表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

八百万企業〜神様はブラック企業〜

作者: しばらく芝

就職失敗した主人公が就職したのはまさかの神様が地球を動かす為の会社!?

ブラック企業ではあるものの楽しくハチャメチャなストーリーが今始まる!

 ――また、落ちた。


 スマホの画面に映る「不採用通知」の文字を見つめながら、小野寺祐真おのでら・ゆうまはテーブルに額を打ちつけた。ファミレスの固い木目調テーブルが、妙に冷たくて痛い。


「……もう、何十社目だよ」


 大学を出て半年。就職活動はことごとく失敗し、バイト先も潰れてしまった。気づけば手元の貯金は残り数千円。

 夢も希望もなく、ただ空っぽな時間だけが膨らんでいく。


 どうしようもなく自己嫌悪に沈みかけていたその時、視界の端に妙なものが映った。


 テーブルに、チラシが一枚、ぴったりと貼り付いている。


《急募! 八百万カンパニー 未経験歓迎! 神々と一緒に働ける職場です!》


「……は?」


 怪しい。怪しすぎる。

 だが、条件欄にこう書かれていた。


《給与:神の気まぐれ》

《福利厚生:宴会、供物、祈願成就》


「何だよこれ……。いや、でも……応募くらいはタダだし」


 ヤケクソ気味にQRコードを読み込んでしまったのが、すべての始まりだった。



---


 翌日、指定された雑居ビルの三階。

 ガタガタのエレベーターを降りると、そこには「八百万カンパニー」と手書きで殴り書きされたプレートが掛かっていた。


「絶対ブラックだろ、これ……」


 不安に押し潰されながらドアを開けると――。


「おはようございまーーす! 本日も世界を回しましょう!!」


 耳と尻尾を生やした女性が、狐耳をピコピコ揺らしながら元気に挨拶してきた。


「は?」

「は? じゃないですよ! あなたが新入りの人間くんですか?」


 狐耳の彼女――名札には「営業部 稲荷 千狐いなり・ちこ」と書かれている。


「いらっしゃいませ! ここが噂のブラック企業、“八百万カンパニー”ですよ!」


「え、いや、ブラックって自分で言っちゃうの!?」



---


 案内されたオフィスは、想像以上にカオスだった。

 壁一面に貼られた「天候スケジュール表」には《関東ゲリラ豪雨 納期厳守》の文字。

 机の上では小さな雷雲がバチバチと火花を散らし、社員たちは書類ではなく巻物をせっせと捲っている。


「おいコラァ! 誰だ! 雨量計算ミスったのはァ!!」


 ドゴォン、とオフィス全体を揺らす雷鳴。

 現れたのは、筋肉でスーツが破れそうな大男――雷神課長だった。


「納期遅れは天地開闢以来の恥だぞオラァ! 残業確定だァ!!」


「ヒィィィ!」と天候課の下っ端神が机に土下座する。


「…………」

 祐真は確信した。

 ここは人間が来る場所じゃない。



---


 昼休み。

 稲荷の勧めで、屋上に出た祐真は、コンビニ弁当を広げながらため息をついた。


「……帰ろうかな」

「えー? せっかく人間が入ったんですから、続けましょうよ!」


 千狐がキツネ耳をひょこひょこさせながら笑う。

「人間って、何かと自己嫌悪しがちですよね。神さま目線だと“可愛いなあ”って思うんですけど」


「……可愛いって。俺、ただの落ちこぼれだぞ」


 そう口にした瞬間、祐真の胸がずしんと重くなる。

 どうしようもなく、自分が無価値に思えた。


 その時――。


「――バカヤローッ! 悩む暇があったら踊れぇ!!」


 屋上に爆音が響いた。現れたのは、スーツ姿で酒瓶をぶら下げた男。

 派手な赤い鼻に、天狗の羽団扇。


「さ、猿田彦の部長!?」千狐が驚く。


「そうだ! 俺こそ人事部長、猿田彦 道真だ! 悩める社員を宴で救うのが仕事だァ!」


 そして祐真に向かって指を突きつける。

「お前、そんなに落ち込んでるなら――裸踊りでもして笑わせてみろッ!」


