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枝転  作者: 深海
二章 枝はしなり
9/13

9P

 それから、再び彼らは雑談の日々を過ごしていた。


 しかしリョウタがいなくなった寂しさは残り。

 あの騒がしい奴が一人減っただけで、こんなにも会話は静かになるのかと。

 そんなことを考える度に、ユウは悲しい気持ちを抱くのだった。



 嵐が過ぎ去って、しばらく経った頃。

 あの少女が再び、雑木林にやってくるのが見えた。


「なんか、すごく久々に見た気がしますね」

「まあ、来る日は気まぐれっぽいしなあ」


 マコトと二人、少女を見下ろしていると。

 少女は何を思ったのか、ふいに顔を上に向け。じっと何かを見つめた。


 なんとなく、ユウは彼女と、視線が合っている気がした。


「んー? 鳥さんかなあ?」


 少女は何度か、上空に目をこらしたが。この辺りに鳥はいない。


 疑問符を浮かべる少女とユウたちだったが。

 少女は「まあいっか」と、考えることを放棄して、木の下に腰を下ろした。



 ユウは、試しに少女をじっと見つめて、変数を確認してみた。


《UserNumber2022_10100》


 少女とユウの変数は、識別番号らしき数字こそ違うものの、同じような羅列になっている。

 一体どんな理由でこの番号なのかわからないが。

 少なくとも『自力で行動できる生き物』の変数は、個体ごとに違うようだ。


 鳥も、リスも、人間も。そして、自我を持つ枝たちも、個々の変数を持っている。

 だが、落ちている枝や葉は、一つの変数にまとめられていた。


 もっと細かく言えば、彼ら枝に生える葉の変数は、一つにまとめられている。

 意識がなければ、個別の変数はないのだろうか。



 共通点を見つければ見つけるほど、難解な変数に困惑気味のユウ。

 そんな彼に、頭上を見上げる少女が声を掛けた。



「ねえ、話を聞いてくれる?」



 一瞬、どきりとした。


 周囲を見回し、少女が見つめる先の上空も見て。

 それから、ユウは再び少女を見下ろして、問い返した。


「お、俺?」


 だが少女は、ユウの問い掛けに返事をするわけでもなく。

 いつものように独り言を続けた。


「師匠がね、今日はたるみすぎだって言うの。昨日はもっと力を抜けって言ってたくせにさ。酷くない?」


 少女は不服そうな顔で、両足をパタパタと上下に揺らした。

 その様子に、ユウは残念に思いながらも安堵のため息を吐く。


「そんなわけないか……」


 だが、少女の青い瞳は明らかにユウへと向けられていた。


「でもね。最近、師匠が言うこともわかる気がしてきたの」


 少女は跳ねるように立ち上がると、素早く拳を突き出す。


「適度に、力を抜いて……」


 何度か拳を突き出した後、足が持ち上がり。


「大事なとこで、強く!」


 凄まじい圧力を持った蹴りが、宙に放たれる。



 それから少女は特訓するように、同じ動きを何度か繰り返した。


 金色の髪が、ふわりと。蹴りをする度に舞い上がった。

 何度も繰り返している内に、額に浮いた汗が飛び散り。

 太陽の光を反射させて、輝いて見えた。



 そんな時。ユウは彼女の発した言葉にも、変数が存在することに気付いた。

 少女がなにかを言う度に、薄らと。変数らしき文字列が浮き出る。


「大事なとこで力がでなかったら、意味ないんだなって」


《UserNumber2022_10100_Talk = '大事なとこで力がでなかったら、意味ないんだなって'》


 その変数は、今までと少し系統が違った。



 まず、変数の扱っているものが数値ではなく、言葉であること。

 次に、変数の中身がそのまま発言内容になっていること。

 変数の中身は発言する度、変わっていること。



「……そろそろ帰ろっと」


 少女は蹴りを止めると、一つ息を吐いてからまた見上げる。


「じゃ、またね」


 少女はユウに向けて、無邪気な笑みを浮かべた。

 いや、それはユウに向けられた笑みではない。そのはずだ。

 なのに、目線は明らかに、ユウへと向けられていた。


 少女が歩き去って行った後、マコトが言った。


「あいつ、ユウを見てたよな?」


 期待してしまいそうな気持ちを押し殺して、ユウは苦笑気味に返した。


「そんな、まさか……偶然でしょう」


 そうだ、そのはずだ。……そのはずだけれど。


 ユウはつい先ほど見た、変数を思い出す。

 これがあれば、いつか彼女と話ができる日も、来るかもしれない。

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