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23話

「貴重な情報をありがとうございました。以後、怪しい本を買い取るときは気をつけてくださいね」

「肝に銘じておくよ。保証はできんがね」


 口角を上げて、いたずらに笑う老婆。

 同じような本が来たら絶対買い取るだろこの婆さん。

 ……おほん。長い人生において魔本に遭遇するなんてまず有り得ませんから、二冊目の魔本がこの店にやってくることは無いでしょう。あったとしても、その魔本がこの店に来る頃には別の人が店主になっているかもしれませんね。


「で、嬢ちゃんはいったい何者なんだい? 悪魔を追っているってことは掃除屋かい?」


 わたしの格好を上から下まで眺めるようにして言いました。

 掃除屋とは、悪魔や魔教徒などの危険人物を抹殺する戦闘のプロフェッショナル集団の通称です。

 年の功というやつでしょうか。掃除屋のことを知っているなんて珍しいですね。

 わたしは首を横に振って答えます。


「いいえ、よく勘違いされますがわたしは掃除屋ではなく葬儀屋です。ホワイトと呼ばれていますので、ご用命の際は是非わたしに」

「年寄りだからって遠回しに死ねって言ってないかい?」

「とんでもない。それは誤解ですよ」

「ふん、まあいいさ。あと十年は()けるからね」


 本当にそれくらいなら元気に過ごしていそうです。これはわたしの出番はありそうにないですね。良いことです。

 さて、ここいらで本来の目的を思い出すとしましょう。


「少し本を物色させてもらいますね」

「好きにしな」


 ぷらぷらと適当に手を振りながら、老婆はお店の古めかしいレジが置いてある席に腰かけて小さな本を開いて目を通し始めました。

 魔本なんて激レアな本が置いてあったのです。悪魔や魔法に関する記述があっても不思議ではありません。

 わたしにかけられた呪いを解く方法だって、もしかしたらわかるかもしれない。


「──まあ、そんなに甘くはありませんか」


 お店の隅から隅まで視線を巡らせ、(かす)っていそうなタイトルのものは手にとって中身を軽く確認。

 ──結果、全滅でした。なにひとつとして新たな情報は得られませんでした。残念。

 初めからあまり期待はしていませんでしたから、レジのところでのんびりと読書を嗜んでいる老婆に声をかけて軽く一礼しました。


「おば様、ありがとうございました。お騒がせしました」

「なんだい、もう帰るのかい」


 小さなメガネを軽く外して上目遣いでこちらの瞳を覗き込んできます。その仕草にはとても知性を感じられて、生き生きしているように思えました。とても悪魔なんかには見えません。


「あまり長居はできないので。これで失礼します」


 老婆がわたしの呪いの対象になってしまうのを避けるため、用事が済んだら早々に退散です。こんなに素敵な人生を歩んでいるのに、無惨に死んでしまうかもしれませんから。


「……そうかい。あんたも体に気をつけなよ」

「はい。お互いに」

「達者でな」


 老婆は再び小さな本に視線を落として、声だけでわたしのことを見送ってくれました。

 外は雲ひとつない良い天気です。この空模様なら、葬儀屋(わたし)の出番は無さそうですね。


「さーて、これからどうしましょうかね……。あ、そうだ」


 ひとつ、とあることを思い出して、わたしは歩き始めるのでした。




   ──終わり。

もうちょっとだけ続くんじゃよ。

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