表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/10

黒く染まる水晶

 僕は陰すまれながらも水晶の前に立つ。

 緊張してきた。

 つるりとした表面。

 手を、近づける。


「ごくっ」


 てのひらを置く。


 ピトッ


 ほのかな淡い光が表面に浮かんだ。

 優しい光。

 弱々しいとも言える。


 色は黒。


 今までの測定では初めて見る色。

 というか、これ。

 今までで光が一番弱くないか?


「では次の者、前へ」


 王様、まさかのスルー。

 水晶測定、初コメントスルー。

 ひと言の凡コメすらない。

 冗談だろ?


「あの、僕の評価は――」

「次の者~!」


 無視された。

 なかったことにされた。

 静かに元の場所へ戻る。


 空気モブ。


 異世界でも、空気か。

 ま、これが現実だよな……。

 異世界にきたところで特別になんてなれない。

 なれるわけがない。

 これが僕、月島朝陽だ。


 僕のあとも測定が続いた。

 だが僕よりは結果がマシだったらしい。

 王様も笑顔でコメントしている。

 測定もいよいよ終盤。 


 王様が頬に手をあてる。


「前半に粒が揃っていたようじゃの~」


 片眼鏡の男が言う。


「はい。人数は多くないですがS級が三人にA級が二人なら上々かと思われます」


 次が最後だ。


 岸田卓也。


 オドオドと歩きながら、岸田という学生が水晶に手を置く。

 物凄い緊張感を漂わせている。


「ご、くっ」


 息をのむ岸田。

 自分の命運を託している感じ。

 ローブ男が驚愕の顔となる。


「むっ!? こ、これはっ!?」


 水晶が真っ赤に染まった。

 立ちのぼる煙。

 水晶から煙がモクモクと放出されていく。

 まるで高温の熱を持っているみたいだ。

 ローブ男が目を剥く。


「王さま! こ、これは――」

「そうじゃの……昔、同じ反応があったの。一夜にして魔族の森を火の海にした、伝説の赤き英雄。最強と呼ばれた男と同じ反応じゃ……」


 岸田の口が弧を描く。


「ひひっ」


 引き攣った笑い声。


「だと、思ったさ――そろそろだと、思ってた」


 岸田という学生の目つきが変わった。

 王様に堂々と岸田が尋ねる。


「俺のランクを聞かせてもらおうか、王よ!」


 さっきまでオドオドした岸田と言う学生の態度ではない。

 口調まで変わっている。

 王様が答えた。


「そなたはA級じゃ」

「ふん、石関レベルか。あの禍々しさは、S級だと思ったのだが……」


 憤慨した石関が岸田に詰め寄る。


「あぁ!? んだとコラァ岸田ぁぁああ!? てめぇ今このおれを呼び捨てにしやがったのかぁ!? ちょっと結果がよかったからってチョーシくれてんのか!? 一丁前にイキってんのかよオラァ!」


 一瞬ビクッとする岸田という学生。

 しかし岸田はすぐに笑みを浮かべた。


「同格だろ、もう僕らは」

「あぁ!?」


 今度は岸田が、挑戦的な顔で石関に詰め寄る。


「A・級・同・士・仲良くしようじゃないか。なあ――」


 興奮気味に岸田は言った。


「石・関・?」

「調子コキやがってオラァ! 岸田てめぇぶっ殺す! おらぁ――!?」


 石関が岸田に殴りかかろうとした瞬間、二人の間に割って入ったのは、王様の騎士。

 両腕に魔法陣みたいなものが描かれている。

 魔法発動の準備ができている。

 そういう感じ――なのか?


「せっかくのA級勇者同士で争いなどいかんぞ。口げんか程度であれば多少は看過するが、本気で勇者同士が戦うことは許さん」


 王様は微笑む。


「A級勇者は、貴重な人材だからの」


 石関は動こうとしなかった。

 岸田は一歩、後退する。


 背筋が、ビリビリする。

 威圧? もしくは殺意ってやつか?

 たとえば猛獣を前にしたら、人はこうなるのだろうか?

 動けない。

 動き、たくない。


「では皆終わったようじゃな。」


 王様が軽快に両手を打ち鳴らした。


 パンッ!


「では、名前を呼ぶので前に出てくるのじゃ?――ツキシマ・アサヒ殿」

「え? 僕?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