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殿下は、おつむが足りないようなので何度も申し上げて差し上げますね〜風魔法が語りかけます〜

「殿下は、おつむが足りないようなので何度も申し上げて差し上げますね」


 セーレイン・フラガリア・アナナッサは親切な人間だ、と自分で思っていた。


 何度目かのお茶会でアレクシス王子にお茶をカップごとぶつけられてひっかけられて、


『ああ、この人は頭が足りない人なのだ。そして、自分でそれに気づいていない。そうしたらそのように将来の妻として合わせてあげなくては』


 と思ったのだ。


 風魔法で、カップの中に紅茶を戻し、王子の口元にもっていって上げながら微笑んだ。

 規定通り、王子には魔法をかけていない。王族に緊急時を除いて許可なく魔法をかけてはいけないからだ。


「この度の婚約は、あなたが第一王子ですが、立太子するにはあなたのお母様つまり側妃様のご実家の身分が低いので、お互いに残念ながら王命にてあなたとアナナッサ侯爵家の人間である私の婚約が結ばれました。あなたは私との婚約がなくなると、確実に迅速に廃嫡され辺境に追いやられます。どうぞ、末永くよろしくお願いしますね」


 ーーー


 セーレイン・フラガリア・アナナッサは親切な人間なので、自分の専属侍女ミナがある日急に様子がおかしくなった時も、


「ミナ、どうしたのかしら? 私の顔をちらちら見て。見るならはっきりと見て頂戴。減らないから。それに、顔洗い用の湯もこぼすし、紅茶はいつもと違って温度が少し低いわ。私のお気に入りのあなたの顔が青ざめているのはよろしくないの。私に言いたいことがあるなら、はっきり言ってちょうだい。ミスが続いてあなたが解雇となるのはつらいの」


 とはっきり指摘して、ミナをテーブルセットの反対側に座らせ、話を聞く態勢をとった。

 もちろん、ドアの前だけに騎士をおいて、室内にミナと二人きりだ。



「申し訳ございません、お嬢様。実は………………」



 ミナから聞いた話は、荒唐無稽な話だと前置きがあった。


 ミナは昨日、自室でテーブルの下に落ちたペンを拾って立ち上がる時に、強く頭をぶつけて思い出したらしい。


 この世界は、


「『イケメンみーんな私のもの! 逆ハーレム学園☆王子だらけの日常!』………」


「え、なんですって?」

「お嬢様、私、まだ全然話しておりません」

「あら、ごめんなさい」


『イケメンみーんな私のもの! 逆ハーレム学園☆王子だらけの日常!』


 という乙女ゲームの世界であることを思い出したのだという。


 ミナがいうには、


「『ゲーム』というのはシナリオ通りに動く演劇の一種」


 だそうだ。所々わからない単語はミナが補足してくれた。


 簡単にまとめると、来月から通うことになっているアイステリア王国立学園にて、ヒロイン(オランジェ男爵令嬢)と悪役令嬢(セーレインの役柄)が男性を取り合って恋愛遊戯を繰り広げる、らしい。


「王子というのは? 私の婚約者のアレクシス様しか王家の学生がいないわね」

「私の前世ではイケメンでシュッとした人はみな、『王子様』でした。比喩表現です」

「なるほど」


 セーレインにとってミナの話は信じがたい話だったが、攻略対象とされる相手役の男性たちの名前と人物背景についていくつか侯爵家の調査でしか分かっていない家の事情もミナの口から出てきた。

 平凡な男爵家令嬢で三女のミナがそこら辺の事情を知る由もない。


 人払いして良かった、とセーレインは思う。


「それで、なぜそんなに気落ちしているの? 今のお話に取り乱す要素はないけれど。アレクシス様が無礼なのは今に始まったことじゃないから、そこら辺の小娘がうまくやってアレクシス様の愛妾などになったところでとくにこれと言って困ることはないわね」


 セーレインのきつめの追及に、ミナは言いにくそうに一瞬下を向いてから口を開いた。


「この際だから言います。魔法も学問もできて美人で自信満々でお金持ちで、チャームポイントは無自覚に嫌味な悪役令嬢がボロボロになるエンドが多いところもこのゲームの売りだったんです。『ざまぁ』を味わいたい人の心に訴えるというかなんというか」

