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走った。
近くのコンビニ、いつも行くスーパー、レンタルショップ、店内もくまなく探した。
ヤスコにも、一応電話してみたけど行ってないみたいだし、久しぶりにミヨちゃんの家にも行ってみた。
主を失ったその家は、不気味なほど静まりかえっていて、私はすぐにその前から立ち去った。
私たちが初めて会った場所にも行った。
平日のまだ7時を過ぎたばかりだというのに、その繁華街は相変わらず人でごった返してる。
その人の合間をぬいながら、似た背格好の人を見つければ、追いかけた。
「すいません、人違いでした……」
何度その言葉を言って、変な顔をされただろう。
それでもいい。
「ねぇ、どこ行ったの……」
あのホテルの前まで来た。
火事なんかなかったみたいに、そこは営業を再開していた。
本当なら、あの日、ホテル街にある一番背の高いこのホテルのテッペンから、私は落ちるはずだった。
だけど、私のわがままで、私は生きる時間が延びて、アイツは私を監視する為に残業だなんて言ってたっけ。
「君、いくら?」
ホテルを見上げていた私の腕を掴んで、中年の男が聞いてきた。
私、馬鹿。
こんな場所で感傷に浸ってる場合じゃない。
「私、違いますから」
手を払おうとしても、男は離してくれない。
なんだろう、今まで走り続けたからなのか、うまく力が入らない。
「ねぇ、こんな安っぽいホテルなんかじゃなくて、もっといい所に連れてってあげるよ」
「ちょっと、離してよ」
男の後ろには、全面真っ黒なスモークフィルム張りの、白い高級車が停まってる。
嫌な予感。
男は私のコートの袖をまくった。
「やっぱり、ねぇ、異常な痩せ方してると思ったんだ」
私の細くなった腕には、無数のアザがある。
血管が脆く細くなってきて、だんだん点滴針が刺さらなくなってきて出来たもの。
男は自分のコートの袖もまくって見せる。
そこにあるのは、似たようなアザだけど……。
「ねぇ、一緒に気持ちよくなろうよ……」
私の顔を見てニヤリと笑う。
確かに私も薬漬けだけど。
「私は、アンタなんかと違う!」
「なんだとォ!!」
急に表情を変えた男が、私の首に手をかけた。
ちょっと、待ってよ。
「い…やっ……」
何、この力。
息が出来ないよりも、私の首の骨がきしむ音がする。
私の足が、地面から離れた。
嫌だ、嫌。
こんな最期なの?
安っぽいラブホテルの前で薬中のオヤジに首しめられて、殺される?
ああ、明日のワイドショーに出ちゃうじゃん。
週刊誌に過去も洗いざらしに書かれちゃって、けど、誰の記憶にも残んないで。
それなら、野次馬の前で飛び降りた方がましだった。
それとも、今までのは全部夢で、これが現実?
ああ、やばい。
意識が、トブ。
「………」
……痛い。
私は地面に落ちて、目が覚めた。
欲しがってた酸素を肺に送り込みすぎて咽る。
ゼェゼェ喉がなる。
生きてる……?
横を見ると、今まで私の首をしめてた男が、だらしなく倒れていた。
その視界に足が現れて、私はゆっくり見上げた。
「カズオ……」
「大丈夫か?」
なんだ、違う、声。
「ありがとう、ございます……」
「気をつけろよ」
手をとって、私を立ち上がらせてくれる。
なんか、見たことのある顔。
だけど、こんなビジュアル系のいい男なんて…テレビで見たことある?
えぇっと、誰だっけ?
私が顔を覗き込もうとすると、彼は微笑んで行ってしまった。
いいや、とりあえず、ここから離れよう。
でも、どこに行こう。
ねぇ、本当に。
「どこにいるの?」
私は真っ暗な空を見上げた。