46話―裏切り者は誰だ?
「裏切り者が……本当に、いるんですか?」
「ああ。そうとしか考えられない。ソウルユニゾレイターを封印している地下倉庫に入れるのは、私と校長とその秘書、教頭、各学年別主任の教師のみ。その中に、いるだろう。裏切り者がな」
アゼルの問いに、ラーブス理事長は確信を持って答える。そして、ふうと息を吐いた後、続きを話し出す。
「幸い、明日から二日は安息日。生徒たちのことを気にせず、教師たちに聞き込みを行える。襲撃のあった日、どこで何をしていたのか。全ての容疑者たちの行動を洗い出す」
「その手伝いを、ぼくたちがすればいいのですね?」
「ああ。裏切り者を見つけ次第、拘束して目的を吐かせる。この二日が勝負だ。ここを逃せば、取り返しのつかない事態になる……どうも、そんな予感がするんだよ」
ラーブス理事長は真剣な表情を浮かべ、そう口にする。いまだかつてない危機が迫ってきていることを悟り、セルベルですら真顔になっていた。
「分かりました。明日、みんなで手分けして先生たちに聞き込みを……」
「いえ、その必要はありません。私たちに一人、心当たりがありますから」
その時、理事長室の扉が開く。中に入ってきたのは、デューラをはじめとした生徒会の面々であった。彼女らを見て、アゼルたちは目を丸くする。
「デューラ、何用だ? 今、私は真剣な話を……」
「ごめんなさい、お父様。アゼル先生のお見舞いをしようと探していたら、ここから声が聞こえたので……」
「……全く、お前は。で、今心当たりがあると言ったが、どういうことだ? 詳しく聞かせてもらおうか」
呆れてため息をつきながら、ラーブス理事長はデューラに問いかける。どうやら、生徒会の面々は裏切り者について何かを知っているようだった。
たいしたことは知っていないだろうが、手がかりが得られる可能性があるならば……と、デューラの話に耳を傾ける一同。そして、彼女の口から、驚くべきことが語られる。
「……あの時、先生たちに先んじて侵入者を倒してやろうと授業棟へ向かう途中で見たのです。資料棟の中に入っていく、メイディさんの姿を」
「ブヒッ!? バカな、有り得ませんよそんなこと。彼女はワシと一緒に校長室で指示を出していましたから」
「でも、見たんです! あの後ろ姿は、間違いなくメイディさんでした! それに……」
「それに、なんだ? 何か言いづらいことでもあるのか?」
驚くセルベルに反論していたデューラは、突然言葉を濁してしまった。ラーブス理事長が先を話すよう促すと、今度は副生徒会長のコリンズが話し出す。
「俺たちを殺して喰って回ってた闇霊に捕まった時、家庭科室に連れてかれたんですが……そこに、いたんです。メイディさんが」
「なに? どういうことだ……メイディが二人いるということか? どうにも要領を得んな……」
セルベルとデューラたち、どちらの証言が正しいのか、アゼルたちは混乱してしまう。本当にメイディがセルベルと共にいたのか、それとも何かしらの方法で二ヶ所同時に存在したのか?