「いやしませんけど!?」


---


「踊れって……ここ、会社ですよ!?」


「会社だからだッ!」

 猿田彦部長は断言した。


「ここは八百万カンパニー! 仕事は世界を回すこと! だがな、落ち込んでちゃ回らねぇんだよ。宴こそ潤滑油、バカ騒ぎこそ最高の生産性だァ!」


 ……全く意味がわからない。

 だが狐耳の千狐は「そうそう!」と手を叩いている。


「さすが部長! 飲めや歌えやが、この会社の“基本理念”ですからね!」

「理念にすんなよそんなもん!?」


 祐真が必死にツッコんだその時、スマホが震えた。

 新しい通知――タイトルは《業務連絡》。


《新入り人間は即戦力扱い。雷部へ応援要請》


「……応援?」

「お、仕事デビューですね!」千狐がニコニコ笑う。


「いやいや、俺まだ契約書とか書いてないし!」

「大丈夫です、神様の世界は契約よりノリが大事です!」

「絶対大丈夫じゃないだろ!」



---


 案内された雷部。

 ドアを開けた瞬間、耳が破れるかと思う轟音が響いた。


「納期! 納期! 納期ィィィ!!」

「ヒィィィ!!」


 机の上に積まれた「雷申請書」の山を前に、部下たちが震え上がっている。

 その中央で仁王立ちする雷神課長は、紫電をまといながら怒鳴り散らしていた。


「貴様らァ! 昨日の雷、規模が小さすぎだ! もっと派手に落とさんかいッ!」


「す、すみません課長! 残業してでも巻き返します!」


「当たり前だァ! 天地開闢に残業は付き物だァ!!」


「…………」


 祐真は思った。

 この会社、ほんとにやべぇ。



---


「おう、新入り」

 雷神課長の目がギラリと光り、祐真を睨んだ。


「お前、人間だな?」

「は、はい……」

「ちょうどいい! お前、書類運びやれ!」


「書類、ですか?」

「雲から雲へ届けるんだよォ! オラ、早くしろ!」


 問答無用で祐真は雷雲の上に放り出された。

 空は真っ暗、足元で稲妻がバチバチと弾ける。

 宙に浮かぶ巻物を抱えて必死に走る。


「ぎゃあああ! 死ぬ死ぬ死ぬ!!」


「大丈夫ですよー!」と空中を狐耳が飛んでついてくる。

「祐真さん、落ち着いて! ここで死んでもただの“労災”ですから!」

「神様世界の労災とか信用できるかあああ!」



---


 どうにか書類を届けた頃には、全身ボロボロになっていた。

 オフィスに戻ると、雷神課長が鼻を鳴らした。


「フン……まあまあだな、人間のくせに」

「お、俺……死ぬかと思いました……」

「死んでからが本番だァ!」

「働き方改革って言葉知らないんですか!?」


 机に突っ伏す祐真。心は折れかけていた。



---


 その夜。

 帰ろうとした祐真を待っていたのは――宴会場だった。


「新入り歓迎コンパーーイ!!」


 天照総務課長がマイク片手に歌い、稲荷千狐がビールジョッキを掲げ、雷神課長が大鍋ごと酒をあおっている。

 社員たちは踊り、笑い、机の上で裸踊りを始める者まで出てきた。


「……な、なんでみんな元気なんだよ。あんなに残業してたのに」


 祐真が呆然としていると、猿田彦部長がドンと肩を叩いた。


「よく見ろ、小僧」

 赤ら顔の部長が真剣な目で言う。


「こいつら全員、神様だ。強そうに見えても、悩みや弱さを抱えてる。自己嫌悪もある。理不尽に苦しむ日もある」


「…………」


「でもな。だからこそ、こうやって笑うんだよ」

 部長は豪快に酒を飲み干した。

「バカ騒ぎして、また明日を回す。それが、この会社の流儀だ」


 祐真は気づく。

 ――確かに、今日死にそうな思いをしたけど。

 それでも笑ってる神様たちを見ていると、胸の中が少しだけ温かくなる。


「……俺、やっぱり場違いかもしれないけど」

「何言ってんだ!」猿田彦部長が怒鳴った。

「お前がいるからこそ盛り上がるんだ! 人間ってやつは、神様にない輝きを持ってる!」


