5.雪兎の回想2
週一投稿、もっと短くしようかなー・・・
「もっと足が長かったらっ! 走るのが速かったらっ! 良かったのにっ!!」
雪兎は走った。あの神社の鳥居が見えた時、なぜか安心して、体の力がふっと抜けてしまいそうになった。そして、ほぼ滑り込むようにして、
「すみれっ! すみれ!!」
神社の境内に入った。思った通り、すみれは神社の裏で泣いていた。声を押し殺すように、小さく、小さくなって泣いていた。風がそよそよ吹いている。風に共鳴するように、ヒバの大木がサワサワと声をかける。
「大丈夫?」
「どうしたの?」
「どこか痛いの?」
雪兎はすみれに近づき、彼女に声をかけた。
「ねぇ、すみれ。遅くなってごめん。僕だよ、雪兎だよ。すみれ、もういいんだよ。泣いてもいい。ここには二人しかいないから。」
すみれはハッとしたように一度顔を上げて、今度は声を殺さずに泣き始めた。雪兎はすみれの横に座った。
「とても辛かったっ、悲しかった・・・っ! なんで、おばあちゃん・・・!」
すみれはかすれた声で泣いた。雪兎はすみれを慰めるように背中をなでていた。ヒバの大木はただ、そこにいた。二人を、
ー包むように、寄り添うようにー
ーそして、守るようにー
空が紅と紫のグラデーションになった頃、雪兎の母が迎えに来た。彼女もまた、二人のいる場所を知っていた。そこには泣き疲れて雪兎に寄りかかって寝ているすみれと、それを愛おしそうに見つめている雪兎がいた。
葬儀と一連のことが終わり、すみれは、僕と僕の家族にお礼を言いに来ていた。そして、これからのことを話してくれた。一人暮らしをすると言ったのには驚いたが、これもすみれの決めたことだ。
「何かあったらいつでも頼って。」
と僕の母が言うと、
「ありがとうございます。」
と蕾が開くような笑顔で微笑んだ。
次の日、雪兎が学校に行くと、いきなり友人たちが話しかけてきた。
「なあ、土曜の試合、どうしたんだよ。」
「マジで負ける寸前だったんだぜ!」
「先輩のおかげで勝てたけどな。」
雪兎は驚き、本当のことを言うか迷った。ここですみれの名前を出してしまうと、今でさえ孤立している彼女を深く傷つけることになるだろう。雪兎によって。だから、僕は僕を偽る。
「ごめん、次は絶対出るから。」
「そっか、なら仕方ないな。」
「次の試合、期待してるよ。」
「そーいやーさー、新しい担任のこと、聞いた?」
「聞いた~!前の先生、優しくて美人だったのになー。」
そう。担任だった先生が家の事情とかで辞めてしまったから、今、雪兎たちの担任はいないのである。そして、朝のホームルームで、新しい先生が発表された。若い男の先生。いい先生だ。この時はまだ、皆そう思っていた。
次回からちょっとずつシリアス、入りまーす。
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