表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
枝転  作者: 深海
一章 枝の前世、前々世
2/13

2P

 上に生える枝。マコトが最初に説明してくれたことは、二つある。


 まず、自分たちは枝である以上、どこにも行けないこと。

 手足がない上に、母体である木に生える枝は、自分の力ではどこにも行けないし。

 たとえ枝が折れ、木から離れたところで歩けるわけでもない。

 しかも折れた枝は、次第に生命力を失い。最終的に死を迎えると言う。


 だからと言って、自ら折れることもできない。


「折れたとしても、今の俺たちに痛覚だけはないみたいだから。そこだけは安心しろ」


 マコトはそう言って励ますが。

 枝になったばかりの彼には、折れたら死ぬ、ということしか伝わらなかった。



 次に、枝としての生き方。

 枝は日々、成長すること以外何もできない。

 だが『良い成長』ができなければ、害虫に蝕まれ、病気にかかることもあるとか。


「良い成長ができる枝は、お喋りな奴が多いって話だ。だから俺たちは毎日、飽きるまで喋り続けることにしている」


 良い成長をした枝は葉をつけ、光合成することで母体の木に生命エネルギーを送ることができる。

 そのため、葉のない枝の第一目標は、葉をつけることだった。


「葉のないお前が今、こうして生きているのも。母体の木からエネルギーを受け取ってるからだぜ」

「じゃあ、母体のエネルギーが尽きたら……?」

「母体ごと折れて死ぬ。だからお前も、葉をつけられるようにがんばれよ」


 恐怖に顔が引きつった気がしたが。今の彼にはもう、表情筋すらないのだった。




「とまあ、これが俺たちの基本的な生き方だ。何か質問はあるか?」


 そう問われ、はじめは何も思いつかなかった彼だが。

 少し考えると、一つだけ質問が思い浮かび。恐る恐る、尋ねた。


「枝って、寿命は何年とかあるんですか?」

「んー、人それぞれだな。嵐の日に折れる奴もいれば、百年近く生きてる枝もいるらしいぞ?」


 すると、下に生える枝。リョウタがまた吹き出して言った。


「もう人じゃないのに、人それぞれ!」

「なんだよ、枝それぞれって言えばよかったか?」

「わっはっは! それいいですねー!」


 爆笑しているリョウタを見て。

 この枝とは仲良くできなさそうだ、と。彼は心の中で少し思った。




 こうして彼。ユウは突然、枝として生きることになった。

 枝として日々、日光を求めて少しずつ成長していく中。

 仲間として話し掛けてきてくれる枝は三本だけだった。


 だが、他にも元人間だった枝が何本も生えており。

 聞き耳を立てると、それぞれでコミュニティを築いていることがわかった。

 ただ、どのコミュニティも、他のコミュニティと仲良くしているわけではなさそうだ。


 疑問に思ったユウが尋ねると、マコトはこう答えた。


「誰も、人の多いコミュニティを望んでいないんだ。場所が遠いと声も届かないしな」


 人の多いコミュニティを、望まない。

 めまいを起こすほどに満員電車が苦痛だったユウにも、心当たりがあることだった。



 また、枝になったばかりのユウは、自分の死因を何一つ覚えていなかった。

 しかしマコトが言うには、自分が死んだこともわからないまま枝になった奴もまれにおり。

 特別おかしなことではないらしい。


 その更に上まで伸びる太い枝、ハセガワの情報では。

 枝に生まれ変わった者のほとんどが、前世。

 つまり人であった頃に、ろくな生き方をしてこなかったという話だ。



「俺は組の抗争が原因で死んだが、生前は人殺しもやってのけた。それでもこうして、他の枝と普通に話ができる分、マシな地獄に行き着いたと思ったな……」


 しみじみと語るハセガワの人生は、枝になりたてのユウとは真逆と思えるほどにハードなものだった。


 暴力団組織に属し、組織の存続や威厳を保つために行動し、組織のために死んだ。

 ハセガワの語る前世は暗い話が多かったが。

 彼の発する言葉の全てに、信頼できる重みがあった。



 マコトも、ハセガワほどではないにしろ壮絶な人生だった。


 大学生の頃に受けた逆恨みが原因で、顔の半分を薬液で焼かれ。

 犯人が捕まった後、顔にできた(みにく)い傷跡が原因で接客業を辞めさせられた。

 それきり部屋にこもって、最終的に首を吊って死んだと言う。


「もう二度と、恋も仕事もできないと思って、首を吊ったんだ。今なら、そんなことないだろうって思うんだけどな」


 前世の出来事を話したマコトは、過去を懐かしむように小さく笑った。



 そんな二本の枝と違って。リョウタは少々、頭がおかしかった。


 彼は高校生時代に亡くなったらしいが。

 その原因が、いじめていた女子生徒に刺されたからだった。

 しかもいじめのきっかけは、リョウタがその女子生徒に恋をして。

 ちょっかいを出したことが原因のようだ。


「まさか好きな子に刺されるとは思ってなかったけど……殺すまでずっと俺のこと考えてたんじゃないかって思ったら、やば、超嬉しい! って思っちゃってさあ」


 リョウタは、まるでのろけ話を聞かせるかのように笑っていたが。

 それを聞く他の枝たちは、あきれを通り越して諦観(ていかん)の眼差しを向けるのみだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