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22話

 ここは古本屋ですのでコッペパンなんて取り扱っているわけがありません。もちろん小粋でお茶目なジョークに決まっているじゃないですか。どや。

 さて、そんなことは脇に置いておいて、肝心の話をしなければなりません。


「ところでおば様。先ほどの本はどこで?」


 わたしはわずかに警戒を強めながら問いました。

 魔本は悪魔が書き記した邪悪なる本。人間が簡単に手に入れられるような代物ではありません。

 よって、わたしはこの老婆を疑わざるを得ないのです。経験上、悪魔本人である可能性を捨て切れないから。


「あれならどこぞの行商人が売りに来たのさ。物珍しかったから喜んで買い取ったらとんだ代物でこっちもいい迷惑さね」

「あの本がなんなのか聞かなかったのですか?」

「もちろん聞いたさ。『わからない』って即答さ」


 なぜか開けない謎の本、という魅力に惹かれて買い取ったわけですか。わたしからすれば馬鹿か阿呆か能無しの所業ですね。人生の先輩でもわたしは平等に評価を下します。

 老婆から話を聞くに、どうもあの本は何度か売れておば様の手を離れたらしいのですが、しばらく経つとまた戻ってきたそうです。

 購入した者は死んだという報告と共に。そのどれもが衰弱死だったとか。

 過去を見せるあの魔本に魂を吸い取られてしまったのでしょうね。

 ……本当に、悪辣(あくらつ)な内容でした。さすがのわたしも疲労困憊です。が、こんなところでへこたれている時間はありません。


「その行商人というのは? 詳しく」


 老婆への疑いが晴れたわけではありませんが、話を聞いて目星を付けておくに越したことはありません。魔本の出どころを追えば、いずれは悪魔に辿り着くはず。

 わたしの仕事は悪魔退治ではなく、亡くなった人を弔うことですが、魔本がある以上悪魔がどこかにいることは確定です。放置はできません。

 ですが老婆は手のひらを突き出し、待ったをかけました。


「その前に、今度はこっちの質問に答えてもらうよ。それがあの本の代金替わりってことでどうだい?」

「……わかりました。どうぞ」


 そう言われてしまっては、本を燃やしてしまったわたしに返す言葉はありません。

 姿勢を正して、質問を促しました。


「あの本はなんだ? なにを見た?」

「あれは魔本──悪魔が記した邪悪なる本です。過去を追体験させる力が宿っていたようです」


 心の弱い部分に滑り込んできて魂を魔本に封じ、じっくりとしゃぶるように精神を溶かしていくようなものだと睨んでいます。

 わたしが完全に取り込まれる前に魔本が燃えて現実に戻ってこられたのは、限界を超えた(オーバーフロー)のが原因だと推測します。

 本来は経験し得ない『死』という経験に耐えられなかったのでしょう。


「思い出したくもない過去を思い出してしまいましたよ。お陰様で」

「…………!」


 老婆の額に冷や汗が浮かびます。

 わたしは煮えたぎる暑くて黒いドロドロが腹の奥底から湧き上がってくるのをひたすらに深呼吸で冷やし、抑えつけるのでした。

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