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3話

 紙の隙間から染み出すように溢れてくる魔力(マギ)は、この本が紛れもない魔本である証拠。

 悪魔がこの世に持ち込んだ、この世にあってはならない品の一つ。悪魔がもたらした一品なので、もちろん(ろく)なことにならないのは目に見えています。


「だからこそ、誰かが犠牲になってしまう前に処分しなければ。わたしが」


 ここにある時点ですでに誰かしらが犠牲になっていそうですが、これ以上被害者を増やさないためにも、今すぐ行動に移しましょう。

 幸いわたしには物を燃やすことができる魔法があります。こんな(もの)さっさと燃やしてしまいましょう。

 本に手を伸ばして、指先が触れる前に寸止めしました。


「いや、待ってください。それはそれで盗みになってしまうのでは……?」


 売り物を勝手に持ち出しているわけですから、これは立派な犯罪行為です。

 ちゃんと購入するか、せめて事情を説明して交渉して、正式に入手しなければ。

 店内を見回してみますが、人の姿はありません。


「どうしたものでしょうか……困りました」


 とはいえ、ここで困っていてもなにも解決しません。

 ひとまずこの魔本のことを調べてみましょう。


「あまり魔力(マギ)から邪悪なものは感じませんね……」


 漏れ出る魔力(マギ)に触れたとしても、人体に影響はなさそうです。わたしはそっと手を伸ばし、魔本を手に取りました。

 大判のハードカバーで、タイトルはありません。紙と牛革が本の形をしているだけ。かなりの年季が感じられるほどボロボロになっていて、開いたら真っ二つに裂けてしまいそうな印象です。


「…………」


 わたしは自分と戦っています。

 この本を開いてみたい自分と、開いてはいけないという自分。この二人がわたしの心の中でせめぎ合っています。

 触らぬ神に祟りなし。開いた魔本に祟りあり、です。


「やめときな」


 そのとき、お店の奥からお婆さんの声が聞こえてきました。

 見てみると、腰が90度近く折れ曲がった老婆が姿を現しました。色が抜けて白くなった頭髪を頭上でお団子状にまとめ、顔には深い(しわ)が縦横無尽に刻まれています。

 いかにも怪しい古書店の店主をやっていそうな雰囲気を感じる老婆でした。


「その本を手に取るってのはいい目してる。だが、やめときな」

「どうしてでしょうか? それは」


 首を傾げ、重ねて「やめておけ」と言う老婆に疑問を投げかけます。


「そいつは開いた人間の魂を吸い取るって言われてる。開くときと開かないときがあるが、条件は知らん。嬢ちゃんが開いちまうかもしれない」

「なるほど。では──」


 わたしは軽く頷き、ハードカバーに手をかけて開きました(﹅﹅﹅﹅﹅)


「ばっ──!」


 驚きの声を上げる老婆の反応を尻目に、わたしの意識は魔本に吸い込まれていきました。

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