廃棄遺跡
目を開けた。
冷たい感触が背中を打つ。
岩のようにゴツゴツした地面。痛みがじわじわと這い上がってくる。
身体を起こす。
僕は周囲をキョロキョロと見回した。
「ここが……廃棄遺跡か……?」
視界は真っ暗で、何も見えない。
あ、そうだ。
右手を動かし、近くの地面を探る。
ゴツ、と何かに触れた。
「……あった」
親指で宝石に触れる。
確か、魔素を流せば光るって言ってたっけ……あの片眼鏡の男が。
魔素を宝石に注入する。すると――
淡い光が宝石からこぼれた。
僕にも少しは魔素があるみたいだ。ちょっと感動した。
光は弱いが、それでも視界が幾分マシになる。
剥き出しの岩肌。凹凸の激しい天井。デコボコした床。
「遺跡ってより……洞窟、みたいだな」
そのとき、何かが視界の隅に映った。
「うっ……!?」
……ドクロ。
いや、人骨だ。しかも――
「げっ……」
頭蓋骨が、半分しか残っていない。残りは、綺麗に削ぎ落とされたように消えていた。
一体、何がこんな真似を……。
答えは明白だ。
この遺跡に潜む“何か”がやったのだ。
背筋に冷たいものが走る。
心臓が、バクバクと激しく鳴り始める。
汗が噴き出す。
全身が、本能で告げてくる。
――ここは、ヤバい。
そのときだった。
ふいに、光が増した。
頭蓋骨の表面が、黄色く染まる。
何かの光を、反射している――
つまり、背後に。
いる。
僕のすぐ後ろに、何かがいる。
黄色の光を放つ“何か”が――!
「ブシュュシュぅ……グるルぅ~……シゅゥゥ……」
湿った呼吸音。
獣のような、あるいはそれ以下の存在感。
ビチャッ、ビチャッ……
シュワシュワジュワぁ……
地面に何かが垂れ落ちて、溶ける音がする。
この洞窟の床が妙にデコボコしていた理由がわかった気がした。
振り向きたい。
けれど、振り向けない。
わかってる。動いたら、殺される。
理性が命じる。動くなと。
けれど、その理性の命令を、僕の本能が叩き壊した。
僕は――走り出した。
体が重い。
運動なんてほとんどしてこなかったツケが、今になって牙を剥く。
でも、それでも。
死にたくない。
必死に、走る。
背後を確認する余裕なんて、皆無だ。
ゾワゾワと、全身に恐怖が駆け抜ける。
歯の根が合わず、ガチガチと震えが止まらない。
――だけど。
闇に紛れて、やり過ごせるかもしれない。
僕は必死に暗がりに身を潜める。
…………。
頼む。
どうか、やり過ごせてくれ。
「はっ、はっ、はっ……ッ、く……」
息を、殺す。
呼吸が苦しい。
胸が痛い。
涙があふれ出る。
「っ、はっ、はぁ……っ……!」
怖い――それもある。けど、それだけじゃない。
悔しいんだ。
自分の無力さが、悔しくてたまらない。
――ちくしょう。
どこか奥へ進むにつれて、景色は明らかに変わっていった。
あたりは、松明もないのに妙に明るく、
壁は――まるで生き物の内臓のように脈打っていた。
「……なんだ、ここ……?」
やがて、通路の先に辿り着く。
目の前には広い空間あった。
――カツ、カツ。
奥から足音が、聞こえてきた。
あいつは一体なんだ!?
僕の眼前に現れたのは、赤色で人間の姿をした者だった。