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87話―復讐者たちの夜明け

「復讐か。つまらん。そんなつまらぬ理由で、我らの戦いに決着をつけるつもりか?」


「つまらねえだと? てめぇ……」


 やれやれと言わんばかりにかぶりを振り、ゼルガトーレは二人を小バカにする。怒りに身を任せて飛びかかろうとするシャスティを、ディアナは手で制止した。


「残念ですが、手の内はほぼ全て割れていますよゼルガトーレ。何のために私が三百年も地の底へ籠っていたと?」


「知らないな、そんなことは。どうでもよいことだ、全てな! ここで滅びるがいい! 邪戦技……苛刺縛の刑!」


「シャスティさん、来ますよ。迎え撃ちましょう」


「任せな!」


 ゼルガトーレは素早く後退し、距離を離しつつ左手を前方に向ける。すると、手のひらから四本の黒いイバラが伸び、ディアナたちに襲いかかる。


 二人は左右に別れ、イバラに向かってそれぞれの得物を叩き付け破壊していく。その様子を見ながら、ゼルガトーレはこっそりと大鎌に魔力を流し込もうとするが……。


「おっと、そうはさせない!」


「くっ、チィッ!」


 それを目敏く見つけたディアナは、鉄鎚の先端に取り付けられている鎖付きの鉄球を射出して妨害を行う。無事妨害を成功させた後、鎖を巻き鉄球を戻す。


「猛毒の魔法を付与するつもりだったな? ですがムダなこと。言ったはずでしょう、この三百年、教会を、お前を見てきたと。お前のやろうとすることは、全て知っている!」


「本当にそうかな? ならば……これも分かるはずだろう?」


 ゼルガトーレが左腕を振ると、イバラにビッシリと生えているトゲが弾丸のように発射される。それを見たシャスティは、素早く前方に飛び出した。


「下がりなディアナ! 戦技、トルネイドハンマー!」


「ええ。では、背後から来るトゲは私が受け持ちます。ハッ!」


「んなっ!? 後ろからも来んのかよ!」


 縦横無尽にハンマーを回転させてトゲを叩き落としているシャスティの背中に回り、ディアナは背後から攻撃してこようとしていたトゲを叩き潰す。


 それを見たゼルガトーレは、舌打ちをしつつイバラで二人を絡め取ろうとする。が、トゲを射出したことが仇となり、ディアナにイバラを掴まれてしまう。


「貴様……! これすらも予期しているのか!」


「お前が理解するまで、何度でも言ってやるぞゼルガトーレ。お前の手の内はほぼ全て割れていると。三百年の間、転生を繰り返すお前の全てを私は監視してきた。いつの日か、この手で絶望を与えるために」


「絶望、だと?」


「そうだ。己の用意した策の全てを、敵対者たる私たちに涼しい顔で台無しにされ、ことごとく叩き潰され……怒りと屈辱に顔を歪めるお前を見て嘲笑うためにな! 戦技、キャノンボールハンマー!」


