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15.神と古代装置

 15.神と古代装置


 礼拝堂の下。かつては蛇をあがめる一族の、地下施設のあった場所。

 私たち三人はここで、彼らの”神”と対峙することになった。


 見たこともないほど巨大な蛇だった。

 胴の最も太い直径は1m近くあり、

 長さはおそらく20mくらいはありそうだ。

 その頭は人間を丸飲みできるほど大きい。


 「……ティタノボア?」

 リベリアが、小さな声で呟く。

 旧時代の、さらにその古代に生息していた巨大蛇の名だ。

 まさか、と私が言う前に、リベリア自身が否定する。

 「違うわ……頭の形状も鱗も……」


 蛇は舌を動かしながら、しばらくこちらの様子を伺っていた。

 目は白濁しているが、そもそも蛇は視覚で狩りをするわけではないので

 安心できるポイントにはならない。


 リベリアは蛇の前面にバリアを、クルティラは扇子を構えている。

 恐ろしいほどの緊張感が漂う。が。


 いきなり大蛇は、シャーーーーという音とともに、

 大きな口を開いて飛び掛かってきた。

 リベリアの最強の盾(バリア)によって阻止されたが、口の中を見て戦慄する。

 通常、毒蛇は鋭い牙が数本生えており、

 無毒の蛇の歯は、咥えた獲物を逃さないようにする程度のものだ。

 しかしこの大蛇は違った。

 まるでバシリスクのように鋭い歯がギザギザと生えていたのだ。

 あれに噛みつかれたら、人間など真っ二つに千切れてしまうだろう。


 大蛇は飢えているのか、生きた獲物を逃すまいと

 繰り返しバリアにぶつかってくる。

 クルティラが私に尋ねる。

「頭を落とす? それとも縦に割く?」

 一瞬迷ったが、もう少し待ってと私は片手で制止した。

 そもそも神様だし、それ以上に。

「この大蛇、陽のメイナを蓄積しているわ」

 リベリアがああ! そうですわよね、と頷く。

「とても長い間、神として大勢の人間に崇められてきたのですもの。

 さぞかし多くの陽のメイナを集め、その体に蓄積させたことでしょうね」


 会話の最中、大蛇はだんだん大人しくなってくる。

 動きが鈍くなり、そして、止まった。

 そしてズルリとその巨体を床に横たわらせた。

 私がメイナを使い、大蛇から急速に体温を奪っていったのだ。

 体が大きいため時間がかかったけど、どんなに巨大でもやはり爬虫類だ。


 私たちはそっと近づき、改めて大蛇を眺める。

 自然界ではあり得ない大きさ、そして寿命だ。


 私は大蛇の胴体に手を当て、陽のメイナをどんどん注ぎ込んでみる。

 通常のメイナ技能士は、自然界に漂うメイナを使用するため

 すぐに”メイナ切れ”を起こしてしまい、こういった作業は難しい。

 でも私は”無限に生み出す者(フォンセターナス)”だ。

 メイナを自ら生成でき、無限に注入できる。でも。

 私は驚き声をあげる。

「この子、凄いよ! それこそ無限に貯め込む者、かも」

 いくら注いでも一杯にはならないのだ。


 私は手の中の古代装置をみつめる。

「これなんて、とっくに送信部分は壊れてるの。

 それなのに妖魔が活動していないのは、

 聖女たちが本当に倒したのか、もしくは」

「この大蛇が妖魔を食べた、か……」

 クルティラが意識のない蛇を見つめて言う。


 蜘蛛の妖魔のサイズによっては倒せないことも……ないのかなあ。

 多くの陽のメイナを帯び、あの歯をもってすれば。

 歯……あの歯。ちょっと欲しいかも。

 私のコレクター欲が疼いた。


 蛇の頭部に近づき、口の皮をめくる。

 バラバラと生えた、喉奥に向かってカーブを描く円錐の歯たち。

 そのうちの一本を、パキッと頂く。

 蛇の歯はまた生えるからいいよね?


 振り返ると、クルティラとリベリアが醒めた目でこちらを見ている。

「また、いつもの悪い癖ね」

「こんな()()()()()()から取り上げるなんてあんまりですわ」

 ほっとけ。私は手布で丁寧に包み、いそいそとしまい込む。

 ああ、これを見せたい人がたくさんいる!


