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モールス符号

作者: ブルマ提督
掲載日:2026/08/06

 ちょっと、聞いてもらってもいいですか?


 友人Aとの話です。

 Aには珍しい趣味がありまして、アマチュアの無線なんですよ。

 ふらっと色々教えてくれます。特にモールス符号は、彼からの話がほとんどでした。

 ウンチクと言いますか、モールス符号には種類があるみたいな感じのことですね。


 ある日、俺の家の後ろにある山に行きました。

 遊びにじゃないです。

 勝手に捨てられた粗大ゴミの処理……ですね。

 皆さん、知ってます?

 山って所有者がいるんですよ。

 忘れているのか、不法投棄で家電やゴミが捨てられる時がたまにあるんです。

 だから、時折見て回らなきゃならなくて。

 注意とかいろいろ。

 あとは……あんまり、言えないことですね。


 持ち物?

 軍手やゴミ袋。あと、バールですね。

 解体しないのに?いや、違うんです。

 めったにないんであれなんですけど、その、稀に……生き物を入れる人がいて。

 前は犬がいました。

 気が付かなかったら、どうなってたか……。

 中から鳴き声が聞こえたので、あの時は焦っていまして。

 そこらの太い枝で、ガンガンと開けようとしてました。

 なので、持っていくんですよ。

 まぁ、でも。必要にはならないですけどね、ほとんど。


 その日は、粗大ごみが多かったです。

「あ~~、これどうする?」

「警察は?」

「いってもなぁ。監視カメラを置くしかないわ。でも、置きたくないなぁ」

 Aとブツブツ言いながら、見て回っていると音が聞こえてきました。

 コン、コン。

 何かをたたく音。

「A、なんか聞こえた?」

「あ? 何が」

 Aが怪訝そうな顔で俺を見てくる。

 同時に、また同じ音。

 二人で顔を見合わせて、周りを見渡しました。

 壁か何かを規則正しく叩いているんです。

 短い「コン」という音が3回。

 ちょっと長い「コーン」という音が3回。

 なんだろと立ち止まって、思い出しました。

 有名な曲があるじゃないですか。

「トントントンツーツーツートントントン」って歌詞が。

「……あー、SOSか」と納得しながら、手が止まった。


 誰が鳴らしているんだ。


 山の中なんて、俺ら以外には誰もいません。

 ふいに、隣を見るとAの顔が青白いんです。

 Aがゆっくりと、指をさした。

 先にあるのは、いま俺らの目の前にある冷蔵庫。

 多分、中から音が鳴ってるんです。

 ずっと同じ音。

 コンコンコン。

 コーンコーンコーン。

 コンコンコン。

 これがずっと、なっている。

 一応ですが、俺らが入ったときは聞こえなかったです。


「……SOS、だよな」


 Aの声が遠くに聞こえた。


 すぐ隣にいるはずなのに。

 誰が。

 どうやって。

 鳴らしてる?


 俺らが入って冷蔵庫を見た瞬間、なり始めました。

 顔を見合わせ、頷き、冷蔵庫から目をそらさず。

 ゆっくりと、後ずさりをし始めました。

 声を出してはいけない気がする。


 いまだに、目の前にある冷蔵庫からは音が途絶えない。

 俺らが距離を取るにつれて、音の長さや叩き方が変わり始めた。

 コンが2回後に、長い音。

 リズムが、変わったんです。

 さっきとは違う、明らかに言葉を伝えようとしている何か。

 縋るようにAを見ると、青ざめた顔をして口に手を当てている。

「……なんで」

「何がだよ」

 ちょっとイラっとしつつ、Aを見ました。

 限界まで目を見開き、ハクハクと口を動かすA.

 ゆっくりと首を俺のほうに向け、ハクハクと口を動かし始めた。


「その、まま、『なんで』って聞かれてる」


 背筋から、すべての血が抜けた。

 何かに、目をつけられた。

 音はずっと止まらない。


 だけど、後ずさりは止められない。

 あと少しで、あと少しで、森の入り口付近ってところで音がやんだ。

 足を止めて、冷蔵庫を見る。

「……どうする」

 Aがぽつりと、零した。

 俺は首を振る。

「いや……どうしようもできないでしょ」

 俺の言葉に、Aは首を振る。

「だとして、おかしいじゃん。……なぁ、あれさ。」

 Aが冷蔵庫に指を向ける。

「実は中に人とか入ってるんじゃないのか?」

 鋭いな、と思いつつどうしようかと考えているとまた音が聞こえた。

 さっきとは違う。

 確か……。

 トンツートントントン

 ツートントンツー

 ツートンツーツーツー


 トントンツートン

 トンツートントン

 トントン

 トントンツー

 ですね。

 SOSとも「なんで」とも違う。

 隣を見ると、Aが首を横に振って青ざめた顔をしていた。

 小さい声で「な…が……」って。


「なんて、言ってんだよ……」


 Aに聞いても、聞こえてないのか耳をふさいでその場に崩れ落ちてしまった。

 音は鳴りやまない。

 ずっと同じ音が鳴っている。

 徐々に、音が強くなっているような気がした。

 最初はノックくらいだったのに、いまは壁を殴っているような乱暴な叩き方になっていた。


 ――もし、出てきたら?


 その考えが思い浮かび、背筋が冷たくなった。

 すぐにAの腕をつかんで、その場から走り出す。


 家に入ってカギをかけて、布団に潜り込んで震えていた。

 何時間たったんだろう。

 母親の「早く起きなさい」の怒号で、朝がきたことを知りました。

 二人で朝飯を食べて、Aに昨夜のことを聞いてみた。

 Aは、口をハクハクと動かし何を言うか迷っているようだった。

 少したって、意を決したように静かに話し始めた。


「『おまえ ちがう』だった」


 体から汗が一気に噴き出してきました。

 なんで。

 Aはゆっくりと俺に目線を合わせる。


「何が違うんだよ。どういうことだよ。俺、何かしたのか……?」

「いや、お前は何もしてないだろ」


 俺はAの肩に手を当てて、目を見つめる。

 そうだ。


「お前は何もしていないんだ」



 これが、全部の話です。

 えぇ、そうです。

 冷蔵庫の中に遺体を隠したのは俺です。

 Aですか?

 彼は関係ないです。


 ……惜しかった、んですよね。


 ……知ってます?刑事さん。

 モールス符号って、もう一つあるってこと。

 もっと真面目に、話を聞いておけばよかったな。

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