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無事、お正月を迎えた。
ミヨちゃんはちょっとだけ元気になって、私が作ったおせちを少しだけ食べてくれた。
久々に金歯を見せて笑ってくれた。
だけど、刻一刻とそれはミヨちゃんに迫っていて。
カズオの翼は毎日、常に見えるようになって。
やがて、ほとんどベッドで眠るようになった。
またちょっとだけでも元気になってくれるような気もしたけど、それは私の願いであって。
少し苦しそうに、大きく息をするミヨちゃんの横に私とカズオは座っていた。
「ミヨちゃん……」
「ヨーコちゃん、カズオちゃん、ありがとうね」
弱々しく震える手を、私はぎゅっと握ると、ミヨちゃんは優しく微笑んだ。
「二人で、幸せになるんだよ」
金歯がキラリと光る。
思えば、あの時ミヨちゃんが、あの場所で金歯を落としたと探していなければ。
私が声をかけなければ。
カズオが一緒に探してくれると言わなければ。
ミヨちゃんは、ひとりぼっちで誰にも知られず、消えてしまったのかもしれない。
「私もねぇ、そろそろじいさんのところへ行ってチュウしてもらおうかね……」
ニヤニヤしながら、ミヨちゃんはゆっくり目を閉じた。
大きく、息を吐いて。
「……ミヨちゃん」
それから、ミヨちゃんは息を吸わなかった。
わかっていたけど。
心の準備は、十分すぎるほどしていたけれど。
ポロポロと、次から次へと涙がこぼれた。
人は、生まれたときから死ぬとわかっている。
でも、それは悲しくて、辛くて、淋しくて。
私は握っていたミヨちゃんの手をそっと置いた。
「超幸せそうな顔してるぜ」
「………」
カズオの言う通り、ミヨちゃんは笑っているように見えた。
シワシワだけど、ぷっくりした頬はうっすらピンク色で。
呼びかけたら目を開けそうな気がする。
とても、やすらかな、死。
苦しみもがくことなく、眠るような、死。
それを、私は初めて見た。
「こんなふうに……私も死ねる?」
返事をするかわりに、カズオは私を抱きしめてくれる。
「もう、行こうぜ。ここからは、アイツの仕事だ」
回収、か。
「ちゃんと、ミヨちゃん、旦那さんのところに連れてってくれるんだよね」
「うん」
「天国で、また二人は幸せになれるんだよね」
「うん」
「……よかった」
ミヨちゃん、もうちょっとしたら、私もそっちに行くね。
行ったら、旦那さん紹介してね。
それで、天国って所を案内してよ。
私、後少しだけ、寄り道していくね。
だから、待っててね……。
チビちゃんが、ニャーと鳴いて私たちを見上げた。