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15話

 丸一日ベッドでゆっくりできたお陰で歩ける程度には回復したわたしは、お医者様に連れられてとある場所へとやってきました。

 そこは真っ赤な三角屋根が特徴的な一軒家。裕福な暮らしをしていると一目でわかる外見です。

 それにここはわたしが暮らしていた村ではありません。気を失っている四日間で別の場所へと移されたようです。


「……ここは?」

「私の家だよ。家内と二人暮らしなんだが、息子も出て行ってしまって部屋が余っているんだ。色々と落ち着くまでうちで面倒を見てあげよう」


 お医者様は優しい笑みを浮かべながらわたしの頭を撫でます。

 ありがたいことに、寄る辺のないわたしに住む場所を提供してくれるというのです。具体的な期間も設けないままに。


「でも……」


 わたしにはなにもお返しができません。いきなり押しかけるようにやってきて、普通は迷惑なはずです。

 不安な表情を浮かべるわたしにお医者様は首を横に振りました。


「気にする必要はないよ。家内には君の目が覚めたらうちに案内すると話は通してあるんだ」


 随分と手際が良いといいますか、気に入られたと言いますか。

 今は行く当てもないので、ここはお言葉に甘えさせてもらうしかなく、わたしに選択肢などありませんでした。


「ただいまー! 例の子を連れてきたよー!」

「まあ! まあまあまあ!」


 玄関をくぐると、すぐに奥様らしき恰幅(かっぷく)の良いマダムが出迎えてくれました。お医者様もマダムも幸せそうな笑顔を浮かべていて、とてもお似合いでした。

 マダムはわたしの手を包み込むように握って、嬉しそうに言います。


「あぁ、いらっしゃい待ってたよ! うんうん、話に聞いてた通りの可愛い子じゃないかい! なんだか孫ができたみたいで嬉しいよ! ここを我が家だと思ってくつろいでくれていいんだからね?」

「……あ、ありがとうございます」


 わたしはマダムの勢いのある早口に若干気圧されながらも、お母様から教わった通り挨拶はしっかりとしました。少し声は小さかったかもしれませんが、顔が近かったのできっと聞こえていたと思います。

 その証拠にマダムは嬉しそうな笑顔をさらに嬉しそうにしています。


「お腹空いてないかい? ご飯食べるでしょう? もし嫌いな食べ物とかあったら遠慮しないで言ってね?」

「……う、うん」


 小さく頷くと、わたしの髪を()くようにひと撫でしてから、マダムは早速準備に取り掛かりました。

 それからしばらく、わたしはこの家に厄介になることになったのでした。




 ──それも……長くは続きませんでしたけど。

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