「あなたの前世って性格が悪い人が多いのかしら?」

「えっ? 考えてもみませんでした。そうなのかな? 悪役令嬢のエンドは学園も侯爵家も追われて、『安い娼館に売り飛ばされて衰弱』『毒を飲まされる処刑』『公開ギロチン処刑』『物を持たずに追放されて物乞いになっている所をヒロインと王子の乗った馬車にはねられる』『石運びの刑で鉱山で延々と右や左に石を運ばされて狂死』………」


 セーレインはミナの話を聞いて瞳を瞬かせた。


「こんなに善良なのに、私はどんな重罪を犯したのかしら? 国家反逆罪?」

「冷静になるとおかしいですけど、殿下の恋人のヒロインをいじめた罪だったと思います。未来の国母を虐げた罪でお前を処刑する! 婚約破棄だ! って」


 ミナのまじめな顔で話すバカバカしい話に、セーレインは頭痛がしてきて眉間を抑えた。


「私、嫌味で時々人に思いやりがないけれど美人で完璧悪役令嬢セーレインちゃんが好きだったんです。私は自分に自信がもてなくて、どうやったら強くなれるんだろうって悩んでたから。セーレインちゃんが空気を読まずに正論でぶん殴るところが大好きで。セーレインちゃんが大変な目に遭うのが悲しかったです」


 ミナはゲームの中の話をしているつもりなのだろう。主人であるセーレインに対してあんまりな事を言っている自覚がなさそうだった。


 しかし、セーレインの胸にはミナが自分を心配している気持ちが届いていた。


「大丈夫よ。ミナ。安心してちょうだい。優しく穏便な方法で処刑も婚約破棄も回避するわ」

「わぁ、お嬢様の邪悪な笑顔。とても安心できます。どうして私、お嬢様が処刑されるなんて思ってたのかな。私のバカバカ☆」


 セーレインがにーっこり、と笑って見せると、ミナも笑顔になった。

 セーレインは親切で侍女を大切にする主人なのに、邪悪とは失礼だ。

 しかし、ミナが元気が出たならセーレインはよしとするのだった。


 ---


 ある日、ちょうどアレクシスとの茶会の予定があったセーレインは、いつものようにまるでバ〇の一つ覚えのように紅茶をかけてこようとする王子に、


「この婚約は、あなたが立太子するにはあなたのお母様のご実家の身分が低いので、お互いに残念ながら王命にてあなたとアナナッサ侯爵家の人間である私の婚約が結ばれました。あなたは私との婚約がなくなると、確実に迅速に廃嫡され辺境に追いやられます」


 と話した。紅茶は風魔法で防御する。


『学園に通う年齢にもなって、淑女に紅茶をかけようとするなんて。まあ、頭が空であると操りやすくていいけれど、軽すぎるのも問題ね』


 と淑女代表の(とセーレインは思っている)セーレインは思った。


「なんだ唐突にうるさいな。俺は王子だぞ」

「だから私との婚約がなくなると、王子ではなくなると言っているのです。聞こえていますか? 茶葉が耳に詰まってます? 陛下や王妃様にもぜひ聞いてみてください」

「そんなことがあるか!」


 いつも通りに話を聞かないアレクシスにセーレインは微笑んだ。

 そして、セーレインは指先に小さい風魔法を起こした。


「風魔法で耳をお調べしましょうか?」

「いらない!」


 指先に凝縮した風魔法の操作は見事で、アレクシスはほとんど魔法が使えない為それにもイライラして早々にセーレインとの茶会を退席した。


 結論をいうと、アレクシスは特に王と王妃、そして自分の母親の側妃にもセーレインに言われた話を聞いてみることはなかった。


 ---


 セーレインとの茶会があったその日の夜、アレクシスは気分が悪く早めにベッドに横になっていた。

 横になり、半分寝入っていたアレクシスの耳にぼそぼそとした囁き声がする。

 囁き声に混じって。風がひゅうひゅうと唸る音がした。


「アレクシスには困ったものだ。あいつの能力が足りないから強すぎるセーレイン嬢を婚約者として付けたのに、反発ばかりして」


 アレクシスの耳に、父親つまり王の声が届く。


「大変申し訳ございません。第一王子だからと、私の子を優先していただいた温情がございますのにこんな結果になって。もしかしたらあの子は王にはなりたくないのかもしれません。そうやって周りに終わらせてもらうのを待っているのかも」


