表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1.よこしまなお参り

 実家に帰ると、必ず立ち寄る場所がある。それは地元の神社だ。大きな神社ではないが、恋愛成就の神様として、それなりに有名らしく、毎年、欲にまみれた若者たち(俺も含めて)が、初詣だけには熱心に参拝しているのを見かける。ふだんはがらんとして、あまり人気のない神社だが、そのときばかりは、境内から五百メートルくらい、ぐねぐねとした参拝客の長い列がさながら蛇のように伸びる。


 俺はどこにでもいるような普通の大学二年生(だと思っている)。たまたま、この神社が恋愛成就にご利益があるのを知ったのをいいことに、ある女の子との再会を求めて、帰省のたびに、その神社で神頼みをしている。


 だが、その願いが本当に叶うのかどうか、俺には皆目見当もつかない。なぜなら、そもそも俺の願いは今もって叶ってないし、実際に叶ったという奴の話もまったく聞いたことがない。恋愛成就にご利益がある、と騒いでいるのは、あくまでネット上だけの話だけだ。あの長蛇の列の若者たちも、もしかしたら案外ご利益は得られていないのかもしれない。実は、俺も最近では気休め程度にお参りしている。


 そうそう、ここにお参りに来る理由はそんな邪なお願いをするためだけじゃない。その神社にいると、不思議と心持ちが安らぐのだ。

 大学生の俺が言うのもなんだが、この世の中はあまりにもせっかちで忙しすぎる。みんな何かに追われているかのようにせかせかと歩き、時間をとかく気にして、ピリピリしている。俺の周りは、みんな当然のようにスマホを持っているが、メールやSNSの反応(そして一刻も早い返事をこいねがう)が気になり過ぎて、何かの中毒のように手放せない。そういう俺も、こうした弊害をわかっていながらやめられない始末だ。


 こんな世の中に身を置いていると、人間の心持ちは大いにれる。焦れると体がこわばりだす。すると、とたんに不安が波のように押し寄せてくる。そうして、しだいに心の中へおりが溜まり始める。

 

 俺はこの神社に来て、(よこしまな)お参りをしつつも、この神聖な空間に身を置くことで、そのたまり始めたおりを溶かすようにしている。ここの境内にながれる小川のさらさらとした音が耳に心地よいし、鳥居のすぐそばにある水琴窟の音を聞くのもまた一興である。さらに周りはうっそうとした杉林に囲まれていて、現世からの余計な音はほとんど聞こえない。この異空間のような場所は、俺にとって、パワースポットのようなものなのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