20話
クローゼットなんて定番の隠れる場所を人間が見落とすはずありません。
黒い服を着た人がゆっくりとナイフを構えながら、クローゼットへと手を伸ばします。確認しようとしているだけで、まだ見つかってはいないはず。不意を打つならこのチャンスは逃せない。
わたしは息を潜め、取っ手を掴んだ瞬間を見計らって魔法を発動させました。
「ぐぁっ?! ──あああぁぁあ?!?!」
突如、取っ手を掴んだ指が取っ手ごと消滅し、小さな赤いシャワーを生み出して黒服さんが呻き声を上げます。
……おかしい。前はもっと広い範囲で魔法を発動させることができたのに、狭すぎる。
「グッ……これは魔法……?! そこに裏切り者がいるのだな?!」
傷は浅く、黒服さんの逆鱗に触れただけでした。目を血走らせて、『裏切り者』などと言われてしまいます。
訳がわかりません。わたしは黒服さんたちの仲間になった覚えなどありません。
「出てこい! その身体は悪魔様のものだ! すぐに明け渡せェ!!」
気が狂ったかのように声を裏返しながら絶叫する黒服さん。その恐ろしいほどの剣幕にわたしの身は竦んでしまいました。
──ドガァ!!
「あうっ?!」
黒服さんはクローゼットを無理やりに蹴破りました。内側にいたわたしもろとも。
「やはりいたか! お前だな、悪魔様に唾を吐く不届き者はァァ!!」
「いやっ、イヤッ、嫌ァァ……!」
扉を壊されたクローゼットから転がるように出て一目散に黒服さんから逃げます。
もちろん、逃がしてくれるはずもなく。
痛みを感じないのか、指のない手でわたしのことを床に力尽くで押さえつけて馬乗りになり、悪趣味なナイフを振り上げました。
その姿はお母様を……そしてわたしを殺したお父様の姿と重なって。
「イヤァァァァア!!!」
全力で暴れても、黒服さんはビクともしません。相手が子どもであろうと、大人の大きさと重さを容赦なく押し付けてきたのです。
「悪魔様のっ、ためにィィ!」
黒服さんは血走った目で振り上げた悪趣味なナイフをわたしに振り下ろ──




