する。
彼は眩しく光る天を見上げ、背中にある翼を大きく広げ羽ばたかせると、静かに地上をあとにした。
大地に広がる菜の花が、清らかな風を受けて、輝き揺れた。