 アレクシスの母親が心底申し訳なさそうに謝る声が聞こえる。

 泣いているような声だった。


 ここ最近ずっと、顔を合わせるとうるさい事しか言ってこない為、アレクシスは側妃である母親を避けていた。


「まあ、アレクシスが問題を起こして王の器でなかったとしても、正妃の私の子である第二王子のユリウスもいるし。そんな風に気負わなくても大丈夫よ。セーレイン嬢もユリウスでも構わないと言っているわ」


 王妃の何を考えているのか分からない声が届く。

 アレクシスはセーレインに似ていて正妃が苦手だった。


「申し訳ございません申し訳ございません。重々言って聞かせます」


 何度もアレクシスの母が謝る声が聞こえる。


「我がアイステリア王国は幸い陛下のおかげで裕福な国です。万が一アレクシスが王子の重責から外れ、辺境に行くことになっても親子ともども豊かな生活が送れるでしょう!」


 アレクシスの耳に正妃がそう言って高笑いする声が響く。

 セーレインのように善意で嫌味な性格……。

 …………。


「この婚約は、あなたが立太子するにはあなたのお母様のご実家の身分が低いので、お互いに残念ながら王命にてあなたとアナナッサ侯爵家の人間である私の婚約が結ばれました。あなたは私との婚約がなくなると、確実に迅速に廃嫡され辺境に追いやられます」


 最後に平たんなセーレインの声が聞こえてから、囁き声は止んだ。

 風の唸りも聞こえなくなる。



 ――その日から毎日、アレクシスが寝るときに風の音と囁き声が聞こえた。

 何度も何度も王と側妃の嘆き、そして正妃の高笑い、セーレインの平たんな声が聞こえる。


『これは絶対に女狐セーレインの仕業だ』


 そう思ったアレクシスは、セーレインを王宮に呼び寄せた。


 事前の魔力検知は、魔法行使の検知はなく生活に必要な程度の魔法しか使用されていないとの事だった。


 そもそも、セーレインは王族に対しての魔法行使をしない、という規定をいつも守っている。

 王宮の人間は、セーレインにアレクシスが紅茶をぶっかけようとしてそれを防ぐ程度の風魔法を見ているが、根気よく防御しかしていないのを知っている。


 アレクシスの周りの者たちは、アレクシス王子の勝手な言いがかりだと思いながらも、呼び寄せると何をおいてもすぐに駆け付けてくれるセーレインに甘えて、王子の言いつけに従った。


 王宮の整えられた一室に、貧乏ゆすりをするアレクシス王子と、ゆったりと微笑む婚約者セーレインが対峙する。


 目の周りにクマを浮かべた王子がテーブル越しにセーレインを睨む。


 テーブルには王子の言う通りに、王家の秘宝『真贋の鏡』が置かれていた。

 なかなか場には出てこない珍しい魔道具である。


 何故なら、この『真贋の鏡』は周りの嘘を嫌う精霊が宿る魔道具で、嘘を言うと赤い光線が出て目を焼く危ない魔道具だからである。


 もちろん、優秀なセーレインは王太子妃教育により、王宮資産の目録もすべて覚えているため、『真贋の鏡』は知っていた。そしてアレクシスが『真贋の鏡』を知っていた事に感心して、ちょっとアレクシスを見直していた。


