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枝転  作者: 深海
二章 枝はしなり
7/13

7P

 ボキリ、音が聞こえた。それだけだった。

 瞬く間も与えずに、枝は風にさらわれる。

 リョウタがいた場所には、もう何も無い。

 快活だった彼の声は、もうどこからも聞こえない。



「嘘だ……」


 呟いてから、ユウは堪らず叫んだ。


「嘘だろ、リョウタ!!」

「振り返るな!」


 マコトは言う、今は振り返るべき時ではないと。


 リョウタが折れた今、自分まで折れるわけにはいかない。

 ユウは黙って、前を向く。

 涙は流せなかったけれど。

 悲しみがユウに、今までに無い力を与えてくれている気がした。



 もしも、この世界が『ゲーム』だったなら、どんなに単純だっただろう。


 値が0になったら折れる設定の組み込まれた『体力』を表す数値が存在していて。

 その数値が見えたなら、その数値を『改ざん』できたなら。

 体力を増加させることができたなら。

 そうしたら、リョウタは折れずに済んだのに。



 瞬間。ユウの視界に、今まで見えていなかった、何かが見えた。


 横に伸びる、色のついた四角形。

 それは、見える範囲にある枝……ハセガワとマコト、そしてユウの近くに浮かんでいた。


「なんだ、これ……」


 横に伸びている四角形は、よくよく見れば、何かの残量を表す際に使われる『ゲージ』の役割を持っているのか。

 色のついた四角形の長さが、少しずつ減っていた。


 減るスピードは、ユウが一番速く進んでいた。

 ゲージの残量も、ユウが一番少ない。

 まさか、これは……体力ゲージ?


「ユウ、どうした!?」


 マコトの問い掛けにも気付かずに。ユウは自身の、体力ゲージをじっと見つめる。

 すると、次第に謎の文字列が浮かんできた。


《UserNumber0_22_HP》


 一見すると、まったく意味がわからない文字だが。

 こんな文字の書き方を、ユウは見た覚えがあった。



 この文字は、ゲームを作る際に用いる『変数』の名前に似ていた。

 変数というのは、つまり。


「データを、記憶している箱……」


 ユウの目の前に黒く、薄い。紙のような板が現れる。


 板にはすでに白い文字が刻まれており。

 先ほど、ユウの体力ゲージに浮かんでいた文字列が表示されていた。

 まるでそれは、黒背景に白字で文字を打ち込める、アプリ画面のようだ。


「テキストエディターに近いな……」


 ユウは一人、呟きながらその画面を見つめる。

 板は、続く言葉を待つように。白い縦棒を点滅させていた。

 それ以外、何も起きない現状。



 少しして、ユウはこの黒い板が求めていることに、気が付いた。


「コマンド入力を、待ってるのか?」


 先ほど現れた文字列、変数の中身は、おそらくユウの傍に浮かぶ体力ゲージと連動している。

 中身はおそらく数値だろう。

 今、表示されている体力ゲージの、正確な値。


 もし、この数値に手を加えられるのなら。

 ユウが変数の中身を書き換える想像すると、板にも想像していた文字が書き込まれた。


【UserNumber0_22_HP + 10000】


 しかし一秒も経たずに、白い縦棒が勝手に下へとずれ。

 改行されたのだろうか、とユウが思っている間に、赤字で『ERROR』と表示された。


 単に数字を足すだけでは、手を加えられないようだ。



「くそ、そこまで単純じゃないか……」


 ユウは悔しげに呟いてから、地上に視線を落とす。

 少しして、気付く。地上に落ちている『何か』にも、変数があることに。


《ItemNumber8_4》

《ItemNumber8_5》


 あまりにも雨風が強く。何の変数か、はっきりと見えない。


 これらの変数にも、数値が入っているのだろうか?

 もし、入っているなら。

 ユウは再び、黒い板に向き直る。


【UserNumber0_22_HP + ItemNumber8_4】

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