4 初帰宅
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診療所から家までの距離はそう遠くなかったが気疲れのせいかとても長く感じた。
この国「シュメール王国」は前世でいう、古代フランスやスペインのような街並みで平民街には木造の建築物が多く見られた。
(アパートが一般的なのか……。しかし、暗いな)
電気が通っていないせいか月以外の明かりは感じられなかった。街の家々に火の光はなく夜になると住民は寝るだけのようだ。
「—平民の給料はどれくらいなの?」
「そうですね、月に銀貨二枚程度ですかね」
「銀貨は一枚でいくらなの?」
「小銅貨一枚で一メール、銅貨一枚で十メール、大銅貨一枚で百メール、銀貨一枚で千メール、大銀貨一枚で一万メール、小金貨一枚で十万メール、金貨一枚で百万メールになります」
平民が所持しているのは精々、銀貨三昧程度であろう。王が平民優遇政策を取る前はかなりひどい有様だったようだ。
「兵士の給料はいくらくらいなの?」
「月に大銀貨一枚くらいですわ」
(—少ないな……、日本のブラック企業でもここまでひどい所はないな)
この国の軍の階位は、兵士、騎士、魔術師、国家騎士、国家魔術師、王族直属聖騎士団の順で構成されているらしい。
戦争で、ある程度の活躍が認められれば兵士から騎士に昇格することがあるそうだが貴族に嫌われているこの体の持ち主はどれだけ活躍してもその功績は認められないとのことだ。
「なんだか悲しい世界だね」
「—そうですか?私はあなたと一緒に暮らせればそれで大変な幸福ですよ」
そうこうしているうちに家に着いた。そこは薄汚い木造のアパートだった。
「さぁ、中へ入りましょう」
「は、ハィ」
そこは学生のアパートのような広さで七畳ほどの大きさだった。
「お風呂に入りたいんだけど、すぐ沸かしてくれるかな?」
「お風呂とは何でございましょう?」
(しまった。この世界にはお風呂がないのか。湯浴びとか、水浴びとかいうのかな)
体はひどく汗臭く、髪もキシキシだった。しかし、向こうでは気がつかなかったがこの体はひどくイケメンで日本でいう斎○工のような顔つきで体はしっかりと引き締まっていた。
「これは彼女が惚れる理由もわかる気がするなぁ」
「なんとおっしゃいましたか?」
「あぁ、なんでもない」
「今、お食事の支度をいたしますね」
そして、彼女は台所に向かった。しかし、それにしても何もない部屋である。辺りには机と暖炉のようなもの、それに衣服を収めている箱のようなもの。
「かなりのミニマリストだったのか、ただお金がなかっただけなのか」
改めてよく見ると彼女は大変な美貌の持ち主だった。
そうこうしているうちに料理が食卓に並んだ。
「さぁ食事に致しましょう」
並んだ料理はどれも質素なものだった。食器もかなり痛んでおり、快適な暮らしとは無縁の存在だと感じた。
「あ、ありがとう……。わ、わぁ、美味しそう!」
やはりどれも味がしないものだったが僕自身の心が、ジートとしての心が美味しいと感じているみたいだった。
「明日は僕に料理させてよ!」
「そんな、あなたに料理をさせるなんて私の妻としての心が許しません!」
「いいんだ! せめてものお礼をさせてほしんだ」
「わかりました。では明日はあなたにお願いさせていただきます。楽しみですわ」
そうこうしてようやく異世界での一日目が終了した。いろんなことが一気に押し寄せたせいか、すぐに眠りにつけた。
「明日は初仕事か……。門の人たち良い人だったらいいな」
太陽が昇ればこの街がもっと良く見れるようになると思うと少し良い夢を見れる気がした。
しかし、そんな希望が儚く散りさることをハジメはまだ気づいていなかった。