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第6話 覚悟


ティーポットがお茶をカップに注ぐ音が静かな部屋に響く。


()の世には魔女にまつわる伝説と、それと対ついになる予言があります」




「彼の世では光一郎様を伝説に出てくる勇者になぞらえる者も多くいます。彼の世の混乱の度に勇者が助けてくれると都合よく予言を捉え、魔女の復活を楽観視する者が大半です」




「その者達はどれだけの事を光一郎様達が犠牲にしてきたか、どれだけの困難があったのか、知ろうともしないのです」




「光一郎様が既に他界されていることは公にされておりません。

彼の世の者達は光一郎様が亡くなったことも知らず、未だに光一郎様が都合良く助けてくれると思っているのです。

………たとえ光一郎様がご存命であったとしても、高齢の光一郎様に皆はどれだけの苦難を押し被せようと言うのか。私には理解できません」



「彼の世の伝説では、魔女は再び復活し、求めるモノを手中に収めるべく暗躍を始めると伝えています」


「それに対して予言では『前回は封印するだけに留まったが、2度目は魔女の怒りを鎮める』と解釈されています」


「『怒りを鎮める』とはどういう意味があるのか、楽観視する者達は議論することもありません。『滅ぼす』でも『封印する』でも『倒す』でもないのですよ?そんな不可解極まる伝説や予言を、彼らは光一郎様に一方的に押し付けて、のほほんと生きているのです」




ノマドさんはどんどんヒートアップしていく。


祖父の苦難を間近で見ていたから、無責任な人達が許せないのかもしれない。


「私は光一郎様の遺言でなければ、坊っちゃんを彼の世の問題に巻き込みたくはありませんでした」


そう言ったノマドさんは、自分で言った発言に驚いたような顔をした。


「………しかし、今冷静になって考えれば、私も光一郎様を崇拝し、盲目になっていたのかも知れません。結果、坊っちゃんを巻き込んでしまいました」


「私も彼らと同罪ですな………。今となっては光一郎様が亡くなられた時に、現世と繋がる扉を閉め、鍵束を処分してしまえばこんなことには………」




「ノマドさん、ちょっと僕の話を聞いて────」


僕は自分を責め続けるノマドさんの話を一回ストップさせた。




「ノマドさんの昔話を聞いた小さい頃の僕が何て言ったか覚えてる?」


「僕は大きくなったら、同じように冒険がしたいって言ったはずだよ。祖父もそれを聞いて凄く喜んでたよね。それは鮮明に覚えているよ」


祖父、光一郎が目を細めて笑いながら頭を撫でてくれたことを思い出した。


「────その気持ちは今も変わらないよ」

小さい僕が初めて将来の夢を持った瞬間だったかも知れない。



「冒険の事を考えると、鼓動が高鳴るんだ。………今僕はワクワクしているんだよ。遊び半分や、生半可な覚悟では務まらないのはノマドさんの話を聞いて理解しているつもりだよ」


「────見て見ぬふりをするか、誰かのために困難に立ち向かうか、どちらをとるか?………僕には光一郎の血が流れているんだよ。ここまで首を突っ込んだんだからさ、後に退けるわけないじゃない?」




そう言った僕をノマドさんは眩しい物を見るかの様に目を細めた。


「失礼いたしました。輝坊っちゃん、逞しく成長されましたな………」


ノマドさんはにっこりほほえんだ。


「『坊っちゃん』と呼ぶのはもう失礼ですな………これからは輝様と呼ばせていただきたいと思いますが、よろしいですかな?」




「うん、照れ臭いけど、男として認められたみたいでうれしいよ」

気恥ずかしくて、どこかくすぐったいような───そんな感覚だった。


ノマドさんに一人の男と認められた今の気持ち、きっと一生忘れないと思うよ。

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