4.女神のわざ
女神さまの両手が、ぼう、と光ると、煙のようなものが地面から立ち上がり、1メートルぐらいの何かの影が女神さまの前に現れた。
おっ、なんか魔法っぽいぞ。なんだ、形は・・・、頭と手足があって、どうも人のかたちのようだ。何か新しい神様でも召喚したのか。煙が風に流されて、次第にその影がますますくっきりとしてくる。
うん? 裸? 胸がちょっとふっくらとしていて・・・裸の女?
顔は・・・あ、あっ、「あの人」の裸のマネキンじゃねえか!しかも相当にリアルな。
「ふー、できあがり、と」
「ちょっと、何なんだ、これ」
「なによー。あなたのお望み通りの彼女を出してあげたんじゃないの!」
「何でわざわざあの人で、しかも、裸のマネキンを出してんだよ!」
「だって、ずっと会いたかったんでしょ」
「俺の夢を壊すな!じゃなかった。こんな彼女に会いたいわけじゃないんだよ!」
「ふふふ、冗談、冗談、わかってるって」
女神さまはそう言って、あの人のマネキンの頭をぽかりと叩くと、ポンっと音を立てて、マネキンは姿を消した。
「その消し方やめろー」
「しょうがないじゃん。こうしないと消えないんだから」
「胸が悪くなるわ」
「まあまあ、落ち着きなさい、若者よ。私が神様だってことは信じてもらえたでしょ」
「あんたが神様でも変態なことだけはわかったよ。」
「変態だなんて失礼ね。でも、もう話は早いわ。さあ、この件は脇に置いておいて、ちょっと、わたしのあとに着いてきて」
そういうと、女神さまは、とことこと本殿の後ろへ向かって歩き出した。
ふー熱いぞ。マネキンとはいえ、あの人の裸を見るとは。恥ずかしさのあまり、体が熱くてたまらない。まったく、なんてものを見せるんだ。
そんなことを考えながら、俺は女神さまの後を追いかける。女神さまの肩まで伸びた黒髪が歩くたびに左右に揺れる。そうして、小ぶりなお尻もまた左右に揺れるのがわかる。着物姿の女性の後ろ姿を改めて見たことはなかったが、これはなかなかいいものだ・・・。
いや、いかん、いかん!何を想像しているんだ。もうー、女神さまが変なものを見せるからだ。最低・・・。
本殿の後ろ側は崖のように岩が切り立っていて、その下に井戸がある。井戸は直径1メートルくらいの大きさだ。三方を板で仕切られて、その正面の板には字を崩した真っ白なお札が貼ってある。井戸のなかの外周は、小さな丸い河原石がいくつにも積み重ねたもので、ところどころ苔蒸して緑色をなし、古めかしい印象を与える。
この井戸自体の存在は知っていたが、俺はあまり足を運んだことはない。なんだか、ここの一画だけ漂う空気が違う気がして、近づきがたい雰囲気があったからだ。
女神さまはその井戸の前で立ち止まり、俺の方を振り返った。
「今から、君を中学三年生の修学旅行のときに戻してあげるわ。そしてあの子に自分の気持ちを伝えてきなさい」