「このまま考えていても仕方ありませんね。こうなったら、無礼を承知で本人に聞きに行きましょう」
「その方が手っ取り早い、な。申し訳ないが、私と一緒に来てほしい、アゼル殿。セルベル校長、万一の時に備えてデューラたちを宿舎まで送りなさい」
「ブヒッ、かしこまりました」
しばらく悩んだ末、本人を問い質した方が早いという結論になり、アゼルとリリンはラーブス理事長と共に校長室へ、それ以外は宿舎へ帰ることとなった。
道中、帰りが遅いのを心配して探しに来たシャスティやアンジェリカと合流し、事の仔細を説明しつつ一行は校舎の中を歩いていく。
「ほーん、裏切り者ねぇ。そんな大事になってるたぁ思わなかったな。だいぶヤバそうだ」
「ええ。この学院は、わたくしにとって大切な母校。なんとしてでも、裏切り者を見つけ出さなければなりませんわ!」
呑気なシャスティとは対照的に、アンジェリカは気合い十分なようだった。校長室にたどり着き、扉を開けようとするが……。
「ん? 内側から鍵がかかっているな。基本校長室の扉を施錠することはないのだが」
「開かねえのか? なら、アタシに任せときな。こうやって、ちょちょいのちょいで開けてやる」
扉が閉ざされていることを訝しむラーブス理事長に代わり、シャスティが校長室の入り口に近付く。修道服の中をごそごそやった後、ピッキングツールを取り出し鍵穴に突っ込む。
「シャスティお姉ちゃん、いつのまにそんな器用なこと出来るようになったの?」
「あの双子ゴブリンから暇潰しに教わったんだよ。覚えといて損はねえからな……っと、開錠出来たぜ。これで扉も開くはず……うおおっ、あぶねっ!?」
しばらくカチャカチャやった後、カチンという音と共にロックが解除された。シャスティがドアノブを回そうとした次の瞬間、扉を突き破り剣が飛び出す。
間一髪、しゃがんで攻撃を避けたシャスティはそそくさと後退し、アゼルの元に戻る。手応えがなかったことに気付いたのか、剣は扉の向こうへと戻っていった。
「な、なんだったんだ今のは。もうちょっとでグサッといくとこだったぞ!」
「……どうやら限りなく黒に近いようですね。少なくとも、メイディさんかどうかに関わらず、中にいる人はぼくたちに激しい敵意を持っているようです」
ギリギリで難を逃れたシャスティを横目に、アゼルはそう口にする。扉のロックが解除された直後から、邪悪な気配が校長室の中から放たれはじめていた。
「アゼルよ、どうする? こちらから飛び込むのは危険だ。どんな罠が張り巡らされているか分かったものではないからな」
「そうですね、まずは偵察をしましょう。サモン・ボーンビー……えっ!?」
「な、なんだこれは!? 扉の中から腕が!」
「わああああああ!!」
校長室の中を探ろうと、アゼルは骨のハチを創り出す。早速送り込んで内部がどうなっているのか確認しようとしたその時、扉が開け放たれ無数の腕が伸びてきた。
扉の中は異次元空間になっているらしく、様々な色が混ざりあった不気味な光景が広がっている。腕はアゼルたちを掴み、異空間へ引きずり込んだ。
「うう……あれ、みんなどこに行ったんだろう……。それに、ここは一体……」
アゼルが目を覚ますと、見覚えのない草原に倒れていた。周囲にリリンたちの姿はなく、自分とボーンビーしかいない。キョロキョロ周囲を見渡していると、声が響く。
『お目覚めですか、アゼルさん。ようこそ、我が世界へ。歓迎しますわ』
「この声……やっぱり、メイディさんなんですね? ビルギットたちを引き入れた裏切り者は」
感情を感じさせない落ち着いた声を聞き、アゼルは不自然にまでに青い空へ向かってそう問いかける。すると、青空に亀裂が走り、引き裂かれた隙間から二つの目が覗く。
『ええ、その通り。メイディという名は、この学院に入り込むための仮の名前。我が名はレナスター、灼炎の五本槍の一角。死ぬ前に覚えておいてくださいね? アゼルさん?』
どこか小バカにするように、メイディ……否、レナスターはそう口にする。上空に空いた亀裂を睨み付けながら、アゼルは大声で叫ぶ。
「あなたたちの目的はなんです! どうしてソウルユニゾレイターを盗んだのですか!」
『それを知る必要はありませんよ。どうしても知りたいというのなら、私を倒してみなさい。もっとも、私を探し出すことが出来れば、の話ですが。その前に……死ぬことになるでしょうがね』
嘲笑するかのように答えた後、亀裂の中からもやに包まれたなにかが落ちてきた。もやが消えていくなか、アゼルが見たものは……。
「!? そんな、どうして……。有り得ない、どうしてあなたがここに……」
「久しぶりだな、アゼル。最後に会ったのは凍骨の迷宮か。ゴミのクセに一人前ツラしやがって」
「……ダルタスさん」
もやが晴れると、アゼルの前にはダルタスが立っていた。黒光りする禍々しい鎧に身を包み、背中にはノコギリのような形状をした巨大な剣を背負っている。
「俺は帰ってきたんだよ。お前をぶっ殺して、復讐するために……暗い迷宮の底からな!」
アゼルを見つめ、おぞましい笑みを浮かべながらダルタスはそう叫ぶ。もう二度と出会うはずのなかった二人の、戦いが始まろうとしていた。




