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22話―第ゼロ種接近遭遇警報

 ムルから贈り物を貰った翌日。アゼルたちはリリンの冒険者ランクを上げるため、ギルドのエントランスで手頃な依頼がないか探していた。


 いつまでもアゼルたちとリリンの間にランクの隔たりがあっては、今後の冒険者活動を行う上で結構な支障が出てしまう。そこで、まずはランクC昇格を目指すこととなった。


「わあ……流石冒険者ギルド本部ですね、依頼がいっぱいありますね」


「おうよ。毎日ざっと百は越える依頼が寄せられてんのさ。アタシらとしちゃ、おまんまの食いっぱぐれがなくて大助かりだ」


 依頼受け付けボードに貼り出された大量の依頼書を眺めつつ、アゼルとシャスティはそんな会話をしていた。一方、リリンはアゼルに寄ってくる悪い虫の排除を行う。


「あのー、よかったらアゼルくんとパーティー……」


「今日はならん。私たちと依頼をこなす予定だからな。日を改めて出直してこい」


「じゃあせめてちゅー……」


「ならんわ!」


 リリンがアゼル目当てに寄ってくる女性冒険者たちを牽制している間、シャスティたちはいくつか難易度の低い依頼を見繕いカウンターに提出する。


「すみません、シャスティお姉ちゃんの名義でこれとこれとこの依頼を受注したいのですが……」


「はーい。あら、全部討伐系の依頼ね。まあ、その方が早く実績ポイントも貯まるものね。じゃあ、手続きしておくわ」


 アゼルたちが選んだのは、魔物討伐の依頼であった。一纏めにして済ませられるよう、同じダンジョンに生息している魔物たちをセレクトしてある。


 悪い虫の排除が終わったリリンが受け付けカウンターに現れ、アゼルに質問を投げ掛けた。


「アゼルよ、先ほど言っていた実績ポイントとはなんぞ?」


「えっとですね、依頼を達成すると難易度に応じてポイントが得られるんです。そのポイントが一定の数値になると、ランクアップ試験を受けられるんですよ」


「ちなみに、採取系の依頼より魔物の討伐や商隊の護衛なんかの依頼の方が得られるポイントが多いんだぜ。ま、リリンのランクじゃ護衛依頼は受注出来ねえけどな」


 質問を受け、アゼルとシャスティが詳細を説明する。現状、Eランクのままでは高ランクのアゼルたちと同じ依頼を受注出来ない。最低でも、Cランクは必要だ。


 そこで、とにかく片っ端から魔物討伐の依頼を達成し、さっさとDランクへランクアップするためのポイントを稼がなければならないのである。


「もし今のランクと実績ポイントを確認したければ、ギルドカードに魔力を込めれば見られますよ。はい、手続き完了しましたのでこれを持ってってください」


「これは……黒ドクロの水晶?」


「ええ。依頼の目的地であるロランティマ洞窟で、最近闇霊(ダークレイス)の出没が確認されたの。念のために、その水晶を持っていって。闇霊(ダークレイス)が近付いてきたら教えてくれるから」


「分かりました。受け付けのお姉さん、ありがとうございます」


 黒ドクロの水晶を受け取り、アゼルたちは早速依頼をこなすため帝都を出発する。街から東に十キロほど歩いた場所に、人気のない洞窟がある。


 ロランティマ洞窟と呼ばれるダンジョンには、今回の討伐対象であるオークやジャイアントバット、レッサーデーモンが数多く生息しているのだ。


「さあ、着いたぜ。ロランティマ洞窟なんて、ルーキーの頃に来た以来だな。なつかしーぜ」


「……だいぶジメジメしているな。肌に悪そうだ」


 ギルドが運営している乗り合い馬車を使い、洞窟の入り口までやって来たアゼルたち。懐かしそうに呟くシャスティとは対照的に、リリンは嫌そうな顔をしていた。


「あーん? さてはリリン、おめービビッてんな?」


「あ゛? 舐めたことを抜かすな駄牛が。この程度の洞窟、私が恐れるわけなかろうが。ほれ、さっさと行くぞ」


 シャスティに焚き付けられ、リリンは先頭に立ってロランティマ洞窟へ入っていく。確かに、この洞窟に注意すべき魔物()いない。


 しかし……邪悪なる暗黒の霊は違う。洞窟に潜む悪意が、音もなく忍び寄ってきていることを、アゼルたちはまだ知らなかった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「……うふふー。来たわねー、おバカな冒険者さんたちが。ちょーどいいわ、例の末裔のがきんちょを始末する前のウォーミングアップしてもらいましょー」