「輝き……?」


「そうさ! お前がもっともっと素敵になれる力があるってことを、神々に教えてやれ!」


 ――その瞬間。

 宴会場の照明が落ち、誰かがスポットライトを祐真に当てた。


「え、ちょっと待って、俺?」

「さあ新入り! 一発芸やれェ!!」

「無茶振りかよおおおお!!」


 祐真の悲鳴は、夜空に響く神々の笑い声にかき消された。


---


 入社二日目。

 祐真はデスクに突っ伏していた。


「……体が重い。筋肉痛で全身バキバキだ」

「昨日、雲の上を走らされましたからね」

 狐耳の稲荷千狐が差し出したのは、山盛りの油揚げ。


「食べます?」

「いや、それ完全に君の好物だよね?」

「大丈夫です! 私が食べるから!」

「やっぱり俺の分じゃないのかよ!」


 そんな漫才のようなやり取りをしていると、スマホにまた《業務連絡》が届いた。


《新入り人間、縁結び課に応援要請》


「……また応援?」

「ですね! 祐真さん、今日は縁結び課です!」

「……嫌な予感しかしない」



---


 縁結び課はオフィスの一角を改装した、やたら派手な部屋だった。

 壁一面に貼られた「成婚達成率グラフ」。机の上には「カップル成立ノルマ一覧」。

 まるで婚活パーティ会社のようだ。


「よく来たわね、新入り!」


 現れたのは長い髪の女神。真っ赤なスーツに身を包み、きらびやかな笑みを浮かべている。


「私は縁結び課の課長、大国主おおくにぬし。この部署は“恋愛担当”よ!」

「恋愛担当……?」

「そう。人間同士の縁を結ぶのが我々の仕事!」

 女神はウィンクを飛ばした。

「で、君には合コンのサクラをやってもらうわ」


「サ、サクラぁ!?」



---


 案内されたのは巨大なホール。

 そこでは数百人の男女が集まり、まるで婚活パーティのような熱気に包まれていた。


「ちょっと待って、これ神様主催なんですか?」

「そうよ! 人間の恋愛市場は放っておけないの。今は“出会い系アプリ”に押されて厳しいのよね」

「競合他社!?」

「だからね、君には“普通の青年枠”として参加してほしいの」


 無茶振りもいいところだ。

 祐真はスーツを着せられ、番号札を貼られて会場に放り込まれた。



---


「よ、よろしくお願いします」

 向かいに座ったのは普通の女性……に見えたが。


「わたし、死神です♡」

「……は?」


 隣の席へ移ると、今度は目が三つある女神。

「私の趣味は覗き見よ」

「怖っ!!」


 さらに移動すると、炎をまとった青年が自己紹介した。

「火の神です。俺と付き合えば一生暖房いらずだぜ」

「いや、一緒に寝たら焦げるだろ!」


 次々と現れる“人外参加者”。

 どうやら縁結び課は、神や妖怪たちの恋愛まで面倒を見ているらしい。


「なんで俺だけ人間界の常識で戦ってんだよ!!」



---


 やがて始まった「フリータイム」。

 祐真は隅で体育座りしていた。

「……帰りたい」


 その横に腰を下ろす影があった。

「大変ね、人間の子」


 振り返ると、美しい女神――しかしどこか影を帯びた雰囲気の女性がいた。

「私は“嫉妬の女神”。……誰も私を選ばないの」


 その瞳には寂しさがあった。

 祐真は戸惑いながらも、口を開いた。


「……でも、さっきの火の神よりは一緒にいて安心できそうですけど」

「えっ」

「いや、正直。俺は怖いのより、ちょっと寂しそうな人の方が気になるから」


 女神は目を見開き、やがて小さく笑った。

「……ありがとう」


 その瞬間――

 場内アナウンスが響いた。


《速報! 新入り人間、マッチング成功!》


「え、ちょっと待って!?」

「おめでとう祐真さん!」

「勝手に成立させんなあああ!!」



---


 騒然とするホール。

 だが大国主課長は満面の笑みで言った。


「よくやったわ新入り! これで今月の成婚ノルマ、達成よ!」

