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異世界モブキャラ転生日記  作者: 八知郎
第一章 王国救助編
4/7

3 シュメール王国



時刻は黄昏時を少し過ぎた辺りだろうか。

彼女の思わぬ返答に僕は未だ答えることができない。—なんと答えれば良いのかわからない。

—彼とは知り合って十二年になりますの。貴族だった私は毎日が地獄だった。

周りの人間は皆ご機嫌とりで誠意杯だった。

そんな中、彼は彼だけは私に普通の人間と同じように接してくださいました。

彼は貴族ではなく普通の平民でした。彼は私の全てを受け入れてくださいました。

しかし、そんな幸せの日々は長くは持ちませんでした。十五歳の時、彼と交際していることが父上様に見つかりました。

もちろん、父上様は猛反対で私を狭いお仕置き部屋に監禁なさいました。父上様に目をつけられた彼は家族ごと街を追い出されました。

そんな絶望の中、彼は私を地獄から連れ出してくださいました。

その日は雪が降り積もる真冬の一日だった。手足が霜焼けになりながら彼は私を連れ出してくださいました。そして、成人を迎えた私達は婚約し、ようやくこの街で幸せな日常を手に入れました。


「—そんなことが」

ハジメは知らなかった。ただのゲームであれば通常モブキャラに細かなストーリー設定などは存在しない。しかし、ここは発売されなかったゲームの世界。


—モブキャラ達が意思を持ち行動していたことはわかっているつもりだった。どんなにあっさり殺されてもどんなに登場する回数が少ないキャラクターでもこの世界では意思を持ち全ての命が等しく行われていることは理解していたつもりだった。

—この世界ではゲームのように死んでも生き返ることはないのだ。

それは、彼女の瞳を見ればすぐに理解できる話だった。

「だから彼が私の名前を間違えることは絶対にありえないの」

「––––」

ここでの考えられる言い訳は二つ。一つは転落による記憶喪失である。しかしその場合、転生したことを秘密にすることになる、ここで秘密にすれば言い出しにくくなることは確定事項だろう。

もう一つは転生したことを全て話し理解を求める方法だ。しかし、これはかなりのリスクが伴う、まず異世界転生物語のお決まり事として転生を話してはいけないという事。

それにそもそも信じてもらえる可能性が限りなく低いという事。

(転生を話そうとすると突然、暗いところから魔女らしき手が出てきて心臓を掴まれるかもしれないし、地下の大墳墓に飛ばされるかもしれない。ここは話さない方がいいだろうな)

彼女には申し訳ないが、ここは転生のことは秘密にしておこうと心に決めたのだ。

「—ねぇ!答えて!」

「—実は目覚めてからの記憶しかないんだ」

「そんな……」

彼女は俯いて顔を伏せ、青い綺麗な瞳から大粒の涙を流していた。

(ここで何の弁解もなしはマズイな……。少しフォローを入れないと)

「—だから!君と僕とのことを教えて貰いたいんだ。時間はかかるかもしれないが、いつかきっと記憶が戻る日が来ると信じて!」

(よし!ラブコメの定番、記憶喪失イベントにはこれが一番の模範解答だろう、変に相手を不安にさせても仕方ないからな)

ハジメは前世で恋愛とは全くの無縁だった。年齢=彼女いない歴のハジメにはもう恋愛アニメのセリフに頼ることしかできなかった。


「–––わかりました。あなたがそう仰るなら私もできる限りのことは協力致しましょう」

そう言うと彼女は袖で涙をぬぐい、ありったけの作り笑いでハジメにはにかんで見せた。

しかし、まだ状況を打破できたわけではない。これから彼女のことや仕事のこと、それからこの世界のルールなどを覚えていかないといけないのだ。

彼女は丁寧にこの世界のことや私たちのことを教えてくれた。

まず初めに僕たちが夫婦であること。貴族と平民による結婚のせいで貴族から怪しげな目で見られていると言うこと、年齢が二十一歳であると言うこと、仕事は兵士で主に門の見張りや通行書などを確認する仕事だと言うことなど僕たちに関わることを丁寧にできるだけ教えてくれた。


「–––なるほど、ある程度は理解できたよ。ありがとうね」


もし、子供から転生していたらこの世界のことをゆっくりと理解することができたかもしれない。しかし、話を聞くところによると、この体の男性は兵士でしかも立派な社会人であることから一刻も早く自分のことを理解し仕事へ戻る必要があると言うことだ。

彼女は一通りの説明を終えると涙はすっかり止んで先程までの端正な顔立ちに戻っていた。

「—本当はもう少し休むべきなのでしょうが、そうゆっくりとできないのが今のこの国の現状なのです」

「何かあったの……?」

「はい。この国は長年、隣国アルセール帝国と戦争を行っておりました。しかし、先月こちらの大規模な奇襲が決め手となり停戦協定を結びました。しかし、アルセール帝国は極悪非道な国であります。いつまた、奇襲を仕掛けてくるかわかりません。その為、門での見張りを強化しているのです」


