6話
──繧ウ繝ュ繧キ繝?Ζ繝ォ
お父様はその手でお母様とわたしを殺しました。問答無用で、容赦なく、呆気なく、簡単に、愉しそうに。
わたしの脳裏にはこびりつく様に焼き付いていました。お母様の血まみれな姿と、狂ったように嗤うお父様の表情が。
──コロシテヤル。
わたしの心に焦げ付いていたのは、そんなお父様に対する恨みの感情でした。わたしが生きていたら、絶対に復讐してやるのにという負の感情。
──ころしてやる。
お母様にしたように、わたしにしたように、風穴を空けて、たくさん空けて、蜂の巣にしてやりたい。ウジ虫の住処にしてやりたい。
助けを乞ったって絶対に聞いてなんてやらない。
──殺してやる!!!!!!
地獄を突き破る激しい感情が、わたしの意識を深海から浮上させるように覚醒させました。
今にも切れそうな、細すぎる命と魂を繋ぐ糸を手繰り寄せて、自分の身体に帰ってきた。
「────」
お父様に殺されたはずのに。間違いなく。
全身をズタズタに引き裂かれた痛みは記憶として鮮明に焼き付いています。刻み込まれています。
「────っ」
開かれた視界には、わたしに跨って今にも包丁を振り下ろさんと高く構えているお父様の姿。
わたしは反射的に受け止めようと手を出しました。その手から魔力が生まれているとも知らず。
そして掴もうと手を閉じた瞬間、お父様の手が包丁ごと圧縮され、消えてなくなりました。
「うああああああががががぁぁぁぁ?!?! 手がぁぁ?!?!」
吹き出す鮮血と悲鳴。
──ああ……なんて心地よいのでしょう。
降り注ぐ暖かな鮮血が冷え切った心に温もりをもたらしてくれました。悲痛な叫びが理性に潤いをもたらしてくれました。
わたしは理解したのです。本来ならばあるはずのない本能で。
これは悪魔だけが持つ力──魔法なのだと。
「ゆるさない。ママをころした。わたしをころした。ゆるさない。ゆるさない。ぜったいにゆるさない」
まるでわたしがわたしではないようでした。
ただわかるのは、爆発するように溢れ出るお父様への憎しみという感情のみで心が鼓動し、わたしの身体は動いているということ。
この激情に身を任せるだけで、お父様の命は容易く散り去るでしょう。
「しんぞうをつぶしたら、血ってでなくなるのかな? しってる? パパ?」
「なに言ってんだお前?!?!」
消滅した手首から噴き出る鮮血が止まるのか純粋に気になったわたしは、お父様の心臓に対して魔法を発動しました。
びちゅっ! という音を口から響かせて動かなくなりました。一瞬にして静かになるお父様。肺も一緒に潰してしまったようです。
手首からは、ぽたりぽたりと血が滴っています。
「……うーん、すぐには止まらないみたいだね?」
お父様の協力もあってまたひとつ学びました。
成人男性の重い体をなんとかどかして、一息つきます。不思議なほどの達成感に心が震えるのがわかります。
「これが……まほう、なの?」
自分の手で引き起こし、お父様の息の根を止めたという自覚がありながら、とても信じられませんでした。
かつてお母様が教えてくれました。魔法は悪魔が持つ忌み嫌われた力だと。
間接的にお父様の心臓を握り潰した自分の手をまじまじと観察していたら、わたしの頭上から人型の影が覆いかぶさってきました。
その影には、手首から先がありません。
「繧医¥繧ゅd縺」縺溘↑」
──そう、わたしがつい先ほど殺したお父様が起き上がってきたのでした。




