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『フォークストーン市街戦』

連合魔術王国:フォークストーン市街

1937年11月18日 午後13時16分

オリヴァー・リューマン一等兵

鉄十字帝国陸軍:英国侵攻部隊第17歩兵上陸隊第3分隊

装備:Mkb36、柄付手榴弾2つ

現在:ハノマーク装甲車内


任務:フォークストーン市街の制圧


■ ■ ■


ドーバーでの上陸作戦は思ったよりもあっさりしたものだった。

あんなに上陸艦の中で緊張していたのに、上陸してみれば脅威と言われていた対艦砲はほぼ全てが爆発四散してガラクタ同然。英国軍残存部隊の抵抗はあったものの、鉄の巨人に士気を砕かれた兵士たちの抵抗は弱く、ドーバー要塞都市は11月16日中に陥落した。

鉄の巨人。あの二号歩行戦車と言われる新型兵器のおかげだという。

少し信じられない話だった。


それから二日後、自分達の部隊はフォークストーンという街の攻略に向かわされることになる。

指揮官が言うにはドーバー要塞が落ちる事を想定していなかった英国軍は、急いでフォークストーンの防備を固めている真っ最中であり、その防備が完全になる前に攻略する必要があるという事だった。


ハノマーク装甲車の中で、オリヴァーはこのMkb36という試作型の武器を手にしていた。装弾数30発。専用弾を使用した連射可能な突撃銃。5キロ弱の重さがずしりと響くが、試射した時のあの性能には驚かされた。ボルトアクションライフルが完全に過去のものになる性能。兵器開発局は恐ろしいものを作る。

他の分隊員も全員がそれを持っている。持っていないのは魔導通信を行う為に無線機を背負った通信兵と、指揮を行う分隊長。そして機関銃手にパンツァーファウストを二本持った対戦車兵くらいだ。


「オリヴァー、俺達無事にロンドンまで行けると思うかよ?」

「何言ってんだ、そのためにまずフォークストーンに行くんだろ」

「アーデル、縁起でもないことを言うな、これから起こる戦いに集中しろ、ドーバーみたいな生温いお出迎えじゃないぞ」


ドォン!とハノマーク装甲車の近くで爆発音がした。敵の砲撃圏内に入った。

本物の実戦が、始まる。


予想通り、フォークストーン市街は防備を固めている真っ最中だったが、こちらの接近を察知して英国軍はいち早く防衛攻撃に転じたのだ。

「全員降車!姿勢を低くして遮蔽物へ、ハノマーク装甲車の機銃手は援護射撃を!」

ババババババババン!!!!!!MG32の射撃音が響き渡る。


ローラント隊長が的確に指示を出し、全員がくぼみや遮蔽になるものに隠れる。

「エストマン!戦車隊に援護指示を要請!」

「了解、310号車、こちら17歩兵隊第3分隊!聞こえますか?」

≪はっきり聞こえる!他分隊にも聞こえるようオープンで話す!敵防御陣地を視認!英国軍は相当慌てているようだ!≫

四号戦車の上部キューポラには魔導視認装置が組み込まれおり、これは偵察にも砲の照準にも使える便利なものだ。

これも兵器開発局の開発である。


≪こちらで陣地への攻撃を行って引き付ける!歩兵隊はその隙に市内に張り付け!砲手、フォイア!≫

ドォン!ドォン!ババババババババン!!!四号戦車5両と三号突撃砲3両が敵陣地に対して攻撃を開始する。

「こちら歩兵隊、了解!ローラント隊長、戦車隊が注意を引くと!」

「よし、我々も行くぞ!」

「ヤヴォール!」

ドゴォン!市街前の陣地は集中砲火を浴びて黒煙が上がっている。

その時だ。


ガァン!ドォン!!!四号戦車のうちの一両が何かの砲撃を受け爆発炎上、砲塔が空を飛んだ。


「四号戦車、一両が爆散!」「構うな、俺達は市街に入るぞ!走れ!」

全速力で走った。敵の注意は戦車隊に向いている。こちらに向かないのを祈るしかない。

ドォン!!!次は三号突撃砲がやられた。だが戦車隊もそれに対して撃ち返し、それを撃破した。

例の新型の砲脚型、ウィンストンウォーカーの75mm砲装備タイプ。二門の75mm砲は実際脅威だ。

二連撃で飛んでくる主砲が四号と三号を連続で撃破したのだ。だが四号戦車と三号突撃砲も75mm。

どちらの戦車も撃たれれば只では済まない。ウィンストンウォーカーは建物にぶつかりながら倒れた。

≪敵砲脚型沈黙!≫

≪被害報告!≫≪四号312号車と三突320号車がやられました、三突の搭乗員は二名無事です≫

≪歩兵隊は?≫≪無事に行ったようです!≫

≪周辺警戒を怠るな!後続の例の部隊が来るまで俺達は歩兵隊の援護を続けるぞ!≫



フォークストーン市街は慌てた様子で住民が避難したのか、道に物や自動車が散乱していた。本当にドーバー要塞が落ちるとは思っていなかったのだろう。分隊はMkb36を構えながら慎重に移動する。

パァン!パァン!