 そう叫ぶと、ディアナは再度鉄球を発射する。ゼルガトーレは蹴りを叩き込んで鉄球の軌道を反らし、ディアナの喉元へ大鎌の刃を振るう。


「絶望? お前たちがそれを私に味わわせることはない。それが出来るのはただ一人。我らが大教祖、偉大なるガルファランのみ!」


「へぇ、本当かよ? それが本当なのか、アタシらが確かめてやるよ! 戦技、ビッグバンスタンプ!」


「ぐうっ……!」


 ディアナの頭の上を飛び越え、シャスティは勢いよくハンマーを振り下ろす。ゼルガトーレは咄嗟のことに対処出来ず、直撃を食らい床にめり込む。


「っしゃあ! ざまぁみやがれ!」


「シャスティさん、まだです! そいつはまだ動ける!」


「ぐっ……この、メスガキが! 邪戦技……サイスベルダウン!」


「うおっ!? てめえ、放しやがれ!」


 絶命したかに思われたゼルガトーレだったが、なんとハンマーを押し退け立ち上がってきた。そのままシャスティの方へ手を伸ばし、顔面を掴む。


 そのまま首もとに鎌の刃を引っ掛け、両断しようとする。


「まずは貴様から死ねぇ!」


「そうは……いくかよ!」


「むうっ!?」


 大鎌が引かれる直前、シャスティは素早くゼルガトーレの右腕を蹴りつけて鎌から手を放させる。相手が一瞬怯んだ隙に腕を掴み、体重をかけて床に着地し、そのままゼルガトーレを後ろへ投げた。


「うおらあああ!! やれ、ディアナ!!」


「流石です、シャスティさん。では、遠慮なく行きますよ。戦技……スパイラルチェーン・ブレイク!」


 ディアナは再度鉄球を発射し、今度はゼルガトーレの身体を鎖で縛り付ける。そして、勢いよく柄を振り下ろして床に叩き付けた。そこへ追撃の鉄球が直撃するが……。


「今度こそ死んだか?」


「いえ、まだです。ゼルガトーレは、分身たる枢機卿が一人でも生き残っている限り、奴らを身代わりにして死を免れることが出来ます。枢機卿は九人、これまでに死んだのは五人……」


「つまり、こいつを後五回ぶっ殺せばいいんだろ? いいねえ、好きなだけ恨みを晴らせるってもんだ!」


 ニヤリと笑いながら、シャスティはそう口にする。かつて帝都大火災を引き起こし、最愛の母を奪った男を殺したくてうずうずしているのだ。


 鎖が巻き取られ、少ししてゼルガトーレが立ち上がる。すでに二回死に、全身は己の血で真っ赤に染まっていた。


「ここまでやられるとは……正直、計算外だった。それに、我が最大の秘密まで看破されているとはな」


「ああ、ようやく理解出来たのか。だいぶ頭が鈍いな、ゼルガトーレ。だから何度も言ったのに。三百年の間、お前を監視してきたと。枢機卿を使った身代わりなど、もう見飽きた」


「ならば、もう見なくとも済むようにしてやる。貴様らを殺してな! 邪戦技、夢幻乱舞刃!」


「なんだ? 奴の身体がブレて……!?」


 本気を出したゼルガトーレの身体から、万華鏡のようにいくつもの分身が現れる。次々と増殖しながら、十人を越えるゼルガトーレたちは一斉に攻撃を開始した。


「さあ、夢幻の刃にバラバラに切り裂かれるがよい!」


「チッ、面倒くせえ……な!」


「シャスティさん、十分耐えてください。十分すれば、私たちが勝てます」


 波状攻撃を仕掛けてくるゼルガトーレたちを捌いているシャスティ。そこへ、隙間を縫って近寄ってきたディアナがそう耳打ちしてくる。


 何故十分だけでよいのか、そもそもどこからその自信と確信が湧いてくるのか。疑問は山ほどあったが、シャスティは信じることにした。


 ディアナの言葉を。


「……分かった。キッカリ十分だな? なら、全然問題ねえ!」


「ありがとうございます。では、私は一旦後ろへ。準備をしなければなりませんので」


「任せときな! 戦技、トルネイドハンマー!」


 玉座があった場所へ下がったディアナは、魔力を練り上げ何か魔法を使おうとしているようだ。かなりの量の魔力をチャージしなければならないようで、額に汗が浮かんでいる。


 シャスティはディアナを守るように立ち塞がり、全ての攻撃を引き受ける。そんなシャスティに向かって、ゼルガトーレが大声で叫ぶ。


「そこをどけ! これ以上、あの女に我が策略の邪魔をされてなるものか!」


「嫌だね。誰がてめえの言うことなんて聞くかよ。おフクロが死ぬ原因を作った奴の言葉なんざ、ドブほどの価値もねえ! 戦技、フルスイングホームラン!」


 シャスティは全力を込めてハンマーを振り抜き、ゼルガトーレの分身たちを一気に四人ほど薙ぎ払い、叩き潰す。それでも分身の増殖速度の方が高く、すぐに数の優位を取り戻されてしまう。