「さ、今度は”祈りを捧げる間”を目指しましょ」

 そう言って立ち上がった私に、リベリアが何かいいかけて、止まる。

 私も気が付いた。


 蛇が、目覚めていることを。


 三人同時に、先ほど私がくぐった穴の近くへと飛び去る。

 同時に、大蛇がゆっくり身を起こした。

 私たちは驚いた。確かに眠らせたのに。

「ごめん! 歯、取ったからかな?」

「違うと思いますわ。冬の時期も肉を食べていたってことは、

 ずっと起きていた、ということですから」


 この蛇、自分で体温を上げることができるのか。

 爬虫類などの変温動物は、体内で熱を作る能力を持たない。

 しかしこの大蛇は違った。普通の蛇と違うのは大きさだけではないようだ。

「この体格といい歯といい、

 通常の蛇だと思って対応してはダメってことね」

 クルティラが言う。うわ、あんなに近づいて危なかったな。


 蛇の動きが完全に元に戻る前に。

「ここから出ましょう」

 そう言って穴をくぐり、私たちは通路を走った。

 妖魔の状況や、この大蛇を倒した時の影響が分からない以上、

 今は安易に”神”を殺すわけにはいかない。


 この幅なら、あの大蛇も無理をすれば通れるだろう。

 そうなると追ってくる危険性もある。

 後ろの気配に気を配りながらも、来た道を急いだ。


 しかし、蛇は追っては来なかった。うまく振り切れたようだ。


「今度はこっちに行ってみる?」

 さっきとは別の行き先を見つけ、足を向ける。

 地下施設は元々は、そこまで複雑な作りではない。

 ただの四角を重ねたものだ。とにかく中央を目指せばいい。


 すると目の前に、今までのとはまったく違う種類の壁が現れた。

 これは分厚い……金属の壁?! もしかしてここが。

「祈りを捧げる場所、発見だね」

「あら、この一族って、ずいぶんと資金をお持ちだったのね」

 リベリアが感心しながら言う。

 確かに、地中にこれを建造するのはお金がかかったろう。

「しかし、どこから入ったら良いのかしら」

 クルティラが首をひねる。


 この”祈りを捧げる場所”に、妖魔がどうやって入ったかはわかる。

 それは床下の地中からだ。

 いくら壁を堅牢に作り、神である大蛇の侵入は防いだとしても

 石の床を突き破って現れた妖魔にはなすすべなかったろう。

 私たちも下を掘るか? と思い足元を見ると、

 こちらにも石が敷き詰められている。

 うーん。内側の様子が分からない以上、無茶はできない。

 学園にいる生徒の避難もまだなのだ。


 私たちはしばらく考え、今日の”()()()()”はここまでにしたのだ。


 ****************


 私たちは宿に戻り、今日ルークスたちが令状を持って学園に行ったことを聞いた。

 ……間に合って良かった。


 前に視察に来た時、礼拝堂の探索後、

()()()()()()()()()()()()しか、ないね」

 と私がルークスに言ったのは決して、

 法に触れないように気を付けて捜査する、という意味ではなく

「強制捜査ってことでどんどん行きましょう」

 ということだ。だって学園長の企んだ

 ”この土地の権利を持つ一族を、皇国に探させて承認を取らせる”作戦、

 あれは絶対に単なる時間稼ぎだもの。真に受けてやる必要はない。

 ルークスが皇国に戻って進めてくれたのは強制捜査の申請。

 これは立派な法律に準じた手順ですから。


 お風呂から出ると、皇国調査団からすでに

 私が持ち帰った短剣型の古代装置についての報告書が来ていた。

 お礼を言って受け取る。


 この古代装置の種類と性能、使い方がわかったようだ。

 これは2つが(つい)になっていて、この短剣型のほうは、

 刺さったもののメイナを吸収し、もう一方のほうに送信する性能を持つ。

 そのもう一つは長剣の形をしており、対象にそれを刺すことで、

 短剣型から送られるメイナをそれに注入できるというものだ。


 つまり倒したい妖魔と、陽のメイナの在り処(ありか)が離れている場合。

 これをあらかじめ妖魔に刺しておけば、

 離れた場所から陽のメイナ(妖魔にとっては毒のようなものだ)を

 どんどん送り込むことで、安全・確実に倒せる、という発想だろう。


 しかし残念なのは、最初にどうしても妖魔に長剣を刺すリスクがあること。

 通常の剣では妖魔は倒せず、刺さっても反撃されてしまう。


 だからなるべく早く長剣を陽のメイナで満たしておきたいところだが、

 あまり早く発動すると、倒すにはメイナの量が足りなくなる恐れがある。

 メイナは通常、無限ではないのだ。


 最初と、発動のタイミングが重要な古代装置。


 クルティラが報告書を見て言う。

「聖女と守護騎士はこれで倒すことにしたのは間違いないわね。

 それで長剣の使い手として兵士を、

 短剣の起動のために魔術師を引き込んだという理由も明らかだわ」


 おそらく最初の挑戦の時、聖女たちも私たちのように、

 あの大蛇にも遭遇したのだろう。そして気が付いた。

 この蛇は長い間、神としてあがめられ、陽の気で満ちていると。

 それに引かれて妖魔がやってきたことも。

 巨大な陽の気が滞留すれば、自然と陰の気が寄ってくるから。


「作戦は……きっと成功したのね。最初のリスクを兵士に負わせることで」

 リベリアが眉をひそめる。

「魔術師は? 恋人がそんな危険を冒すのを黙ってみている?」

 私の問いに、クルティラが答える。

「もちろん上手く騙したのよ。この作戦は安全だって」

 蛇の大きさや、妖魔の情報をうまく隠して。


 私は短剣をみて考え込む。魔術師はメイナ技能士だ。

「きっと魔術師は起動だけでなく、大蛇に短剣を刺す役もさせられたんだわ。

 タイミングをあわせるのも、そうじゃないと難しいし」

 つまり恋人が人質のようなものだ。

 魔術師が大蛇に短剣を差し、うまく起動しないと、兵士が妖魔に襲われて死ぬ。


 あとわずかで結婚式だった二人。

 それぞれが大蛇を、蜘蛛の妖魔を目の前に、何を思ったのだろう。

 真相に近づけば近づくほど怒りや悲しみが湧いてくる。


 必ず何が起こったのかを突き止めて、

 そして真の聖女と騎士が誰なのかを、明らかにして見せるから。


最後までお読みいただきありがとうございました。


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