英国歩兵からのエンフィールド小銃射撃だ!だがこちらにはこれがある!

「反撃射撃!」

ダダダン!ダダダン!

「AHH?!」「NO?!」

英国兵達はすぐに沈黙して、動かなくなった。

「これが、Mkb36の威力なのか……」「ロスロスロス!行くぞ!」

「あそこの窓に敵歩兵!」「オリヴァー、撃て!」

指切り射撃で敵を狙い、そして撃った。敵兵の悲鳴が聞こえ、そして静かになった。

だがその静粛はすぐにエンジン音にかき消された。

「十字の方向!敵装甲車だ!アーデル!」「あいよ!喰らえ!」

対戦車兵のアーデルがパンツァーファウストを発射。ヴィッカース装甲車に命中して爆発炎上した。

これも兵器開発局が設計した使い捨て対戦車兵器だ。

HEAT弾頭を発射する魔導ロケット式の推進弾頭を搭載しており、対戦車ライフルとは比較にならない性能をしている。


敵の、連合魔術王国の兵士が持っている銃はエンフィールド小銃、10発装填のボルトアクションライフル。もしくは急造で作ったパイプみたいな未知の短機関銃。向こうが一発撃つ時、こちらは既に5発は撃っている。我々と敵では、手数が違いすぎるのだ。それでもこちらにも被害は出る。

パパパパパパン!!!敵の短機関銃の攻撃だ。すぐさま撃ち返して敵を沈黙させたが……

「シャイセ!脚を撃たれた!!」

「アーデルが負傷!治療ポーションと止血材を!」

「了解!すぐに!」

「ミッター!制圧射撃!」「ヤヴォール!」

機関銃のけたたましい音が響き渡る。MG32、その制圧力は本物だ。

敵兵は怯んだか撃たれたかで出てこなくなった。


「エストマン、他分隊の状況は?」

「はい、全分隊ともに健在、負傷者は少数です」

他歩兵隊も魔導通信で連携して行動している。その通信を行っているのは魔導士、つまり魔術に長けた人間だ。

魔導通信自体は産業革命期から存在する技術だが、軍用暗号回線になると専門知識を身に着けた魔術師が必要になる。エストマン軍曹はこの連携の鍵なのだ。

「ただし戦車隊は市街の対戦車砲や例の新型砲脚戦車の待ち伏せを警戒して動きづらい、と」

「今度はこちらが戦車隊を援護する番だな、行くぞ!」


その後も敵守備隊と遭遇しては撃ち合いになり、そして制圧を繰り返した。ほぼほぼ一方的な戦いだった。

だがそれでもこちらにも死傷者は出ている。だが被害の差は歴然だった。

部隊内に少し、慢心した感情を持つものも出始めた。

「UMKめ、あれだけ報道で大口叩いてたのに、大したことねえじゃねえか」

「違いない、俺達の武器と兵器の敵じゃない、特にこの突撃銃のな」

「さっきあいつらの新型短機関銃を見たが、まるでパイプだ。突貫でつくったのか?ハハハ」

だが、それの慢心が仇になった。


次の建物の曲がり角を確認した瞬間、それが居た。


ウィンストンウォーカー。それが二両。


すぐさまこちらに向かって75mm砲と正面の機関銃を撃って来た。

パチパチパチパチィン!!!ドォン!!ドォン!!!ドォン!!!!

弾丸が空気を裂く音が響き渡り、遮蔽物にしていた壁や建造物が75mm砲の射撃で爆発する。

ウィンストンウォーカーだけではない、援護の機関銃を装備した見知らぬ戦車と歩兵も一緒だ。

ババババババババン!!!!!ドォン!ドォン!!向こうはこちらに対して容赦のない攻撃を加えてきた。

こちらの対戦車兵は………アーデルだ。彼は負傷して退却。残りのパンツァーファウスト1発は今、オリヴァーが持っている。


「エストマン!戦車隊にすぐさま報告を!エストマン?!」

ローラント隊長が叫ぶがエストマンからの返事が無い。

オリヴァーがすぐさまエストマンが居た場所に駆け寄る。先程の壁の……爆発にやられた!

