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主君の求める【完璧な人間】はどういうものか。
「【完璧な人間】は仕事をきちんとこなす……」
その仕事がクビになったばかりの自分には主君の求める【完璧な人間】には程遠い。
「リューちゃん。何調べ物?」
二段ベットの上から顔を出して覗き込んでくるユゼル。
「ああ。次の仕事をな」
求人案内のチラシを見ながらユゼルに顔を向けずに告げる。
「とりあえず、客商売はやめた方がいいよ~。何かあるたびにお客さんとトラブル起こしているんだから~」
揶揄うような口調。面白がって笑っている気配もする。
「ぐっ!!」
文句を言いたかったが残念ながら事実だ。
「そう言うお前はどうなんだ?」
確か、客商売も客商売。飲食店の店員だったはずだ。自分のようなトラブルを起こしてもおかしくないだろうと……どこか同じ様なミスをしていることを期待したように問い掛ける。
「んっ? まあ、ぼちぼち」
いきなり言われて、驚いたように、考えてからそんな返答が来る。
「ぼちぼちではないだろう!!」
何気の抜けた返答なんだ。実は自分のようなトラブルをしているはずだと思っていたのに全くそんな体幹時でもないので、八つ当たりも兼ねて、
「そんな態度ではいつまでたっても【完璧な人間】になれないだろう!!」
などと叱りつける。
「…………」
ユゼルは黙っていた。
流石に言い過ぎたと気付き、八つ当たりをするなどと【完璧な人間】とは言えないと反省をして謝罪しようとちらしから視線を外して口を開いたが、それよりも早く。
「ねえ、完璧って何?」
「何を言っている、完璧って……」
「俺知らないんだよね。【完璧な人間】って」
さっきまで笑っていたのが嘘のように冷たい感情が消えたような……少なくても今は笑っている声ではなかった。
「ユゼ……」
「なんてね」
ユゼルが顔を引っ込める。
「分かってますよ~。俺たちは【完璧な人間】になるために頑張っているからね~。つい、変なこと言っちゃった~。ごめんね~」
「お、おいっ、ユゼル」
ユゼルの反応に違和感を感じて呼びかけるが、ユゼルは顔を出さない。
「なんか、疲れているみた~い。もう寝るね。お休み~」
はぐらかされたような声と共に、さっきまでの煩ささが嘘のように静まり返る。
「…………ユゼル」
呼びかけるが返答はない。本当に寝たのだろうか。
「おやすみ……」
答えのない挨拶をしてちらしをそっと枕元に置く。
「…………」
ユゼルはいつもそうだ。
そう。【完璧な人間】になるため人間の姿を取る以前から――。
なぁ~なぁ~
死に掛けていた子犬に向かって必死に呼び掛けていた黒い子猫。言葉が違うので意味が伝わらないものだったが、想いだけはしっかりと匂いを通して感じ取れた。
死ナナイデ。死ンジャダメ
子犬とはいえ、相手は自分よりも大きい存在だったのに必死に呼び掛けて助けようとする。ただが、たまたま近くの路地で捨てられただけの関係なのに――。
目を閉じて、やっと眠れると思っているのにその鳴き声がうるさくておちおち眠っていられない。黙れと言いたくてもしゃべる力も残っていない。
そんな風にずっと傍で鳴き続けていた猫がいきなり何かに警戒するように唸り声をあげた時にこれで気にしなくてすむと思ったものだ。
だけど、
『おや、不吉な黒い毛並みなのに、幸運を運ぶ青い目………何ともまあ、矛盾を宿した子猫だな』
人間の声。
ずっと唸っている子猫。
『何言っているのか分からないな』
人間がそう言ったと同時に、何か変な力を感じた。
『ほら、これでしゃべれるよ!!』
『離れろ人間!! リューちゃんに使づくなっ!!』
人間は魔法使いだったのだろう。子猫が人間の言葉をしゃべれるようになっていて、第一声は自分を守ろうとするものだった。その時になって、子猫がずっと自分のことをリューちゃんと名付けて呼んでいたことも知った。
『リューちゃん? ああ、そこの死に掛けの子犬かな。うん。番犬も必要かもね。――ねえ、君ボクの【使い魔】にならない? 代わりにその子犬を助けてあげるから』
『助けてくれるならなる』
迷うこともなく即答だった。こいつにとって胡散臭い申し出でも、自分を助けるためなら了承するものだったのだ。
変わりもの。
おかしい奴。
何でこいつはいつもそんな態度だったのか。
………こっちは、助けられた恩を返さないといけないと主君の望みの【完璧な人間】にならないといけないのにあいつはいつも飄々と。
「なあ、お前は何を考えているんだ」
問い掛けるが答えなどなかった。
リューステインは大型犬……白とか茶色の秋田犬とかそんなイメージ。
ユゼルは黒猫。クロネコヤ〇トの猫のイメージです。