「俺の人生を勝手にノルマ達成に使うなああああ!!」


 その声は婚活ホールに虚しく響き渡った。


---


「マッチング成功おめでとうございます!」

 狐耳の千狐がクラッカーを鳴らした。


「いやいやいや、勝手に決めないでよ!」

「だってアナウンスで流れちゃったんですから仕方ないですよ。ほら、拍手拍手!」

「パチパチパチ~」

「……雷神課長まで混ざるなあああ!」


 縁結び課のホールはお祭り騒ぎ。

 当の“嫉妬の女神”は、照れたように頬を赤らめていた。


「……ねえ、人間の子」

「は、はい」

「さっきの言葉、本気で言ってくれたの?」

「えっと……まあ、その場のノリで……」


 女神の目がすっと細くなる。

 背後に黒いオーラが立ちのぼる。


「……ノリ?」

「ごめんなさい冗談です本気です嘘じゃないです土下座します!」

「ふふっ、冗談よ。あなた、面白いわね」


 心臓が爆発するかと思った。

 この会社、ほんと心臓に悪い。



---


 宴が終わり、縁結び課のオフィスに戻ると、さっきまでの明るさとは一変していた。

 部屋の隅で書類が山積みになり、社員たちは死んだ魚の目でペンを走らせている。


「……なにこれ」


 祐真が呟くと、大国主課長が肩をすくめた。

「ノルマよ。毎月“成立数”を報告しなきゃいけないの。数字が足りないと、取引先――つまり人間界の“出会い系アプリ”に仕事を取られる」


「……競争社会って神様の世界にもあるんですね」


「当たり前でしょ? 神だって食べていかなきゃいけないのよ」


 課長は笑ったが、その目はどこか疲れていた。

 嫉妬の女神も机に突っ伏しながら、ぽつりと呟いた。


「……誰も私を選ばない。ノルマのためにマッチングされても、結局はキャンセル。数字だけ埋めても、誰も幸せじゃない」


 祐真は黙り込む。

 この会社、ふざけた騒ぎばかりしてるけど……その裏にはちゃんと「苦しみ」もある。



---


 その夜。

 またもや社内の大広間で宴が始まった。


「新入りマッチング記念コンパーーイ!!」

「また宴かよ!」


 雷神課長は酒樽を抱え、猿田彦部長は机の上で踊り、天照総務課長はマイクで歌っている。

 社員たちは笑い、踊り、油揚げが雨のように降ってきた。


「……なんでこんなに楽しそうにできるんですか。ノルマで苦しんでたじゃないですか」

 祐真が呟くと、隣で唐揚げを頬張っていた千狐がにっこり笑った。


「簡単ですよ。泣いても笑っても、明日はやってくるんです。だったら笑って迎えた方が楽しいでしょ?」


「……楽しくなんてできないことも、あるんじゃ」


「もちろんあります。でも、宴の時くらいは全部忘れるんです。そうすれば、また頑張れるんですよ」


 祐真は黙って周囲を見渡した。

 疲れ切った顔をしていた縁結び課の社員たちも、今は楽しそうに踊っている。

 嫉妬の女神も、ほんの少しだけ笑顔を浮かべていた。


 ……なんだろう。

 この会社は、やっぱりおかしい。

 でも、なんだか温かい。



---


「おい、新入り!」

 猿田彦部長がジョッキを片手に叫んだ。


「お前、また一発芸だ!」

「またかよおおおおお!」


 場の空気が祐真に集中する。

 仕方なく立ち上がり、震える声で言った。


「えー……ここで一句。

 “神様も ブラック企業で 婚活中”」


 一瞬の静寂。

 次の瞬間、爆笑が巻き起こった。


「座布団一枚ー!」

「俳句芸人だな!」

「おい、新入り! お前、案外この会社に向いてるんじゃねぇか?」


 笑い声の渦に包まれながら、祐真は気づいた。


 ――もしかしたら俺、この会社でちょっとだけ居場所を見つけられるかもしれない。


---


「新入り、出張だ」

 朝礼で人事部長・猿田彦が告げた。


「……え、俺まだ入社三日目なんですけど」

「安心しろ、簡単な仕事だ。地獄支社に行って、書類を届けるだけだ」