「うあ………腹が………あぁ………」「エストマン軍曹!無事ですか!軍曹!!」

エストマン軍曹は、二つに分かれていた。

「う………あ………鉄十………字」

エストマンはそのまま、動かなくなった。

「エストマン軍曹が、戦死しました……!無線機も、壊れています!」「シャイセ!」

別の分隊員が言った。

「隊長、カール、フランツ、ハーマンが負傷!エーリッヒが、即死しました……」


ドスン、ドスン。ウィンストンウォーカーがこちらに寄ってくるのが分かる。自国の建物を破壊することもお構いなしに75mm砲をまた発砲した。こちらを排除するためになりふり構わず攻撃して来ているのだ。

「被害甚大………他分隊、戦車隊との連絡が付かない以上、あれには勝てない……クソ、一度撤退するにしても……」

「まだ可能性はあります。自分がパンツァーファウストを持っています。少なくとも一両は脚を破壊して動きを遅らせられるはずです!」

「オリヴァー、お前、囮になる気か?死ぬぞ?!」「やらなきゃ全員死にます!俺があれを!隊長たちは他分隊に合流して援護の通信を!」

「分かった……死ぬなよオリヴァー」「生きてたらロンドン旅行を楽しみますよ!」

分隊は負傷した分隊員を引きずって撤退した。そしてオリヴァーだけが残った。


ドスン。ドスン。ドスン。


オリヴァーは一人残り、建物の影でじっとウィンストンウォーカーの片割れが来るのを待った。

敵はウィンストンウォーカーを前に出して、歩兵狩りを行う気のようだ。

魔導エンジン音と歩行脚の音が近づき、時たま建物に向けて機関銃と75mm砲を発砲する。

こちらのパンツァーファウストは一発限り、チャンスは一度。オリヴァーの顔には大量の汗が滲む。


ドスン。ドスン。ドスン。ドスン。


そしてその視界に、ウィンストンウォーカーが現れた。

「喰らえ!旧式のポンコツめ!!」

パシュ!パンツァーファウストを発射!

点火材に着火し、ウィンストンウォーカーの足目掛けて飛んでいき、そして関節部に着弾して爆発した。

ウィンストンウォーカーはよろめき、脚部関節が大きく破損して損壊、そして建物をなぎ倒しながら倒れ込んだ。

「はは、やった………」


だが、危機は終わっていない。何故なら、ウィンストンウォーカーはもう一両居る。それに戦車と歩兵隊も。

ドスンドスンドスンドスン

仲間の敵討ちとばかりにこちらに近づいてくる。持ってる武器で使えそうなのは手榴弾程度。

「俺もここまでか。かっこつけてロンドン旅行なんて言っちまったけど、どうにも出来そうに無さそうだ」

ガコン、そして今、ウィンストンウォーカーは目の前で、憎悪するように砲身をこちらに向けた。

「すまねえ、ローラント隊長、そして、リリー。帰れそうにない……」


オリヴァーは諦め気味にぽいっと、なけなしの手榴弾を投げた。


ドゴォォォォン!!!!!!!


「は?な、何が………」

突如としてウィンストンウォーカーは爆発炎上。そのまま仰向け気味に倒れた。

『そこの歩兵の方、無事ですか?』機械的だが流暢に喋る声が聞こえた。

その声の主は灰色の車体に、黄色い目、そして逆脚の巨人の姿をしていた。

その胴体と左腕の盾には『102』の数字。


『二号歩行戦車隊、現着しました。この37mm砲の威力であれば、ウィンストンウォーカーの側面装甲を貫通出来るようです』

≪そのようだな、間に合って良かった、あんたの隊長から連絡があった!無事か!≫

「ああ………だがまだ歩兵隊と戦車が残ってる!」

≪大丈夫だ、俺の所属してる歩行戦車隊、それに戦車隊が今倒したばかりだ。あんたの隊長達も無事だよ。安心してくれ≫

「………マジかよ」

≪後は俺達の仕事だ。よくあの新型を一両倒したな≫

「運が良かっただけさ………ハハハ」


「なあ、あんた名前は?」

≪ランハートだ。ランハート・フックス≫

「助かった。ランハート。俺はオリヴァーだ。ありがとう」

『ランハート、敵の増援が向かってきて居ます。応戦を』

≪了解二号、あんたは後退して後方部隊と合流しろ、ここは最前線だ、援護する≫

「分かった、感謝する」

そう言うと、二号歩行戦車とランハートは最前線に向かって走って行った。

他の二号歩行戦車隊も見える。まるで巨人の軍団だ。

オリヴァーは、肩の力が抜け、少しその場にへたり込んだ。

ドスンドスンドスンドスン

味方の歩行戦車達の足音が遠ざかっていく。

「あれが、パンツァーギガントか……本当にすげえ物作っちまったな、俺の国は……」


■ ■ ■


「オリヴァー!無事だったか!」

後方に戻ってすぐ、ローラント隊長が嬉しそうに言った。

「味方の二号歩行戦車隊に救われました、ロンドン旅行前にくたばるわけにはいきませんよ、それから、これを」

オリヴァーはエストマンの認識票を隊長に手渡した。

「エストマン………」

「彼の仇は取りました。アーデルのパンツァーファウストをぶち込んでやりましたよ」

「よくやった。だがまだ戦闘は続く。補給と再編成が済み次第、直ぐに出発するぞ!」

「ヤヴォール!」


フォークストーン市街戦は、始まったばかりだ。

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