「戦争か……」

異世界に転生し勇者になれば活躍して王族などに認められることができたかもしれない。

しかし、あくまでモブキャラだ。生きて帰れる方が珍しいだろう。

(モブキャラに転生した時点で戦争になると最前線で戦わされることは間違いないだろう。バトル物のお決まり事として、こういうキャラは真っ先に相手に切られる。魔法も剣も使えない今できることはどうやって生き残れるかだな)

「わかったよ。いつ頃、仕事に戻って欲しいって?」

「—できれば明日にも。と仰られていました」

「明日⁉︎」


彼女が言うには明日にも仕事に戻って欲しいとのことだった。職場関係を何も理解していないハジメにとっては困難を極める要望だった。

(仕方ない。記憶喪失を説明して最初は週一くらいでシフト入れてもらおう……)

「わかったよ。明日から復帰させてもらうと伝えといてもらえるかな?」

「そんな……。絶対に無理はしないでくださいね」

そう言うと彼女はゆっくりと立ち上がり「お伝えしてきます」と言い残し部屋を出て行った。

「しかしまぁ、転生二日目から兵士仕事とか付いてないな……。戦争がまた起これば間違いなく最前線行き確定だな」

そう言うとゆっくりと立ち上がり体に痛みがないことを確認した。 


 ハジメは前世でも大の運動音痴だった。その為、体育の成績は毎年「二」を積み重ねてきた、そんな彼がいきなり戦場に立てば間違いなく即死だろう。

「あーもう!死亡フラグ立ち過ぎだよこれ!」

「死亡フラグとはなんですの?」

「嫌なんでもないよ」

(危ない危ない、変に勘ぐられても困るからな……)

この国のことを詳しく説明する。

 

 —僕たちが今いる国はシュメール王国だ。昔から貴族と平民の格差が激しい国だったが先月、王様が突然、生まれ変わったかのように平民優遇の政策に切り替えたのだ。それにより国民たちはより一層、活気を取り戻し市場を賑わいを増したのだった。

 そのお隣の国がアルセール帝国だ。アルセール帝国は古来より奴隷文化が根強く残る国で今でも異種族の奴隷たちが闇市場などで高値で取引されているらしい。王様はガルーラという男で絵に描いたようなクズ男らしい。

 そして、そのまたお隣がカンペーニャ連合王国という国だ。ここは亜人やドワーフが多く暮らしている国で鍛治や炭鉱が盛んな国らしい。なんでもエルフの唯一の生き残りがいるという。

カンペーニャ連合王国は隣接三国ではもっとも広大な領地を保有している。

 一通り説明を終えると彼女はコップに残っている水を一気に飲み干した。

 「あの……ひとつ聞いてもいいですか?」

 「何かしら?」

 「—ベイリーさんもスマホってお持ちですか?」

 その質問に彼女は首をかしげると不思議そうな顔をしながら僕に返事をよこした。

 「スマホって何かしら?」

 そんな思わぬ回答にハジメは呆気を取られた顔をしながら彼女に現物を見せた。すると彼女は黒目を丸くして目を見開いてこう答えた。


 「何故、ジート様がそれを?」

 「目が覚めると、ここに置いてあったんだ。みんながみんな持っている物じゃないの?」

 「当たり前です! その魔道具は貴族の中でもほんのわずかな一級貴族しか使えない、とても高価な物なのですよ⁉︎」

 この国では、どうやら魔道具の一部として使われているらしい。なんでも時空を歪める聖なる手鏡と言われているらしい。


 「この魔道具ひとつであなたの兵士のお給料何ヶ月分になるか……。 考えるだけでも恐ろしいですわ!」

 現時点では何故この世界にスマホがあるのか調べるには情報が少なすぎる。その為、一旦この件は保留にすることにした。

「—しかし、魔力が使えないあなたに何故これが……」

 魔道具ということは当然、魔力を必要とするのだろう。その為、平民である彼がこのスマホを使うと周りからはおかしな目で見られることになる。

 

今はできるだけ目立つ行為は避けておきたい。それがこの世界にモブキャラとして生まれ変わった彼の宿命だろう。

「そ、そっか。ならこれは誰かの忘れ物かな? あははあはは」


 そういうと彼女は一瞬、睨みを効かせた目をしたがなんとか納得してくれたようだ。  


「それはそうと、あなた今日はうちに帰っても良いそうなのですがどういたしますか?」

「そうだね、今日はうちに帰らせてもらおうかな。 何か思い出すかもしれないし……」

「––そうですか。なら先生に報告してまいります」

そういうと彼女はゆっくりと部屋を後にした。

気づけば外はすっかり真っ暗になっていた。時間の流れる速度が違うのか随分と早く感じる。


「––異世界かぁ」

 考えてみれば腑に落ちない点がいくつもあった。まず、文明の発展が非常にまばらということ。貴族にしか使えないはずのスマホが何故か使えないはずの僕の手元にあったこと。考え出せばキリがないほどにたくさん出てくる。

 そう考えているうちに報告に出ていた彼女が戻ってきた。

「さぁ、帰りましょう! —私たちの愛の巣へ」

 こうして異世界での一日目がようやく終わった。これからやるべきことが山積みだ。

前世では平穏でなんの変哲もない街で暮らしてきた僕からすればこれからの毎日が楽しみで仕方なかった。

 –––そうして、僕たちは診療所を後にした。


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