「地獄!? 簡単な仕事じゃねぇだろ!!」


 狐耳の千狐が手を挙げた。

「わーい! 出張ですね! 温泉ありますか?」

「地獄に温泉はあっても、たぶん硫黄臭しかしないと思うけど……」


 こうして祐真は、千狐と一緒に“地獄支社”へと派遣されることになった。



---


◆ 地獄支社到着


 エレベーターの扉が開いた瞬間、灼熱の熱風が吹き荒れた。

「暑っ!!」

 祐真はスーツのネクタイを引っ張りながら顔をしかめる。


「ようこそ、人間くん」

 迎えに来たのは閻魔大王……ではなく、やけに疲れたスーツ姿の中年男性だった。


「地獄支社・総務課長の閻魔です」

「閻魔様!? なんか想像と違う!!」

「はは、みんなそう言うんだよ。……さ、こちらへ」


 案内されたオフィスは、赤黒い壁に覆われ、机の上には山のような書類。

 社員は鬼たちだが、みんなネクタイ姿でカタカタとパソコンを打っていた。


「……まさかのホワイトカラー!!」

「地獄もね、人間界の過労死者が増えたせいで、事務仕事が激増してるんだ。残業? 無制限だよ」


 閻魔の目は死んでいた。

 祐真は背筋を震わせた。

「うわぁ……地獄って、こういう意味でブラックなんだ……」



---


◆ 書類トラブル発生


 届けるだけと言われた書類は、“亡者リスト”だった。

 だが受け取った鬼が首をかしげる。


「課長、これ……名前がダブってます」

「なに?」


 閻魔がページをめくり、顔をしかめた。

「……同じ人間が二人登録されている」

「え、どういうことですか?」と祐真。


「つまり……誰かが“まだ生きている人間”を死者リストに紛れ込ませた」


 オフィスの空気が一気に重くなった。

 鬼たちがざわめき、千狐が耳をぴくりと動かす。


「もしそれが本当なら……」

「……本来生きるはずの命が、地獄に落とされてるかもしれない」


 ぞっとする言葉だった。



---


◆ 不正調査


「新入り、人間である君に頼みたい」

 閻魔は祐真に紙束を差し出した。

「このリストの“誤登録者”を探してほしい。鬼や神だと気づけない細かい人間界の痕跡が、君にはわかるかもしれない」


「えぇ!? 俺まだ研修中なんですけど!?」

「ブラック企業に研修などない!」

「うわああああん!!」


 泣きながらもリストを確認する祐真。

 ふと、ある名前に目が止まった。


『西園寺美羽(享年17)』


「……あれ? この人、俺の中学の同級生じゃ……」


 次の瞬間、祐真の耳にかすかな声が届いた。


――たすけて。まだ死んでないのに。


 背筋が凍りついた。


---


◆ 死者工場へ潜入


「――というわけで、新入り。死者の流れ作業工場に潜入だ」

 閻魔が真剣な顔で言い放つ。


「え、ちょっと待って。俺、ただの派遣社員みたいな立場なんですけど」

「人間は人間の匂いを嗅ぎ分けられるんだ。君しかできない」

「そんな犬みたいな能力ないです!!」


 千狐が元気よく手を挙げた。

「任せてください! 僕、犬っぽいですから!」

「お前は狐だろ!!」


 結局、祐真と千狐は鬼の作業服に着替え、“死者の工場”へ潜入することになった。



---


◆ 地獄のライン作業


 そこは、まるで巨大な倉庫。

 ベルトコンベアの上を、淡い光の“魂”が流れていく。


「うわ……本当に流れ作業だ……」

 鬼たちがスタンプを押し、魂はそれぞれ「天国行き」「地獄行き」と振り分けられていく。


「はい次! はい地獄! はい次! 天国! サボるな新人!」

「……なんか想像してた裁きより雑!!」


 千狐は目を丸くしながら、魂の一つを指差した。

「見てください、あれ!」


 コンベアに流れていた光の中に、一つだけ“まだ赤みを帯びた魂”があった。

 その札には――「西園寺美羽」


「やっぱり……!」



---


◆ 魂を取り戻せ!


