2話
初めて降り立ったワフー国の街並みはわたしにとても新鮮な気持ちを分け与えてくれます。街を両断するようにどこまでも伸びる中央通りは人々で賑わい、笑顔で溢れていました。
家は見たことない木造建築で、道は少々荒れていますがしっかりと踏み固められた土。そして雰囲気はとても活気に満ちています。
「さて、まずは宿を確保してから散策と致しましょう」
散策がてら、気になるお店などがあれば片っ端から立ち寄ってみるつもりです。本命は船頭さんが仰っていたこじんまりとした怪しい古書店ですが、他にも呉服屋とかいう場所で着物をレンタルすることができるらしいので、記念にわたしも着てみたいですね。
きっと誰もが振り返って中央通りに大渋滞が発生してしまうこと請け合いです。そうなってしまってはワフー国の人々に多大なる迷惑をかけてしまうので、そうならないようにするためにレンタルしたときは人目を忍んで楽しむとしましょう。
「……? この感じは」
適当に中央通りを歩いていると、ふと髪を撫でる程度の微量な魔力を感じました。
それは脇道に逸れた薄暗い細道の先から風に乗って流れてきていました。
「……行ってみますか。ちょっとだけ」
魔力を少しでも感じたということは、少なからず悪魔が関わっているはずです。
魔法は悪魔の力。わたしみたいな魔法使いでもなければ、こんな街中で魔力を感じるなんてあってはなりません。
この魔力の正体を確かめないことには、安心して観光などできませんから。
流れてくる魔力を遡るように辿っていき、源流を特定。
「ここからですか。ふむ……ちょうどいいですね」
なにがちょうどいいって、そこはまさに目的としていた本屋だったからです。しかも怪しげな古書店。早々にそれっぽいお店を見つけられました。ラッキー。
「失礼します」
切れ目の入った垂れ下がった布をくぐり、声をかけながら中へ。
独特のかび臭さのようなものが鼻腔を撫で、一気に懐かしい気持ちにさせてくれました。嫌いじゃないです。このかおり。
「誰もいない……留守でしょうか」
中はしんと静まり返り、ほのかに舞う埃がキラキラと店内を彩っています。
どうやら文字通り『お留守』のようですね。これでは盗みたい放題じゃありませんか。
ここといい、障子とか言う扉といい、ワフー国のセキュリティは甘ちゃんですね。人間を信用し過ぎているのではないのでしょうか。
もちろんわたしはできた人間なので、その信用に応えて盗むなんてことはしませんが。
「本当に古い本ばかり。ボロボロ」
ゆっくりと歩いて本棚を眺めてみます。
中には長年手つかずなのか、風化して朽ちて埃と混ざっているものまであります。
そして見つけました。風に乗って流れていた魔力の根源を。本棚に。
「まさかこんなところにあるとは。──魔本が」
──そこには、湧き水のように魔力が漏れ出ている一冊の本が紛れ込んでいたのでした。