異世界料理
想像して欲しい。君は今、異国の地にいる。アメリカでも中国でもイタリアでもフランスでもイギリスでもまあいい。
とにかくその地に君はやって来た。まあ、旅行のようなものだと思ってくれ。旅の目的はなんでもいいが、一般的には多くの者が観光と答えるだろう。その地の有名な建物、自然、歴史に触れる。陽が傾くまで存分に堪能する。そこまではいい。
問題はその後、食事だ。
君は空腹を満たすためにどこかの店に入るだろう。アメリカなら巨大なハンバーガー屋、中国なら四川料理? イタリアならピザにパスタ。パンもうまい。レストランもビストロでもフランス料理は最高だ! イギリス料理が不味いなんて実際に食べないとわからない。意外とクセになるかもしれない。
な? 誰だってその地特有のグルメを楽しみたいだろ? アメリカに来てまで寿司を探すか? 探さないだろ? ……カルフォルニアロールのようなその地の文化の中で発展した料理ならいいが、アメリカで回転寿司には行かないはずだ。……行く時もあるかもしれないが、もったいないと思わないか?
「結局、俺が何を言いたいのかというと」
俺は、目の前で口をポカンと開けて、まぬけな顔を晒す耳が長く尖った金髪の少女に力説する。
「せっかく異世界に来たのに、地球の、それも日本の料理なんて食べたいわけがないだろってことだ」
俺はそう言っておにぎりを頬張った。この世界に来て二度目となる食事である。一度目は昨日の夕飯にオムライス。異世界に飛ばされ混乱し、やっとありつけた飯だったため、その時は何も思わなかった。そして朝食としてこの塩むすび。具材も海苔もないが塩の味が効いている。美味い……が、しかしと複雑な感情を露わにする。
「はあ、あめりか……? かるほるにゃ?」
女は聞き慣れない言葉に戸惑い、俺の言いたいことを全く理解できていないようだった。そんな彼女にため息混じりに呆れながらその特徴的な耳を見る。長く尖った耳。それは物語によく出てくるエルフと呼ばれる種族の特徴と酷似していた。いや、似ているのではない。彼女は正真正銘エルフである。
ここは異世界。地球とは違うどこか遠くの星。当たり前だがこの星にもそれぞれの国で、地域で、独特の文化が創られている。もちろん、それは食事にも言えること。
ところがだ。
ところがこの世界の料理の中に文化や風習による伝統はない。食卓に並ぶのは、どれも俺が地球で食べたことのある料理ばかり。その土地特有の食材も、調理法もない。それはどこの国に行っても同じであると、目の前のエルフの女、ルチは言った。
どうやら、俺がこの世界に来るずっと前に俺と同じ地球の人間がやってきていたらしい。そしてそいつが地球の料理を持ち込んだ。言うなれば外来種ならぬ外来料理である。文化水準の低いこの世界の料理と比べ外来料理は格別に美味しかったようで、この世界で発展途上にあった在来料理たちを全て根絶やしにしたのだった!
常識以上の知識を教えることは試行錯誤という成長を阻んでしまう。それを理解しなかった馬鹿のせいでこの世界の料理は発展を止めたのだ!
「そしてその結果、俺はこの世界特有の料理を味わうことができなくなった……! どうだ? 今度はわかりやすかっただろ?」
「……? ……別によくない? 地球の料理は美味しいし、幸せになれるもん」
この女! わかってない! わかってない! まったくわかっていない! そりゃもちろん美味しいものならなんでもいいという考えは理解できる。だが、俺はそれでは満足できないのだ。未知の味覚を楽しみたいのだ。地球にいた時からそうだった。世界中の料理を求め西へ東へ、ある時はジャングルの奥地で暮らす者たちと狩りをし、またある時には砂漠を旅する者たちと火を囲んだ。
しかし、地球上のほとんどの料理を味わっても俺の心も腹も満たされることはなかった。地球外に来れたのだからそこの文化圏の料理を楽しみたいと思うのは当然のことじゃないか!
なのに、米! しかも白米! 日本米! いや、美味いけども違うだろ! なぜ異世界に来てまで日本米を食うのだ! 異世界の土壌で育つ稲があるだろう。その稲を改良し異世界米を作ればいいだろ! なぜ、それを淘汰するかの如く、発達した日本米を流通させるのか! 俺は異世界の食材で、異世界の料理が楽しみたいだけなのに!
その点で言えばこの世界で初めて会えたのがルチで良かった。なぜなら彼女はエルフ。エルフといえば不老長寿の存在。見た目は二十そこらだが、もっと長く生きていることだろう。外来料理に侵略される前の発展途上な料理たちを知っているはずだ。
「いや、知らないよ」
「何っ」
「だいたい私まだ百八歳だし、勇者様が現れたのは同じく百年くらい前だもん」
「それは『まだ』とつけていい年齢なのか?」
勇者様というのは地球食の伝道糞野郎のことだ。様付けする必要もないとは思うのだが、昔あらゆる種族と関係を持つことで異種間での諍いを無くした功績があり、迫害され続けた過去を持つエルフのような亜人種にはまさしく英雄とのことらしい。心底どうでもいい。
「ああでも、長老様なら知ってるかも」
「長老様?」
ルチは頷き長老様と呼ばれる人物について話し始める。どうもその人物は何千年も昔から生きており、勇者が来る前の世界のことも知っているはずだという。
「ほう。そいつは是非とも会いたい。で、どこにいるんだ?」
ルチは立ち上がり、窓へ近寄ると遠くにある一本の木を指差した。馬鹿みたいにどデカい木だ。一体どれほど遠くにあるのかはわからないが、拳を突き出し、木に重ねても僅かに幹が見えるほどには太い。
「あの世界樹に住んでる」
「世界樹?」
たしか天を支える木のことだったか、その根は地下世界にまで繋がっているとかなんとか。……食べられないものの話だからあまり記憶に残ってない。だが、この世界にあるのなら是非とも味見の一つはしてみたいものだ。
「そうか、よし。なら、すぐ行くか」
「いってらっしゃい」
ルチはそうかと頷いて扉を開けて手を振った。
「何してるんだ? お前も来るだろ?」
「え? なんで?」
俺は呆れてため息を吐いた。
「気にならないっていうのか? この世界の過去の食文化が。取り戻したいと思わないのか?」
「気にならないかと言われると、そうじゃないけど――」
「そうか。なら行こう。さあ行こう。すぐに行こう」
「え、あ、ちょっと!」
未知の食に心躍らせながら俺たちは家を飛び出した。
異世界料理モノの起
これから異世界の食材を出してエルフが作って主人公が食べます。
昔書いていて主人公の性格が嫌いで筆が止まってたやつ。一応、料理後の皿洗いとかは主人公がやることでヘイト管理を考えていたり。でもテンションが高い系が肌に合わないので没。