 祐真はベルトコンベアに飛び乗った。

「おい新人! 作業ラインに入るな!」鬼の監督が怒鳴る。

「うるさい! こいつはまだ死んでないんだ!!」


 必死に魂を抱き上げる祐真。

 だが次の瞬間、周囲の鬼たちが一斉に立ちふさがった。


「勝手なことをするな! ノルマが乱れる!」

「お前らまでノルマかよぉぉぉ!!」


 鬼の一人が鉄槌を振り下ろそうとした、その時――


「どけぇぇぇぇ!!!」

 雷鳴のごとき声と共に、雷神課長が天井を突き破って降ってきた。


「な、課長!? なんでここに!」

「上層部にチクったら宴の酒が減るだろうが! バカタレ!」


 雷神課長の電撃パンチが鬼を吹き飛ばす。

 さらに千狐が祐真の手を引き、二人は魂を抱えて走り出した。



---


◆ 脱出大作戦


「止まれぇぇぇぇ!!!」

 鬼たちが追いかけてくる。


「千狐、出口どっち!?」

「こっちです! でも警備が……」


 突如、通路の先に巨大な門番の鬼が立ちはだかる。

「ここを通すわけにはいかん!」


 祐真は咄嗟に魂を抱きかかえたまま叫んだ。

「すみません! 書類の不備です! 緊急持ち出し案件です!」


「……書類の、不備?」

 鬼たちがざわめく。


「確認印は?」

「えーっと……」

 祐真は慌ててポケットから名刺を出す。


『八百万の神々株式会社・新入社員』


「これが証拠です!」

「……正式印じゃないか!」


 鬼たちがざわっとたじろぐ。


「さすがブラック企業の新人、嘘八百も自然だな!」

「褒められてる気がしない!!」


 その隙に祐真たちは門を突破、必死に走って支社の外へ飛び出した。



---


◆ 救出と宴


 魂を抱えた祐真の前に、閻魔が立っていた。


「……やるじゃないか、新入り」

「はぁ、はぁ……美羽は?」


 閻魔は静かに頷く。

「安心しろ。この魂は人間界へ戻しておいた。彼女はまだ生きている」


 祐真はその場にへたり込み、大きく息をついた。

 胸の奥からじんわりと安堵が広がる。


「……ありがとう、祐真」

 かすかに聞こえた少女の声。

 涙がこぼれそうになった。



---


◆ そして結局…


 その夜。


「出張おつかれー!!」

 またしても会社では宴が開かれていた。

 雷神課長が酒を振り回し、千狐は唐揚げを山盛り食べ、猿田彦部長は机の上で踊っている。


「……人の命がかかってたのに、なんでこうなるんだ」

 祐真は呆れながらも、気づけば笑っていた。


 ――この会社はめちゃくちゃだ。

 でも、めちゃくちゃだからこそ、救えるものもあるのかもしれない。


---


◆ 突然の辞令


「新入り、天界本社に行け」

 ある朝、祐真は猿田彦部長にそう言われた。


「え!? この前は地獄だったじゃないですか! 今度は天界!? 振れ幅デカすぎません!?」

「安心しろ、今回は視察だ。ただ、監査も入るからな」

「監査……?」


 雷神課長が真剣な顔で言った。

「今、本社では“リストラ”が進んでいる。信仰を失った神々を切り捨てる動きが強まっているんだ」


 千狐が驚きの声をあげる。

「えぇ!? 神様もクビになるんですか!?」

「なるぞ。信仰ゼロ=売上ゼロだからな。神界も資本主義の荒波の中にあるんだ」

「夢がねぇぇぇぇ!!!」



---


◆ 天界本社到着


 天界本社は、まばゆい雲の上にそびえるガラス張りの巨大ビル。

 受付には白衣に羽根をつけた天使たちが並び、ビジネススマイルで来客を迎えていた。


「いらっしゃいませ。ご用件は?」

「えっと……出向で来ました、新入社員の祐真です」

「……はい。では来客用の羽をお付けください」


 差し出されたのはダサい簡易羽根ハーネスだった。

「なにこの遊園地のレンタルコスプレみたいなやつ……」

「お似合いですよ!」千狐は満面の笑顔。

「うるさい!」



---


◆ リストラ候補の神々


 案内された会議室には、しょんぼりした神々が並んでいた。

 髭を蓄えた雷神の老人、どこかで聞いたことある農耕神、地域限定の河童神まで。


「ここにいるのは全員、信仰が落ち込んだ神々です」

 監査官の天使が冷たく告げた。

「皆さんは次期決算までに“存在意義”を証明できなければ、リストラとなります」


「存在意義って……」

 祐真は思わず口を挟む。

「神様だって、一生懸命やってきたんじゃないんですか?」

「結果がすべてです。数字を残せない者に未来はありません」

 天使の言葉は冷徹だった。


 神々は肩を落とし、重苦しい沈黙が漂う。



---


◆ 神々の叫び


 やがて、一人の農耕神が震える声をあげた。

「わ、わしらだって努力しておる! だが、コンバインやドローン農業が進んで……祈りなど必要とされんのじゃ!」


「拝まれなきゃ存在できないのに、誰も振り向いてくれん!」

「わしらはもう、不要なのか……」


 祐真は胸が締め付けられた。

 数日前救った美羽の声が脳裏によみがえる。


――ありがとう。まだ生きていたい。


「……ちょっと待ってください!」

 祐真は机を叩いて立ち上がった。


「信仰がゼロだからって、本当に必要ないって決めつけていいんですか!?

