8P
すぐに改行され『OK』と結果が表示される。
直後。ユウの身体、枝に変化が起きた。
雨風に晒され、ささくれていた側面がきれいに磨かれ。
一気に十センチは伸びた枝先には、艶やかな深い緑色をした葉が生え揃い。
枝自体の太さも、拳ほどではないが一気に太くなった。
「おわっ!? どど、どうしたんだ急に!」
その変容を間近で見ていたマコトが驚きの声を上げる。
ハセガワも同じように驚愕し。恐る恐る、声を掛けた。
「お、お前……ユウ、か?」
「はい……うまくいったみたいですね」
体力ゲージを見ると。ユウのゲージは他二人に比べ、格段に増えていた。
代わりに。先ほど使った変数の内、地上に見えていたはずの変数は見えなくなっている。
もしかしたら、一度使った変数はもう使えないのかもしれない。
何の変数を自分の体力である変数に足したのかわからないが……ユウは疑問をひとまず保留にして、他二人の体力ゲージを気にした。
風が吹く度に、二人の体力ゲージは少しずつ減っているが。ゲージの残量はまだまだありそうだ。
少なくとも、今すぐ折れてしまうような値ではない。
「やばくなったら、俺がなんとかしますから! この嵐を乗り切りましょう!」
ユウの力強い言葉に、マコトはわけがわからないという風ではあったが。
短く「おう!」とだけ答えた。
嵐は二日もの間、この雑木林を荒らした。
多くの枝が犠牲になり、また多くの葉が地上に落ちた。
しかし、嵐が過ぎ去った後の朝は、とても晴れやかな空模様だった。
雲一つない青空は澄み渡り、水に濡れた枝葉はまばゆい太陽光によって乾かされていく。
枝であっても、新鮮な空気を感じられた。
「つまりお前は、プログラミング的なことをしたから、こんな立派な枝になったってことか?」
嵐が過ぎ去った後。
二人の枝から質問攻めに遭っていたユウの話を、マコトがまとめ、確認を取る。
「プログラミングっていうか、単純に計算式を使っただけなんですけど……」
「でも、その……変数っていうやつ? それが見えるんだろ? すげー能力じゃん」
ユウが地上に視線を落とすと、嵐の日に見えた変数があった。
どうやら嵐の日に使った変数は、落ち葉を表していたようで。
嵐が収まった後に見ると、再び変数の名前が見えるようになっていた。
ちなみに、使っていない方の変数は、折れてしまった枝を表しているようだ。
嵐の後、ユウは自分が使った、魔法のような能力について分析していた。
まず、ユウ自身の体力ゲージを増加させるために使用した変数。
地上に落ちていた変数の内、落ち葉の変数が一時的に使えなくなったこと。
これは、体力ゲージを回復するために落ち葉を消費したため、見えなくなったのだろうと考えた。
「この辺にあった、落ち葉の枚数分、体力が回復した……ってことか?」
そうです、とユウは頷き答えてから続ける。
「実際この辺りだけ、落ち葉が異様に少ない。消費された変数は、消えてなくなるのかもしれません」
「なるほどなあ……消費する変数は、気をつけて選ぶ必要があるんだな」
「そうですね。落ち葉程度なら、変数は復活するみたいですけど」
そう言いユウが視線を落とした先には、落ち葉の変数。
落ち葉の場合は、時間が経てば変数自体も復活し、再び使えるようになるようだった。
次に、使用できる変数は、ユウの周囲に存在しなければならないこと。
消費される変数もまた、周辺に存在するものだけらしい。
「見たところ、数メートルの範囲にある落ち葉しか消えてませんし。この力の有効範囲は、この数メートル分なのかなと思います」
「まあ、地球上の落ち葉が一晩で消えたら、今頃大騒ぎになっているな」
マコトも納得するように頷いた。
ユウはまた、視線を地上に移す。
体力ゲージの回復量が、落ち葉の枚数分と考えるなら。
落ち葉の少ない今、同じように変数を使っても。
あの時と同じくらいゲージが回復するとは限らないだろう。
「しっかしなあ……だいぶでかくなったよな?」
マコトが感慨深そうに、太くなったユウの枝を見る。
しかし、太くなったとはいえ、ハセガワの太さにはまだ遠い。
「ハセガワさんは、その太さになるまで何年掛かったんです?」
「さあな……少なくとも、二十年は掛かっていると思うぞ」
二十年。
あまりにも長い経過年数に、ユウとマコトは言葉を失った。