「お前、俺に対して魔法を使ったな!」

「使っておりません」


 セーレインは即答し、『真贋の鏡』は無反応どころか真実を喜ぶ青い光をほのかに点滅させていた。

 アレクシスは完全に勝ったと思って質問した問いに当てが外れて目を見開く。


「王家の人間に魔法をかけてはいけない規定を守っております。精霊様に誓って」


 セーレインは芝居がかったように胸に手を当てる。


「お前は王家に反逆の意思があるな!」

「ございません。めっそうもない話でございます。貴族は王家の臣下です」

「お前は俺が嫌いで、害しようと思っているな!」

「いいえ、私はアレクシス様の事を嫌いではございませんし、害しようとは露ほどにも思っておりません」


『真贋の鏡』はセーレインの全ての答えに真実との判定を下す。

 アレクシスは、セーレインに質問すればするほど分からなくなってきて、王家の言い伝えに、


『『真贋の鏡』をあまり外に出してはいけない。』


 とあったのを思い出した。

 疲れて肩で息をして俯くアレクシスに、セーレインが微笑んだ。


「ちょうどいい機会ですわね。その真贋の鏡でアレクシス様に答えていただきたい事があるのです」

「なんだ?」


 アレクシスは、なかなか本性を現さないセーレインにしびれを切らして、流れを変えるセーレインの問いかけに聞き返した。


『自分は真実しか言わない。そうであれば光線で目を焼かれることはないはずだ』


 アレクシスはそう思っていた。


「セーレイン・フラガリア・アナナッサを害しようとしておりますか?」


 セーレインの善意なる眼がアレクシスを見た。

 セーレインのほっそりした指が『真贋の鏡』を持ち上げて、アレクシスに向ける。

 アレクシスの目の下に青黒い隈の浮いた追い詰められた顔が鏡いっぱいに映った。


「……………………答えたくない」


 アレクシスは長い沈黙の後、それだけ答えた。

『真贋の鏡』はシン………として何も光らなかった。


 どちらが優勢かは明らかだった。



 ……………………アレクシスが独断で『真贋の鏡』を持ち出したことについては、そのやりとりも含めてすぐさま王と王妃そして側妃に伝えられた。

 王家の方にもセーレインの弱みをあわよくば握りたいという気持ちがあったのだろう。


 しかし、セーレインの婚約者であり、王族であるアレクシスが、


『セーレイン・フラガリア・アナナッサ侯爵令嬢を害したい』


 とはっきり思っているという結果は王家の失点になってしまった。

 今回のアレクシスの暴挙に対する慰謝料としてアナナッサ侯爵家に多額の賠償が支払われた。

 口止め料としてでもある。

 そして婚約継続の可否が、セーレインに恐る恐る王家から問い合わせられた。


 しかし、セーレインの答えはさすがというかあっさりしたものだった。


「政略結婚ですからね、そちらから頼まれた。私は婚約継続で構いません。アレクシス様とはうまくやっていけると思っております。王家の血筋を絶やすわけには参りませんもの」


 その返答を聞いた時、アレクシスは悲鳴をあげた。

 そして、


「婚約を解消させてくれ。俺が悪かったから」


 と叫んだが、怒った側妃に扇で殴られながら


「王族としての責任を果たせ!」


 と怒鳴られたし、王には冷たく、


「続行だ。アナナッサ侯爵令嬢の優しさに感謝せよ」


 と言われたし、王妃は、


「そら、ごらんなさい!」


 と高笑いした。

 第二王子のユリウスはそのやりとりをやり過ごそうとひっそりと隅に居た。


 ---


「…………というわけなのよ」


 打って変わって、侯爵家では和やかな雰囲気で、セーレインとセーレインの専属侍女であるミナが座って紅茶を飲んでいた。

 前とは違って、ミナの淹れる紅茶の温度は適温であり、セーレインもご機嫌だった。


「アレクシス様の茶葉が詰まってそうな耳を調べて差し上げようとして発動した風魔法はもったいないから更に凝縮して、アレクシス様の耳の近くに残して、陛下と王妃様そして側妃様の本音をアレクシス様の耳に届けたかもしれないけれど、アレクシス様ご自身に魔法をかけようとは思ってないわね」

「え、そうですか?」

「そうよ。それに私の話をいつもアレクシス様は聞いていらっしゃらないじゃない? 偶然の連続ね。聞いてくださったらいいな、とは思っていたけれど、まさか毎夜聞いてくださるとは思わなかったわ」


 どんな気持ちなのか、セーレインは微笑みながら首を傾げる。


「私の風魔法は無色透明で、他の魔法と違って無いものを呼び出さないし、元々ある空気を揺らして他の物を操ったり音を伝えたり、その結果色々起こるだけ。跡も残らない。私の風魔法は一切アレクシス様の玉体には触れてないわ」