「諦めろ。お前たちが何をしようがムダだ。復讐は果たせない。ほら、大鎌がお前の命を刈り取るぞ!」


「つっ……! 舐めんな!」


「ムダだ。どれだけ潰しても、私は増え続けるのみ!」


 大鎌の刃が頬を掠め、一筋の傷痕を残す。痛みに顔をしかめながらも、シャスティはハンマーを振るい続ける。すでにゼルガトーレは二十人ほどに増え、もう手がつけられない。


 数の暴力で蹂躙しようと、ゼルガトーレは大鎌を振り回し斬撃を繰り出す。少しずつ傷が増えていきながらも、シャスティは決して後退しなかった。


「何故退かぬ? このままでは、貴様は死ぬぞ?」


「死ぬ? そんなのごめんだな。せっかく、アゼルに貰った命をみすみす捨てるようなこたぁしねぇ。てめえをぶっ殺して、復讐を果たす。そんで、アゼルを助ける。それがアタシの使命だ!」


「それは不可能だ! 死ねぃ!」


「! ヤベッ、ガードが間に合わ……」


 一瞬の隙を突き、ゼルガトーレはシャスティの心臓目掛けて大鎌を躍らせる。防御も間に合わず、万事休すかと思われた、その時。


 信じられないことが起きた。大鎌が、シャスティの身体をすり抜けていったのだ。


「なん、だと!?」


「おいおい、どうなってんだよこりゃ。まさか……ディアナ?」


「……ええ。二人分の身体を霊体にするのは……だいぶ骨が折れました。でもまあ、これでもうゲームエンドですよ」


「霊体……? まさか、貴様!」


 何かに気付いたゼルガトーレは、分身を総動員してシャスティとディアナを切り刻もうとする。しかし、大鎌は二人の身体をすり抜け、全く傷を与えられない。


「ムダですよ、ゼルガトーレ。私は自身とシャスティさんの肉体を、魂と融合させ……一時的に霊体(レイス)へ変えました。もう、お前の攻撃は通じない。全て、ね」


「ああ、なるほど。その準備のために時間稼げってことだったのか」


「そういうことです。では……処刑しましょうか。悪しき者を」


「……ああ!」


 互いに笑い合った後、二人は瞬く間にゼルガトーレの分身たちを駆逐していく。攻撃が効かない以上、もうゼルガトーレに出来ることはない。


 ……いや、一つだけあった。シャスティとディアナに、死を以て裁かれること。それだけは、出来るのだ。


「あり得ぬ……こんな、こんなことが……」


「ここまで殺し尽くせば、もう身代わり戦法は出来ない。さらばだ、ゼルガトーレ。今こそ……仇を討つ時!」


「ああ。いくぜディアナ! 合体戦技……」


「……デストラクション・ハンマー!」


「ま、待て! やめろ、やめ……がはっ!」


 分身を全て失い、さらには枢機卿を用いた保険も使いきった。シャスティとディアナの振るう、復讐の戦鎚に前後から挟み潰され、ゼルガトーレは……ついに、沈黙した。


「地獄の底で……謝罪するがいい。お前が殺した者たち、全てに」


 今……二人の復讐が、完遂された。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幾ら増えても二人がハンマー持ってる以上モグラ叩きの様に潰されるだけだな(ΘдΘ) 今頃、地獄が忙しくて闇寧神が逆ギレしてたりして (ーー; 闇寧神、だー!!テメーら死にすぎだ!それも揃いも…
[一言] >「復讐か。つまらん。そんなつまらぬ理由で、我らの戦いに決着をつけるつもりか?」 ―――お前には分からないだろうな。 大切な人を殺された者の怒りと悲しみが、どれ程のものなのか。 大切な人を…
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