表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FLY  作者: 鳴海 葵
14/29

file3-3

 あれから、私とカズオはほとんど毎日のように、ミヨちゃんに会いに行った。

 今夜のクリスマス仮装パーティーに向けて、買出しにも行った。

 カズオは私の聞きたいことを、たぶんわかっていながら何も答えない。

 私も、正直聞くのが怖かった。

 だけど、今夜は全部忘れて楽しもうと思った。

 だって、本当なら、クリスマスなんて迎えられなかったはずだし、それに、家族じゃないけど……誰かと一緒に過ごすクリスマスなんて、何年ぶりだろう。

 私とミヨちゃんはあんまり食べないけど、大食いのカズオのために、私は大量のごちそうを作ってやった。

 

「あとは、飾り付けして……あ、ケーキ取りに行かなきゃ」


 近くのコンビニにクリスマスケーキを予約してある。


「ねぇ、カズオ、ケーキ取りに行って来てくれない?」

「えぇ、俺、飾り付けに忙しいんだよねぇ、ミヨちゃん、行っといでよ」

「今日はこれからヘルパーさんが来るから、私は行けないよ」

「大丈夫だよ、もしミヨちゃんがいない間にヘルパーさんが来たら、俺が介護受けとくから」


 結局、私とミヨちゃんでケーキを取りに行くことになった。

 まったく、死を目前にした老人と病人を追い出すなんて、とんでもない天使だこと。

 ああ、いけない、そんなこと、今日は考えないんだった。

 

「こんにちは、島田さん。お出掛けですか?」


 家から少し離れたところで、前から歩いてきた男が、ミヨちゃんに向かって声を掛け、ミヨちゃんは顔を上げた。


「ああ、斉藤さん、ごめんねぇ、ちょっと長田商店までケーキ買いに行ってくるから、家で待っててくれないかい? 家にはね、若い男の子がいるんだけど、アンタの介護を受けたいって言ってたよ」


 いつものように、ニィっと笑うと、修理された金歯がキラリと光る。

 男は苦笑して、私の方を見た。

 私たちは、軽く会釈する。

 短い髪の毛に眼鏡、モデルみたいな長身で、端整な顔立ち。

 ジャージの上にコートを羽織って、スポーツバックを肩からかけているという出で立ちなのに、なにか上品な雰囲気があった。

 ミヨちゃんの言うことからすれば、たぶん、ヘルパーさんだろう。

 そういえば、ミヨちゃん、この人も翼を付けてるって言ってたっけ。


「長田商店? ああ、あそこのコンビニだね。じゃあ、僕、家に行ってますね。気を付けて」


 はいはい、とミヨちゃんはまた歩き出し、ヘルパーさんは家の方へと向かって行った。

 私はそのヘルパーさんの後ろ姿を見つめた。

 私には、まだ、見えない。

 ミヨちゃんにも、見える日と見えない日があるみたいだった。


「ヨーコちゃん」


 ぼぉっとする私を、先に行くミヨちゃんが呼んだ。


「ごめんごめん」

「ホレたかい?」

「え!?」

「斉藤さん、カッコいいだろう? カズオちゃんもかわいいけどねぇ、ヨーコちゃんより年下だろう? 斉藤さんは、28歳とか言ってたよ。大人の魅力があるよ。どうだい、のりかえちゃうかい?」

「ミヨちゃんが付き合えばいいじゃん」

「いやいやいや、私にはもう、だめだめ」


 照れながら、恥ずかしそうに手を振る。

 何考えてるんだか。

 ホントに楽しいばあちゃんだな。

 私には、おばあちゃんがいない。

 母方の祖母は、私が生まれる前に死んじゃったらしいし、父方は、生きてるんだか死んでるんだか、それすら知らない。

 おばあちゃんって、こんな感じなのかな。

 

「ねぇ、ミヨちゃん、手、繋ごうよ」


 顔を上げて、ミヨちゃんはためらわずに、シワシワの手で私の手をとった。

 細くて、骨と皮しかなくて、ちょっと震えてて、でも、あったかい手。


「これで、いいかい?」

「うん」


 とても嬉しくて、私は大きく頷いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