3P
「で、お前はどうなんだ?」
それぞれの前世をずっと聞いていたユウに、マコトが問い掛ける。
「え? お、俺ですか?」
問われてから、ユウは困ったようなうなり声を出しながら、話すべき内容を考えだす。
そんな困った様子の彼に、リョウタが茶化すように言った。
「ユウさんは、俺みたいにモテるとは思えないからなー……引きこもってたんじゃないの?」
図星を突かれたユウは、思わず言葉を詰まらせる。
引きこもっていたのは事実だが。
改めて言われると、気分が落ち込んだ。
「えっと、その」と口ごもるユウを見て、マコトがあきれるように長く息を吐いてからリョウタに嫌味を言う。
「お前みたいな生き方のほうがおかしいんだよ」
「えぇ!? 俺は超絶ラブストーリーじゃん! て、自分で言うのも照れちゃうなー!」
だが、リョウタにその手の嫌味は通じないらしい。
勝手に照れて、前世の思い出を話しはじめ。勝手に盛り上がっている。
好きな子に殺されるほど恨まれることの、どこが超絶ラブストーリーなのか。
ユウはテンションの高いリョウタに冷ややかな視線を向けたが。
リョウタ本人は、そんな目を向けられていると知らないのか。まったく気にしていない様子だった。
「で? ユウさんはどんな前世だったの」
ひとしきり喋り終えたリョウタが、ユウに尋ねる。
「お、俺は……」
彼は少し言うのをためらってから、小さく答えた。
「……引きこもっていました。十六歳の時から、ずっと」
「高一から? ていうか、死んだの何歳?」
「二十二歳、だと思います」
思い出したくもない前世、だけれど彼は静かに話しはじめた。
話すことで、荷が少し軽くなる気がしたから。
彼の両親は、幼い頃から仲が悪かった。
互いに怒鳴りあい、物を投げ、最後に泣く。
兄弟がいない故に、とばっちりがユウにだけ飛んでくる。
ユウから見ればどちらも悪く、どちらかだけが悪いわけではない。
だから、さっさと離婚して、一日だけでも互いをきれいさっぱり忘れてしまえば良いと思っていた。
だが、彼が中学生の頃に事件が起きた。
「父さんが、酒に酔って人を殴ったんだ。警察沙汰にもなって……その事件がきっかけで離婚して、俺は母さんのところに残った」
日頃から、母と喧嘩したばかりの父は短気になり。
仕草や言動が荒々しくなりがちだった。
その乱暴な振る舞いを、他人に向けてしまったのだろう。
「その頃に俺、ちょっと、調子崩して。学校にも行けなくなって、部屋にこもっていたんです」
「ふーん……で、そのまま死んじゃったって感じです?」
リョウタからの問いに、ユウは沈黙した。
数秒の間の後、ユウが沈黙する理由を思い出したリョウタは、言葉を付け足す。
「そっか、死んだかわからないんだっけ」
ユウは再び沈黙したが、今度は肯定を意味していた。
それから四本の枝たちは、気を取り直すかのように。
何日も掛けてそれぞれの持っていた趣味を語り合った。
家にこもって、ただ時計だけを見つめる日々とは打って変わり。
毎朝毎晩、一日中、疲れるまで誰かと話し続けるだけの日々を。
ユウは不思議と苦痛に感じなかった。
それどころか。話す本人にとってはどうでもいいような会話でも、話を聞く者にとっては新しい知識の宝庫らしく。自然と話は盛り上がった。
「え、ゲーム作れるの!?」
控えめに「う、うん」と頷き答えるユウに、リョウタが興味津々に聞いてくる。
「どんなゲーム作るんですか?」
「えっと、3DのRPGとか、作っていたよ。パズルゲームなら、素材があれば一日で作れるし……」
「すっげー! 俺、機械音痴だからそういうの憧れるんですよ!」
「そんな……調べれば大抵のことは出てくるよ」
謙遜する彼に、リョウタは「わかってないなぁ」となぜか自信に満ちた口調で語った。
「その調べるってことが、そもそも難易度が高いんだって!」
「そうだな、俺も調べものは苦手だ」
ハセガワも、同意するように頷く。
「俺は逆に、調べないと気が済まないタイプだったけどな……説明書がない物もあるだろう? そういうのって困るよな」
苦笑しながら話すマコトに、リョウタは驚きの声を上げる。
「えぇ!? 説明書なんて、普通読まないでしょう!」
「じゃあ、どうやってタブレットとか操作してたんだよ」
「そんなの、あれですよ。ポンポンって押していけばどうにかなるんです!」
感覚で操作するタイプか。
ユウはついつい、小さく吹き出した。
加湿器を適当に操作した結果、水蒸気が止まらなくなった時の話をするリョウタの失敗談を聞きながら。
ユウは頭の中で、『蒸気を噴出し続ける加湿器を止めるパズルゲーム』を作る工程を考える。
まずプレイヤーは電源を切るだろうから、電源ボタンを用意して。
それでも止まらないのだから、プレイヤーは次に分解しようとするだろう。
必要な3D素材は、加湿器本体と、その中身……。
ゲームとして必要な部品を考えながら。
一体どんなつまらないゲームが出来上がるのだろう、と想像し。ユウは一人にやついていた。
その表情は、誰にも認識できなかったけれど。