12話
──後悔しろ。
心に刻み込まれ、耳に残響する悪魔の最後の言葉。
薄れていく悪魔の言葉の残滓には、続きがありました。
──悪魔に愛されし子よ。
その言葉の本当の意味を理解するのはもう少し後の話でした。
「こ、こは……?」
暗闇の世界から徐々に光が差し始め、わたしはいつの間にか意識を取り戻していました。
傍らには変わらず血塗れになったお母様が倒れていて、これが現実であり事実なのだと、否応なくわたしの弱った心に突き刺さります。
側に落ちていた包丁を手に取り、自分の顔を映してみます。ツノも生えてない。牙も長くない。目も赤から白に戻っています。
どうやらわたしは、人間に戻れたようでした。
「わたし、まじんになってたんだ……」
魔人になっていた記憶は鮮明に残っていました。人を殺して食すことになんの違和感も感じられなかったその思考に、今なら違和感を感じられます。その行為に幸せすら感じていた。
──まるで洗脳。言われるがままに動く殺戮兵器に作り替えられたような感覚でした。
「ゔっ……?! おぇ……!!」
そして人をこの手にかける感触、臭い、味、映像が一気にフラッシュバックして、胃液と一緒に胃袋の中身を吐き出しました。
臭いで吐き、味で吐き、映像で吐き、吐く物が無くなっても体が吐き出そうとしていて、お腹と背中がくっつきそうでした。
胃袋まで吐き出して、カエルになりそう。
「はぁ……はぁ……」
なんとか落ち着きましたが、肩で息をするわたしの顔はげっそりとしていて、肌が白いことも相まって白骨のよう。
胃も空っぽ。体力も底を尽きていて立ち上がることすらままなりません。
「おなか、すいた……」
体は正直に空腹を訴えて、でも食欲なんて湧いてこなくて。お母様のそばから離れたくなくて。
「ママ……おなかすいたよぅ……」
冷たくなったお母様を温めるように寄り添って、意識がだんだんと遠のいていき、死んだように眠りに落ちていったのでした。




