第一話
今が何年の何月なのか知らない。
知っている人はいると思うけれど、この星では数少ないだろう。
きっと、このボロ宿の前で銃撃戦をしている連中もしらない。
この星で人間の姿を保っているのは貧乏な金持ちか変異体だ。
人間の姿を捨てたのはタダの貧乏人だ。
犬のような人間、トカゲのような人間、ゴリラのような人間、象のような人間。
なんの生き物なのか分からない人間も多い。
それにしても長い銃撃戦だ。まだ朝なんだからゆっくり寝かせて欲しい。
木製のベッドに藁を敷いてシーツをかぶせただけの、お世辞にも寝心地が良いとは言えないベッドで寝返りを打ち、毛布を頭まで被った。
この部屋、いや、この宿は木製で隙間だらけだから音がよく聞こえる。
昨晩は隣の部屋でお楽しみだったカップルがうるさくて眠れなかったから、せめて早朝のこの時間くらいはゆっくり眠らせてほしい。
ああ、僕は寝不足なんだよ。久しぶりのベッドなんだから眠らせ……て……
― ― ― ― ― ―
起きた時はすっかり銃撃戦も勝負がつき、日も高くなっていた。
寝ぼけまなこでベッドから降りて窓から外を眺めると、宿の前は真っ赤に染まっていた。
ここは二階だけど流れ弾が来なかったみたいだ。よくもまあ呑気に眠れたもんだな僕は。
僕はアレックス。荒れ果てた星・地球を一人で旅をしている。幸い人の形を保っている。
昨晩汲んでおいた桶の水で顔を洗い、回転式拳銃の手入れを始めた。
小型の拳銃で、長い回転部分と銃身の長さが同じくらいという変わった銃だ。
手入れを終えて服を着替える。
灰色のくたびれた革ジャンと保安官が被っているような帽子、ジーンズを身に着けて大きなショルダーバッグを肩から斜めにかける。
部屋を出て一階に降りると、緑のヘビのような肌をした体の大きな宿屋の主人が居た。
「ようボウズ。朝飯はもうねーが、早めの昼飯にするか?」
「ああ、そうするよ」
そう言うとすでに料理は出来ていたようで、すぐカウンターに出てきた。
「今朝はずいぶんと騒がしかったけど、縄張り争いかなにかか?」
「まあそうだな、チンピラのは縄張り争いみたいなもんだ。全員死んじまったがな」
カウンターに座って食べながら話しを聞いた。
縄張り争いをするなんて、この町は裕福なんだな。
ここの前に通った町は酷かった。食べ物はおろか水も無く、土は枯れて農作物も育たない。
そうでもないな。今はそれが当たり前の町だ。
この街が恵まれているだけで、一日に一回食事が出来ればいい方だ。
だから僕が持っている銃も貴重品だ。
「ごちそうさま。お世話になったね、もう行くよ」
「そうか、まあきぃつけてな」
宿の隙間だらけの扉をくぐり、血が乾いた赤い地面を歩く。
そういえば遺体が無い。もうバラされている頃だろうか。
宿の裏、馬小屋の中に隠しておいた車に乗り込み町を後にする。
売れる物は売ってしまったから車が軽い。ガソリンも満タンで予備のタンクも満杯だ。
さっきの町では色々な物が買えたから、しばらくは野宿でも大丈夫だ。
と、さっそくお出ましだ。
多分、僕が宿を出た時から後をつけていたんだろう。
バイクが二台と大型トラックが一台、土煙を上げて後を追いかけてくる。
面倒ごとは嫌だから逃げたいが、トラック大丈夫だけどバイクからは逃げ切れないだろう。
「先手を打つ……か?」