序章 目が覚めたら中学生
カーテンの隙間から差し込む朝日が、薄暗い六畳間を黒色から茜色に染めようとしていた。
ディスプレイの時計を見ると時刻は朝の5時40分。
ゲーミングチェアから離れ、視界に入ったのは脱ぎ捨てられたジャージ、ぐしゃぐしゃになった履歴書や求人票などのゴミで散らかった部屋
「……また朝寝か。今日はハロワに行くからこのままランニングして徹夜だな。」
寝間着から脱ぎ捨てたジャージに着替えてランニングの支度をして外に出た。
家を出る時には親父が起きていたが合わないようにして家を出た。
ランニング中に昨日届いた『残念ながら今回はご縁が……』のメールを思い出す。
何度目になるかはもう覚えていないお祈りメールだったが面接では好印象だったのに落ちた悔しさが俺こと伊那朝陽の胸を突き刺した。
「忘れよう、それよりトレーニングだ。」
朝陽は名前の通りに朝日に向かって走っていった。
俺は朝まで徹夜した時は必ずランニングと近くの山でトレーニングをしていた。
こんな今と過去を変えるために。
――
(こんなこと続けても無駄だよ……)
微笑むような声が頭の中で囁く。
分かってる。そんなことは、一番俺が分かってる。
だけど沈んだところで今の醜い自分が変わる訳では無い。そのために自主トレやジム通いをしている。
だけど、昼夜逆転して自堕落な生活を送り実家暮らしの子供部屋おじさん、通称:こどおじになっている自分、そしてニートの自分が変わる訳では無いという虚しい思いが心の中で澱んでいた。
そのとき、休憩中にスマホを覗く。
よく見るのはTwitterだが、若いTwitterの仲良いFFに教えて貰って入れたインスタのタイムラインに、一枚の写真が流れてきた。
◇
『浅倉大我 結婚しました!めっちゃ幸せです!』
高級そうなスーツを着た男が、ウェディングドレスの女と肩を寄せ合って笑っている。
だが俺の目は、その男の名前を見た瞬間、時間が止まった。
浅倉大我。
かつて俺を笑い、殴り、人生を壊した――中学時代のいじめの中心人物。
『今度みんなでパーティーな笑』
『大我、昔からイケメンで人気者だったもんなー!』
『奥さん美人すぎ笑うらやま!』
画面の中で祝福の言葉が溢れる。
まるで、こいつの過去の罪なんて存在しなかったかのように。
「……ふざ、けんなよ……」
指が震え、スマホを握る手に力が入る。一瞬、スマホからパキッと音がしたためあわわて力を弱めた
――なんで、あいつが幸せになってんだよ。
――なんで、俺はこんなクソゴミニートで、何も持たずに独りなんだよ。
「俺の人生、返せよ……!」
感情が爆発し、気づけば俺は心の中の呪詛を吐き出すように朝日の中、山の中をかけていた。
◇
秋の終わりの朝の冷たい風が頬を打つ。
解けた靴紐も結ばずに、俺は山から3キロほど離れた 河川敷沿いの道を全力で走っていた。
息が切れる。肺が焼ける。
だけど走るのを止めたら、トレーニングを止めたら俺は本当に終わってしまう気がした。
――あの日、奴らにやり返す力があったら。
――俺に、やり直すチャンスがあったら。
「もう一度やり直してぇぇ……! もし、あの頃に戻れるならなぁ……!」
休憩のため立ち止まり溜め込んだ呪詛を川に向かって叫んだ。
その瞬間、眩いライトが視界いっぱいに広がった。
《キィィィィィッ――!!》
ブレーキ音。
衝撃。
「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!」
「なんだ今の音?人が倒れているぞ……!」
「救急車!」
身体が宙に浮き、俺の体はどうやら道路に叩きつけられたようだ。僅かに空いている目にはあわわて車から降りてくる運転手や川沿いに住む人達、血なのか赤さで視界が赤くなり段々、黒くなった。だが耳には大勢人の声が聞こえる。
「俺……は死ぬ……のか……。」
消えゆく意識の中で中学卒業の時に絶縁した幼馴染 神城雫葉の顔が何故か思い浮かんだ。
(雫葉……でも俺はもう君にきら……)
俺の意識は晩秋の朝の中に消えていった。
こうして伊那朝陽 28歳の人生は終わりを告げた。
◆
「……ん?」