 農業神がいなきゃ、人間が“食べ物のありがたみ”を思い出せなくなるかもしれない。

 川の神がいなきゃ、“自然を守ろう”って気持ちが薄れるかもしれない!」


 会議室がざわめいた。

 監査官は冷たい目を向ける。


「……新入社員風情が、何を知ったような口を」

「新人だから見えることだってあるんですよ!」


 その瞬間、空気がピリついた。


---


◆ 公開ディベート開始


「では……新人の意見があるなら、公開ディベートで証明してもらいましょう」

 監査官が冷笑を浮かべる。


「なっ、ディベート!? 俺そんな得意じゃ――」

「議題は“信仰の有用性”。賛成側に神々、反対側に監査官。そして君は……進行役兼、補佐だ」

「進行!? 司会者ポジ!? それ責任一番重いやつ!!」


 千狐が励ますように尻尾を振る。

「大丈夫です、祐真さん! ここは勢いとノリで!」

「お前、軽すぎるわ!!」



---


◆ 神々の主張


 最初に立ち上がったのは川の神。

「わしらは、ただ川を守ってきただけじゃ! 水が汚れれば人も困るんじゃ!」

「エコ活動? 環境団体に任せれば?」と監査官。


 次に農耕神。

「人間が米を食べるたび、わしはそっと祝福してきた! 感謝の心を忘れるなと!」

「今の人間は“いただきます”の意味すら知らないでしょう」と監査官。


 次々と神々が叫ぶが、監査官は冷徹に切り返していく。

 会議室は次第にしんと静まり返り、神々の目は絶望に曇っていった。



---


◆ 新人の逆転案


「……もういいでしょう。結論は出ました」

 監査官が書類を取り出す。


「これよりリストラ対象神は――」

「待ってください!!」


 祐真が叫んで机に身を乗り出した。


「確かに、昔みたいに“祈る習慣”は減ってます。

 でも人間は、今も“ありがとう”って言葉を口にしてます!

 ご飯を食べるとき、川を眺めるとき、自然を感じるとき……。

 それは祈りの形が変わっただけじゃないんですか!?」


 監査官の手が止まる。


「数字に残らない信仰は、存在しないのと同じです」

「だったら、残せばいいんです!」


 祐真は立ち上がって叫んだ。


「“いいね”や“フォロー”でバズる時代です!

 農耕神が田んぼで動画撮って『#米はいいぞ』って発信すれば、若者の信仰も回復するかもしれない!

 川の神が水質浄化の実況やれば、エコ活動として話題になるかもしれない!

 “数字”に縛られるなら、その数字を取りに行けばいいんですよ!」


 神々が一斉に顔を上げる。

「SNS……」

「バズ……」

「それが……信仰……?」


 監査官の表情がわずかに揺らいだ。



---


◆ 神々の逆転プレゼン


 その後の会議室はカオスと化した。


「見よ! わしの“豊作ダンス”を! TikTokで100万再生じゃ!」農耕神が稲を振り回して踊る。

「こちらは“水質浄化配信”! コメント欄に“川きれい”と溢れておる!」川の神がスマホを掲げる。

「わしは猫とコラボした! “#河童とねこ”はバズると聞いてな!」地方河童神が動画を流す。


 会議室は笑いと活気に包まれた。

 神々の目が再び輝き始めていた。



---


◆ 監査官の裁定


「……バカバカしい」

 監査官がため息をついた。


「しかし――数字は数字。確かに反応は得られている。

 よって、リストラは一時保留とする」


 神々が一斉に歓声を上げた。


「やったぁぁぁ!!」

「生き残ったぞぉぉ!!」

「いや、そもそも死んでるけどな!」


 祐真はぐったりと椅子に座り込んだ。

「……こんなの俺の仕事じゃないだろ……」



---


◆ そして結局(お約束)


