3. 大人への道
私を運んでいるアリは通路を迷いなくズンズン進んでいきやがてひとつの部屋の前で止まった。部屋の中を覗いてみると私と似たような幼虫が沢山いた。恐らくここは幼虫用の部屋なんだろう。大量の半透明の白い幼虫が大量にうねうねしている様は中々気持ち悪かった。もし声が出せたら今頃悲鳴を上げているだろう。
(ヤダッ!! 違う部屋がイイ!! 出来れば個室で!!)
と心の中で叫びながら体をうねらせて抵抗してみたものの, 当然その願いは聞き届けられず私は幼虫部屋へ放り込まれたのだった。
あれから何時間経過しただろうか。私は周りの兄弟(多分)達がなるべく視界に入らないように仰向けに寝転んでいた。何もすることがなく暇なので天井のシミを数えながらボーっとしていると何やら足音が聞こえてきた。部屋の入口の方へ目をやると, アリ達が何かを持って部屋に入って来ているのが見えた。
(何だあれ? 何かの...塊?)
どうやらアリ達は持ってきた何かを幼虫に渡しているようだった。しばらく待っていると大きなアリが私のところに謎の塊を持ってやってきて, 私のお腹の上にそれを置いていった。
(何だこれ? 何に使うんだろう?)
分からないので他の幼虫の様子を窺うことにした。少し上半身を起こして周りを見てみると, 丁度視線の先にいる幼虫が謎の塊を渡されたところだった。私はその幼虫を幼虫Aと名づけることにした。幼虫Aを観察していると謎の塊に顔を近づけて何かしているように見えた。その時私の優秀な頭脳が嫌な推測を叩き出した。というか冷静に考えればアリが幼虫に渡すものなど1つしか無いのだ。そう, エサである。
(おぇぇぇ...これを食べなきゃいけないの?)
(確かによく見ると何かの肉?に見えなくもないような... いや見えないけど 緑っぽい色だし...)
正直食べたく無いのだが, というか見ただけでお腹一杯というか食欲が失せるというか何というかなのだが, 腹が減ってはなんとやら, 背に腹は代えられない。私は目を閉じてなるべく見ないようにしながら緑っぽい肉のような何かをチビチビ食べたのだった。意外なことに味は思ったよりかはまずくなっかった。アリに転生したことで味覚も変わったのだろうか。
あれから数日が経過した。たぶん。時計も無いし, 洞窟(もしくは巣穴)の中なので当然日の光も届かない。そんな状態なのでどれくらい時間が経過したのかなど分かるわけがない。唯一の判断材料は今食べているご飯である。あれが1日何食なのかによって大分変わってくるが, もし1日1食なのであれば今日で4日目である。周りにいた兄弟たちはドンドン繭になっていっている。生後どのくらいで繭になれるのかは定かではないがそう遠くはないだろう。
(成虫になったらこんなマズ飯から卒業するためにも美味しいものを探しに行こう!!)
(そのためにもコレを我慢して食べないと うぉぉぉぉぉぉぉぉー)
生きるために1番必要なものは希望である。誰かがそんなことを言っていたのを思い出しつつ私は一心不乱に目の前のマズ飯を食べるのだった。
一心不乱にマズ飯に食らいつき完食したその時
『レベルが上がりました』
と謎の音声が頭の中で響いた。周りをキョロキョロと見回しても当然音声を発せそうな生き物はいない。続いてその謎音声は
『体技【黒糸】を習得しました』
と言った。どうやら黒糸とやらを覚えたらしい。使い方がわからないけれど。試しに口から何か吐けないか試してみる, がやはり何も出ない。
(そういえばこの手の話だと右手を下に振ることでシステムメニュー的なものが出せるというのを何かのアニメで見たぞ よし!!やってみよう)
と思いやってみようとするが肝心なことを私は忘れていた。
(そーだった。私, 腕が無いんだった!!)
そう, 現在私は無駄のない楕円形のチャーミングなフォルムをしているので, 腕どころか動かせる突起物すらないのである。
(作戦失敗!! だが私は諦めない女 切り替えていこう)
(ジェスチャー系は無理だしどうしようか ぶっちゃけ今の私には頭の中で念じることぐらいしかできないよな)
(試しにやってみるか!!)
(【黒糸】)
念じてみると口から黒い糸が飛び出した。若干だが粘性もあるようである。
(よし!! 成功だ!!)
とりあえず使い方が分かったので一安心だ。しかしまだまだ問題がある。
(これ, 一体何に使うんだろう)
転生してから今までの記憶を1つ1つ思い出していく。そして私はとあることを思い出した。
(そういえば兄弟達の繭が黒いような...)
今まで天井ばかり見ていて碌に周りを見ていなかったので気づくのが遅れたが, 冷静に周りを見てみると兄弟たちの繭は, 私の吐いた糸程ではないが黒っぽい色をしている。そう考える【黒糸】は繭になるために使う技だと考えるのが妥当だろう。合点がいった私は早速自分の繭造りに取り掛かった。が, これが意外と難しい。周りの兄弟たちはよく上手くやれたものだと感心する。
(う~ん 上手くできない)
何度やっても上手く体を包むことが出来ず, 私の周りには黒い糸が散乱していた。何か手はないものかとあれこれ考えていたその時, 私は1つの妙案を閃いたのだった。