「うーん、屁理屈のような」

「それにこれからももしかしたらアレクシス様には色々寝る前に何か聞こえるかもしれないけれど、私はアレクシス様を害しようとは微塵も思っていないし、貴族ですから王家に忠誠を誓っているし、政略結婚ですもの」

「さすがは天然の悪役令嬢セーレインちゃんですね」

「ふふっ、安心していいのよ、ミナ。あなたの言うヒロインとやらにも誠心誠意分かっていただくから」

「セーレインちゃん、強い!」


 和やかな時間がセーレインとミナの間に流れる。


 ---


 その後、ずっとどこか追い詰められたような表情のアレクシスは、貴族学園に入学してもその状態が続いた。

 ヒロイン(乙女ゲームのヒロインでオランジェ男爵令嬢)についても、風魔法に色々言い含められたアレクシスは、ヒロインを見ると、


「うわぁぁぁああ!!」


 と絶叫しながらめちゃくちゃに腕を振り回し、騎士に抱きかかえられながら学園を早退する有様だったので、ヒロインとアレクシスは絶対に鉢合わせないように手配された。


 ヒロインはアレクシスに、


「アレクシス様! 私っ……………………!」


 と直接アレクシスの名前を呼ぶという暴挙に出て声をかけていたが、目の前で絶叫されてはどうにもできない。


 その後、ヒロインも授業中に、


「囁き声が聞こえる!! 囁き声が聞こえるのよ!!」


 と絶叫して貴族学園を退学になった。


 未来の王であるアレクシスがいる場に出られないオランジェ男爵家は、自然と没落していった。


 --


 そして、アレクシスはセーレインの献身的な(?)サポートもあってなんとか貴族学園を卒業し、立太子した。

 完璧なセーレインのサポートとアナナッサ侯爵家の後ろ盾に支えられた結果である。


 このころには、アレクシスは人目がない所では、


「風が風魔法が語り掛けてくる………。俺が悪い。世界一悪い」


 とぶつぶつ呟く気味の悪さが目撃されていたが、王妃とセーレインは何事もないようににっこりと微笑んでいた。


 更には、アレクシスは立太子してから、


「立太子した。許された………」


 と呟き、数か月の内にあっという間に衰弱した。

 セーレインの献身的な看病の甲斐もなく、セーレインが手ずから作成した流動食も受け付けなかった。


 アレクシスは最後の最後、本当に死にそうになってから、王宮を辞する側妃とともに馬車に乗って辺境に向かっていった。

 そうなっても本当に善意のセーレインは婚約破棄も解消もしなかった。

 アレクシスの乗った馬車を心配そうな顔で頭を下げて見送った。


 そして、婚約が解消も破棄もされないまま、更に数週間後にアレクシスが辺境の地にたどり着いて死んだ旨がもたらされた。


 アレクシスの死から、流れるようなスムーズさで王家は待機させていた影の薄すぎる第二王子のユリウス(正妃の性格からして実の子の存在が薄いのが王家や貴族たちの中で謎のユリウス)とセーレインの婚約が結ばれた。

 懲りない王家の申し出に、セーレインは、


「王家の血筋を守れる方であれば、どなたでも」


 と答えた。


 ---


「セーレイン様やりましたね! セーレイン様が大変な結果にならなくて私とっても嬉しいです」


 王宮のセーレインの王太子妃専用部屋の一室でミナがガッツポーズをした。


 もちろん、いつものように人払いをしてセーレインとミナ以外は部屋にいない。


 それにミナはいつも気づいていなかったが、セーレインが風魔法で二人の会話が漏れないようにしていた。風魔法で二人が当たり障りのない天気の話やお菓子の話をしているかのように空気を操作して音を出している。


「ふふっ、ミナが喜んでくれて元気でいてくれて嬉しいわ。私のお気に入りのミナだけですものね。私を心から心配してくれるのは」

「そ、そんな………? そ、そんな事ないです!」

「これからも楽しくお茶しながら暮らしましょうね。ミナ」


 -おわり-

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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