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神の子の泉

船で休んで干し柿を食べたぼくは、力を取り戻し、全速力でイワナの兄ちゃんを追った。


イワナの兄ちゃんは、ずっと先に行ってしまったようで姿が見えない。


ぼくの先を行くナナイロの黄色い光だけが頼りだ。


「頑張れ!七夜!」自分に言った。


向こうに何かある。今度こそ間違えないぞ!北の国だ!


黒い物が、少しずつはっきりと見えてきた。


(がけ)だ!


「やったー!着いたー!海を越えたよー!」ぼくは、まだ夜中だというのに(うれ)しくて叫んだ!


「待ちくたびれたぜ! まあ、ドジガラスにしては、良く頑張ったって所だな。」


「イワナの兄ちゃん!無事だったんだねー!良かったよー!」


「あったりめえよう!さて、おれは、もっと北に進んでそっから川に登る。」


「神の子の泉っていう名前だって!」


ぼくは、泳ぎ始めたイワナの兄ちゃんに伝えた。


ぼくは、寝よう。そして、空が少し明るくなったら、底まで透き通る神の子の泉を探そう。


「ナナイロさん、ありがとう。」


言ったか言わないうちに、眠りに落ちてしまった。


バキバキッ バキバキッ


ぼくは、飛び起きて下を見ると、なんと!


大きなクマが、雪の重みで()れ下がった小枝を、()みつけて歩いて行く。


ウワー!!


「さーて、ぼくも活動開始!」


北に向かって飛ぶ。きれいな湖がたくさんある。


どれだろう。透き通った湖が多い。緑の玉が(いく)つもクルクル回っている湖もある。


もっと北に進んで探そう。すると、氷が張っていない青い湖があった。


これかも。ぼくは、真ん中に行って底が見えるかどうかを見た。


何本もの倒木(とうぼく)が底に沈んでいるのがはっきりと見える!ここだ!


イワナの兄ちゃんに知らせよう!


ぼくは、高く飛んで黄色の光を探した。


イワナの兄ちゃんは北の国も終わるというほど北の果ての川を登っていた。


川幅は(せば)狭まっていたが、イワナの兄ちゃんに似た魚たちも、先を争うように川を登っている。


「みんなしてぼくを手伝ってくれるの?」


ぼくは急降下して言った。


「なに言ってるんだよ。このドジガラス!こいつ達は卵を産むために川を登っているのさ!子孫繁栄(しそんはんえい)ってやつよ!」


「へー!」ぼくは、その勢いと(すさ)まじい光景に息を呑んで、石の多い川原で見ていた。


その時、3匹のクマが突進して来て、川登りしていた魚たちを捕まえ始めた。


ぴしゃんと(たた)いて、気を失った魚を川原に(くわ)えてきて食べ始める。


あまりの早技で、ぼくは、イワナの兄ちゃんを見失ってしまった。


まだ2匹は川の中にいる。


ぼくは、川の中にいるクマの頭に飛び付いて、耳に()み付いた。そして、思い切りねじった。


クマは、ぼくを払いのけようとした。鋭い爪が目の前を横切った。


ぼくは、飛び上がって今度はお尻に噛み付いた。


クマは、うるさく噛みつくぼくを避けて川から上がり、他のクマが捕まえた魚を横取りしようとした。


(うな)り声をあげての大喧嘩(おおげんか)になった。


その(すき)にぼくは、もう1匹の川にいるクマの耳にも(かじ)りついた。


払おうとしても、ぼくは身を(ひるがえ)しては、また、嚙りついてねじった。


クマは川から出て、威嚇(いかく)するぼくをにらんだ。


ぼくは無用な戦いはしたくない。


早くイワナの兄ちゃんと行かなくちゃ!


「イワナの兄ちゃん!行くよ!神の子の泉に!ぼくの背に乗って!」


「オリャー!」イワナの兄ちゃんは、隠れていた石の(わき)から勢いよく飛び跳ねた。


クマが突進して来る。


ぼくは、イワナの兄ちゃんを下からすくうように背中に乗せた。


クマの爪は、ぼくたちに届かず、空を叩いた。


空高く飛び上がったぼくたちを、(くや)しそうに見上げるクマたち。


ぼくは、お(かま)いなしに神の子の泉に向かった。


泉に着くとイワナの兄ちゃんを降ろし、ぼくも真ん中まで飛んだ。


倒木は見えるが、(つるぎ)のような物はない。


倒木の下になっちゃっているのかな。


「イワナの兄ちゃん!木の下に何かあるか見てもらえる?」


「あー、今、見ているけどよ!土がかぶっちまったのかな?」


イワナの兄ちゃんは、土の下も水を()いては見ている。


「おー、なんか光ってるぜ!ここだ!来て見な!」


「うん!分かった!」


ぼくは、思い切って、冷たそうに静まり返った泉に、頭から飛び込んだ。


うん?(あたた)かい!もう少しで底だ!見える。海色の勾玉。この泉とおんなじ青色だから上からじゃ見えなかった。


すぐそこに勾玉が見えるのになかなか届かない。


くっ苦しい!


ぼくは(あきら)めて上に向かった。


「ゴボッ」ぼくは水を吸い込んでしまった。


(おぼ)れるってこんなに苦しいんだ。


「ゴボッ ゴボッ ・・・」


ぼくは、泉の中で気を失ってしまった。


ナナイロは、ぼくの周りに火を灯している。


イワナの兄ちゃんが、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで見守っている。


ぼくは死んだのかな?


ナナイロの(とも)した火は、どんどん明るさを増して、(まぶ)しくて、ぼくはギュッと目を閉じた。


体が宙吊(ちゅうづ)りになっていく。


口から生温(なまあたた)かいドロドロしたものが出た。


ここは地獄(じごく)かな?それにしては眩しいな。


夢かな?ぼくは、そろりそろり目を開けてみた。


「おい!ドジガラス!しっかりしろ!おれが分かるか!ドジガラス!」


「あー、イワナの兄ちゃん。」


「ドジガラスが目を覚ましたぞ!」


「ぼく、生きてる?」


「なにを言ってやがる!生きてるに決まっているじゃねぇか!心配させやがって!

ほら!そこに勾玉を置いたぜ!

本当はドジガラスが(もぐ)って取るはずだろうが、まだ半分も潜らないうちに溺れやがってよ。 だから、おれがそこまで持ってきた。まだ水ん中だ。後は自分で取れ!」


「イワナの兄ちゃん、ありがとう!」


ぼくは、水辺に頭だけ出して寝かされている。イワナの兄ちゃんが、助けてくれたんだな。


起き上がって体中の水を振り払った。


跳ねてみた。大丈夫だ。羽を大きく広げてパタパタしてみた。大丈夫だ。飛べる。


ぼくは、海色の勾玉を目指してもう一度水の中に飛び込んだ。


今度はすぐに届いた。そっと(くわ)えて木の上に置いた。


小さく見えたが黄金の勾玉と同じ大きさ。そして、同じ所に小さな穴があいている。


ぼくは、人の住む家の周りを歩いて手頃(てごろ)(ひも)を見つけた。それを勾玉に通して首に掛けた。


海色の勾玉。


「ナナイロ、海色の勾玉だよ。」


「良くやった!七夜。他の5個は娘が持っておる。それを持って選ばれし者の所に行くのだ。」


ナナイロの声が天の声のように(ひび)いた。


山だ!人が住めるだろう一番高い山。


ナナイロは、その娘のことを知っているようだ。


「ナナイロさん、行きましょう。出発です。」


ぼくは、イワナの兄ちゃんに声を掛けて、一緒に神の子の泉を後にした。


続く


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