鳥の鳴き声が聞こえる。
春の匂いがする。今は秋だからそんな匂いはしないし、鳥の声も春の鳥の声だを
ゆっくりと瞼を開けた俺は、見覚えのある天井を見つめて息を呑んだ。
木目の模様。角のシミ。
何度も見た、部屋の天井。
「ここ……は……」
身体を起こすと、自分の手が小さい。腕も細い。
そして――ドアがガチャと開いた。
「朝陽ー? 早く起きなさい、遅刻するわよー!」
若いが聞き慣れ母の声だ。
この俺、何か変だ?母は年の割には若いが15年前の母の声じゃないか。
部屋の隅においてある鏡の前に立つ。
そこには、学ランを着た13歳の俺が映っていた。
「え!?学ラン!?確かに上着はまだ家にあったけどキツかったけどてかこの格好中学の時のまんまやんけ!」
鏡に映る自分の姿に驚きながらも震える唇で、俺は笑った。
「これってもしかしてタイムリープってやつか?本当に俺は中学の時に戻ったのか?」
部屋にかかっているカレンダーを見る。当時流行っていたアニメ 「じゅうおん!」のカレンダーだ、懐かしい。やっぱり今の俺の部屋じゃない。よく見渡すとデスクトップの代わりに勉強机の上にはディスプレイ、その隣には小さなテレビ台が置いてある、中学の時に使っていたベッド、本棚には昔読んでいたラノベや漫画と趣味の歴史の本が少しだけ置かれていた。今の本棚は歴史書ばかりでラノベよりも多いから俺の部屋ではない。あれ?中2の時にディスプレイとテレビなんてあったけ?と記憶を思い返すが何故かそこだけノイズがかかったように思い出せない。他のことは思い出せるんだが。
「じゅうおん!」のカレンダーを見てみると2012年4月だった。
「2012年4月ということはもう中2の新学期がはじまってるな」
「朝陽ー!まだなの〜?しーちゃんが待っているから早く来てー!」
「わかったよ母さん!え、しーちゃん?」
母の急かす声に急いで階段を降りようとした時、あるワードが耳に入った。
しーちゃんは母が幼馴染の神城雫葉に名付けた愛称だ。雫葉の事を呼ぶ時や話題にする時は必ず”しーちゃん”と呼んでいた。
階段におりリビングに続くドアを開けるとそこには眼鏡を掛け陽の光に照らされて輝く黒髪ロングストレートヘアで眼鏡をかけたセーラ服姿の少女がリビングの椅子に触りながらキッチンにいる母とにこやかに談笑していた。
「なんで……雫葉……ここに……え……」
俺は喜びよりも戸惑いが脳内を駆け巡るを
なぜなら、俺と雫葉は幼馴染だ。家も隣同士だったがそれは小学校を卒業してすぐに俺は引っ越した。
引っ越したと言っても同じ町内の新興住宅街だったが、雫葉の家と俺の家は20分程離れている。
「何言ってるの朝陽、雫葉ちゃんもこの住宅街にしかも隣に引っ越してきたじゃない!それより早く朝ごはん食べて!入学式だから遅刻なんて出来ないんだからね!」
「ああ、わかったよ。いただきます。それとし、し、雫葉おはよう」
「おはよう朝陽、おば様も準備があるから早く食べたら?」
俺はパンを食べながら返事をする。目の前にいるのは間違いなく中学時代の神城雫葉だ。清楚な文学女子を思わせる端正な顔を俺は忘れない。
ニートしていたあの時も気持ち悪いが忘れたことは無い。数少ない幼馴染だからだ。
「ご馳走様!母さん、聞きたいんだけどいまって何年何月何日?」
パンを急いで食べ終わり2階に支度に行こうとしていた母に聞いてみた。母の声は面倒くさそうに返ってくる。
「2012年4月7日!中学の入学式っていったでしょ?早くして!」
(あれ?入学式なら2011年のはずなんだが)
頭に?の文字を朝陽は浮かべていた。なんか違和感が多いなこの過去。もしかして、タイムリープした訳では無いのか?
「私はもう準備できているし、あとはおば様の支度が終わるの待つだけね。朝陽どうしたのとぼけた顔して?」
雫葉の優しくも少し気だるそうな声が耳に入った時俺の心の鐘がなった気がした。
俺の第二の人生が、今、始まる。
急に深夜にリベンジものを書きたくなったので書いてみました!でも、普通のリベンジものだとつまらないので少し趣向を変えて良く似た世界に転生したものにしました。
今後ともよろしくお願いします。