 夜、天界本社の屋上庭園にて。


「祝勝会だぁぁぁ!!」

 神々が宴会を始め、酒が雲の上から滝のように流れ落ちていく。


「ちょ、地上に酒降ってる!!」

「豊穣の雨じゃ、問題ない!」農耕神が豪快に笑う。


 千狐は唐揚げを山盛り抱えて大はしゃぎ。

「祐真さん、やっぱり宴は最高ですね!」

「もうやだこの会社……」


 しかし祐真は、どこか笑いながらその光景を眺めていた。

 神々が再び前を向いたのなら、それでいい。


---


◆ 不穏な招集


 ある日、社内アナウンスが響いた。

「全社員に告ぐ。今期最終監査を実施する。新入社員・祐真も出頭せよ」


「……え? 俺!?」

 唐突に名指しされ、祐真はポカンとした。


「ついに来ましたね」千狐が真剣な顔になる。

「“存在意義決算”……新入社員も例外じゃないんです」


「存在意義……って、このブラック企業の世界での“生きてる意味”を決算するってことか?」

「はい。神も人も、例外なく審査されます」


 胸がドクンと鳴った。

 地獄でも天界でも“存在意義”がテーマだった。

 だが今度は自分が裁かれる番だ。



---


◆ 監査室へ


 巨大な円卓のある監査室。

 そこには天界監査官と地獄の審判官、さらに猿田彦部長まで勢ぞろいしていた。


「新入社員・祐真」

 監査官が冷徹に告げる。

「君の“存在意義”を審査する。生きる価値が認められなければ、魂は削除だ」


「削除!? コンピュータのゴミ箱みたいに言うな!」


 雷神課長が口を挟んだ。

「祐真、お前はこの数週間、さまざまな部署で働いた。

 だが――“お前自身”はどうだ? 他人を救おうとばかりして、自分が何者か考えたことはあるか?」


「それは……」

 祐真は言葉を失った。



---


◆ 証人として呼ばれたのは


 監査室の扉が開き、見知った顔が現れる。

「……美羽!」

 かつて自殺を図り、祐真が救った少女だ。


「彼女を証人として呼んだ」

 猿田彦部長が低く告げる。


 美羽は祐真を見つめ、口を開いた。

「祐真くん。あのとき私を止めてくれて、ありがとう。

 でも……どうして、そこまでしてくれたの?」


 その問いに、祐真は胸が熱くなる。

 自分がなぜ彼女を救ったのか。

 自分がなぜ、この仕事に必死で取り組んでいるのか。



---


◆ 新人の答え(途中)


「……俺はさ」

 祐真は深呼吸して言った。


「自分の存在意義なんて、正直わかんない。

 でも……誰かが泣いてたり苦しんでたりするのを見たら、放っとけないんだよ。

 それが正しいとかじゃなくて――ただ、そうしたいからやったんだ」


 会場が静まり返る。

 監査官の目が冷ややかに光った。


「曖昧だな。自己犠牲と衝動。それでは“意義”にはならん」


 その瞬間――祐真の胸の奥から、不思議な光が広がった。


「な、なんだこれ……!」

 千狐が驚く。

「……“存在光”です。本人の心からにじみ出る、魂の証明……!」


---


◆ 存在光の証明


 祐真の胸からあふれ出す光は、会議室を満たし始めた。

 監査官が驚愕の表情を浮かべる。


「これは……! 神や天使ですら簡単には現れぬ“存在光”……!」


 美羽が涙ぐみながら言った。

「祐真くん……。あの日、私を救ったときも、同じ光を感じたんだ。

 私に“生きていいんだ”って言ってくれたのは、あなたの存在そのものだった」


 雷神課長が腕を組んで頷く。

「こいつは新人だが、ただの人間じゃない。

 “他人を救いたい”って衝動こそ、八百万の神々が忘れてしまった原点じゃないか」



---


◆ 仲間たちの証言


 次々と神々が立ち上がる。


「祐真のおかげで、わしはまた川を守る誇りを思い出した!」川の神。

「#米はいいぞ、バズったのも祐真くんのおかげ!」農耕神。

「宴会の盛り上げ役に欠かせない存在!」酒の神。


「最後それかよ!!」祐真がツッコむ。


 千狐も涙目で前に出た。

「祐真さんは、いつも自分のこと後回しにして、他人のために動いて……。

 そんな人だから、私、ずっと一緒に働きたいって思ったんです!」


「お前……」祐真の胸が熱くなる。



---


◆ 裁定


 監査官は長く沈黙したあと、書類を閉じた。


「……認めよう。

 君の存在意義は、“誰かを救いたいと願い続ける心”。

 それは、もはや数値化も削除もできない。

 よって、新入社員・祐真は――存続とする」


 会議室に歓声が巻き起こった。


「やったああああああ!!」

「これで解雇回避じゃああ!!」

「宴会だぁぁぁぁ!!」


「いや、なんでお前らまで!? 俺の審査だったろ!」



---


◆ 大宴会、そして……


 その夜、天界本社の屋上庭園には再び光の宴が広がった。


「祐真さん、唐揚げ追加です!」千狐が笑顔で皿を運んでくる。

「またかよ! どんだけ食うんだお前!」


 農耕神が踊り、川の神が歌い、酒の神が滝のように酒を降らせる。

 祐真は呆れつつも、どこか温かい気持ちでその光景を眺めていた。


「……俺の存在意義なんて、まだよくわかんねぇ。

 でも、こうやって笑ってる奴らを守れるなら……それでいいか」


 そのとき、猿田彦部長が近づいてきた。

「祐真。次の期から新しいプロジェクトを任せる」

「え? プロジェクト?」


 部長は意味深に笑った。

「“地上と天界をつなぐ架け橋”。その中心人物として――お前が適任だ」


「ちょ、ちょっと待ってください! 新人にそんな大役――」

「二期プロジェクト開始だ」


「二期!? え、これ続くの!?!?」


【1期・完】

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

 『八百万のブラック企業』第1期、無事に5話で完結しました。


 1期のテーマは「存在意義」でした。

 主人公・祐真は、自分の意味を探し続けて、結局まだ答えを見つけきれていません。

 でも、「誰かを救いたい」という気持ちが彼自身の光だと示されたことで、次のステップへ進めるようになりました。もし良ければ2期も見てください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