 全四階層あるロランティマ洞窟の奥深く、小部屋になっている箇所に一人の女がいた。アゼルを狙う霊体派のネクロマンサー……『ねじれの魔女』ビアトリクだ。


 洞窟に入ってきた者たちの気配を察知し、虐殺しようと動き始めた。……もっとも、やって来たのが標的であるアゼルたちだとはまだビアトリクも知らなかったが。


「さてとー。まずはこのゼロ式霊魂剥離薬を飲んでーっと……」


 そう呟きながら、ビアトリクは身に付けている灰色のローブの中から、これまた灰色に濁った液体が入った魔法瓶を取り出す。


 そして、蓋を開けて一気に液体を飲み干した。すると、ビアトリクが仰向けに倒れ小刻みに痙攣し出した。


「あはっ。いいよいいよ、身体から魂が引き剥がされてくこの感覚……ちょー気持ちいい♥️」


 そう口にした直後、魔女の身体からドス黒い霊魂が湧き出てきた。肉体から離れ、霊体となったビアトリクは洞窟の天井をすり抜け、アゼルたちのいる上層を目指す。


 アゼルとビアトリク。相容れることのないネクロマンサーたちが、邂逅を果たそうとしていた。



◇―――――――――――――――――――――◇



 その頃、ロランティマ洞窟一階にてアゼルたちはオークの群れと戦っていた。リリンの放つ雷の槍が、醜悪な豚の魔物たちを焼き尽くしていく。


「サンダラル・アロー! ……ふん、オーク程度では我々の敵にはならんな。まあ、ランク相応の魔物だからこんなものか」


「まあな。これでジャイアントバットとオークを規定の数倒したし、討伐完了の証に耳切り取って持って帰るぞ」


「はい、分かりました。スケルトン、よろしくね」


 アゼル率いる四体のスケルトンとシャスティは、馴れた手つきでオークの片耳を切り取り、収納用の空間魔法がかけられたポーチにしまう。


 リリンも嫌々ながら短剣を使い、オークの耳を回収していた……その時。


『警告! 警告! 闇霊(ダークレイス)『ねじれの魔女』ビアトリク接近! 警戒セヨ! 警戒セヨ!』


「! おいおい、早速おいでなすったのかよ。しかも、()()ビアトリクか……」


 ヒモでアゼルの腰に結わい付けられていた黒ドクロの水晶が、突如としてけたたましい叫び声を発した。闇霊(ダークレイス)の接近を感知し、警告しているのだ。


 迎撃する準備を整えよ。それが叶わぬのならば、即座にその場から逃げよ、と。


「なんだ、そのビアトリクとやらは。有名なのか?」


「……ええ。ビアトリクは霊体派のネクロマンサーの中でも、最近特に悪名をとどろかせている指折りの危険人物です」


「ギルド本部じゃ有名な闇霊(ダークレイス)さ。帝都近隣のダンジョンを転々としながら、哀れな獲物の全身を()()()()イカれた女だ」


 冷や汗をかきながらそう説明する二人を見て、リリンは気を引き締める。次の瞬間、洞窟の奥から黒い光線が飛来し、リリンの身体に直撃し不気味な紋様を刻む。


「なんだ、この紋様は……」


『はぁーい。最初の犠牲者ちゃんはー、あなたねー。それじゃ、さよーならー』


「な……がっ!」


 抑揚のない、不気味な声が聞こえてきたかと思った直後、ひとりでにリリンの全身が百八十度曲がり、ねじ切られてしまった。不意を突かれたアゼルは呆気に取られていたが、すぐに我に返る。


「まずい、もうこんな近くに! ターン・ライフ! リリンお姉ちゃん、シャスティお姉ちゃん、すぐ逃げましょう!」


「く……アゼルよ、残念だかそれは無理なようだ。奴め、もう逃げ道を塞いでおるわ」


 アゼルは即座にリリンを蘇生し、ロランティマ洞窟から脱出しようとするアゼルだったが……唯一の退路は、すでに塞がれてしまっていた。


 洞窟の壁や床、天井をすり抜けてビアトリクが姿を現したからだ。


「あれー? なんだー、例のがきんちょじゃーん。こりゃーいいや、すぐに殺せるねー」


 真っ直ぐアゼルを見ながら、ビアトリクは不気味な微笑みを浮かべる。ねじれの魔女の手には、禍々しい気配を放つ球体関節人形が握られていた。


「……アゼル、こうなったらやるしかねぇ。あのクソ女を倒して、ここを脱出するぞ」


「はい!」


 生死を賭けた戦いの幕が、上がった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これでリリンは二度目の死を体験しちまったようだな……。 それはそれとして、ちゅーぐらいは認めてもいいやんk(サンダラル・アロー
[一言] なるほどこれが霊体派のやり方か(ーー;霊体になれば基本殺りたい放題できるしな( -д-) 並みの戦士職では文字道理歯が立たないからなでも霊体で好き放題やってたら本体が野ざらしではないか?((…
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