廃棄処分
唾をのむ。
僕に、何をさせようっていうんだ……。
「くっ」
躊躇、してしまう。
先へ踏み出すのを不安が押しとどめる。
「行け」
ぐいっ
周りを固めている兵士の一人が、鞘の先で背を押してきた。
「死にたいのか?」
だめだ。
逃げられない。
くそ。
嫌な予感しかしない。
だけど、この状況で抵抗なんて無理だ。
僕は兵士たちに連行された。
広間の中央へと。
僕は王様に呼びかけた。
「あの、王様っ」
「なんじゃ?」
よし。
今度はスルーされなかった。
「これから何が始まるんですか? なぜ、最初が僕なんです?」
「ツキシマ・アサヒ。そなたは最低ランクのE級勇者だからじゃ」
E級勇者?
広間が静まりかえった。
そしてーーー
「ぷっははっ……ハハハハハハハっ! おいおいこのオッさん闘う為に異世界に呼ばれたのにE級勇者だってよ! ヤベエっ! マジでウケるっ!」
石関たちは俺を指さしながら、晒し者のように笑った。
本当に態度が悪い感じだな。
と、そこでゴホンと王様は咳ばらいをした。
「過去を遡ると、最低ランクの勇者は役に立たないどころか……大抵は上級勇者の足を引っ張る存在じゃ。じゃからE級にあたる勇者は、ある時から――」
王様の口がニヤリと弧を描く。
「廃棄することになったのじゃ」
「……え?」
廃棄?
処分って、ことか……?
「じゃがの~、いきなりその場で廃棄となると他の召喚者が廃棄される光景を見てショックを受けるケースがあっての。そのショックを長く引きずってしまい勇者としての役割を果たせなくなったり、上級勇者たちで揉めたりして厄介なのじゃ。そこでわしらは――」
慈悲を湛え、両手を広げる王様。
「最低ランクの勇者にも再起のチャンスを与えることに、決めたのじゃ!」
再起の、チャンス?
「ど、どういうことですか?」
「そこにある転移魔法陣で、最低ランクの勇者をとある遺跡へ転送する事に決めたのじゃ」
「遺跡……?」
片眼鏡の男が喋る。
「転送先の遺跡から生きて地上へ出られた場合は、あとはもう干渉しないという取り決めをしています。その者に、自由に生きる権利を与えます」
「き、危険な遺跡なんですか?」
王様がバカにした顔で僕に言う。
「さあ? それを貴様に教える必要があるかの? ただ、過去に危険度大と判断された罪人の大半はその遺跡へ送りじゃ」
僕は膝から崩れ落ちる。
今ので答えを言っているようなものじゃないか。
要するに、
生きては出られない場所。
死確定ってこと事だろ。
俺はうな垂れる。
こぶしを、握り込む。
なんだよそれ。
廃棄って。
「ちょっと待ってください……呼んでおいて、そんな仕打ち、勝手ですね」
ありえないと断じていた言葉。
それがふと、僕の耳に届いた。
顔を上げる。
目にしたのは、毅然とした足取りで王様に歩み寄る中村海風。僕に話しかけてくれた女子高生。
勇敢にも王様に対抗してくれている。
「黙れぇぇえいッッッ!言うことを聞かねば、そなたも『遺跡送り』にすることにもできるのだぞ!」
暗に抹殺すると脅された。
勝手に召喚されて、
勝手に勇者にされて、
勝手に、廃棄?
「で、でもですよ!? いくらなんでも、廃棄だなんて――」
「ちっ!」
海風という女子高生の言葉を遮ったのは、ひと際大きな舌打ち。
「見苦しいやつだよな、おまえって」
舌打ちの主は、石関。
「おっさんごときがオレの貴重な人生の時間を浪費させるなよ。ったく……せっかく気を遣って空気扱いしてやってんのによ」
苛立ちまじりの小山田のため息。
「ていうか、もういいよ……さっさと終わらせてくれ。みんな終わるの待ってんだよ。特に女子とか疲れてるだろうしさ。かわいそうじゃん」
女子の一人が色めき立つ。
「お、小山田君っ――」
次々と女子が続く。
「ヤバい! マジ優しい!」
「さすがだよね!」
「逆におっさんウザすぎ! 何様なわけ!? 空気読めっての!」
「キモいんだから、遺跡送りなんて当然じゃん」
「死亡確定!!」
「うぜーよ! 往生際悪すぎ!」
途中から男子までまじり始めた。
石関はニヤニヤしている。
学生たちの態度に僕が学生時代の時を思い出す。
購買で昼食を買おうとして並んでいた時、いきなり横入りしてきた奴がいた。 僕はその拍子に隣の人に倒れた。
その相手は先輩で、学内でも一、二を争うほど危ない奴だった。
倒れた拍子にその先輩が持っていたジュースが服にかかったのだ。
それから僕の高校生活の地獄の日々が始まった。
放課後、僕は顔が腫れ上がるまで殴られ、全裸で校門に磔にされた。
写真をいっぱい取られた。
その写真をネタにカツアゲは勿論、買い出しや靴磨き、先輩の奴隷としてありとあやゆることを強要された。
こいつらは圧倒的、優越感。
強者として弱者を見ているのだろう。
「――――」
くそ。
なん、だよ。
なんなんだよ?
俺が一体、何をしたっていうんだ……。
理不尽。
不条理。
「………………………………」
ドロドロした感情が、溜まっていく。
ローブの男たちが魔法陣へ腕を伸ばす。
王様が言う。
「では、儀式を始めるのじゃ」